蜜吸のスズと白蛇のハル

緒方宗谷

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成長した愛は、相手を理解しようとする スズの話

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 いつもの事なので、この本を読んでいる皆さんは気が付いていると思いますが、ハルはお腹が空いて、本当もう死にそうです。
 このところ、スズは考えていました。何故ハルは鶏肉を食べるのでしょうか。自分の様に蜜をなめてくれれば怖くないのに、と思いました。
 蛇の里から帰ってきて以来、2人で食べるランチでは、彼女はいつも鶏肉を食べていました。それを見ると、スズは毎回「うえー」と嫌な顔をします。そんな自分を丸い大きな目で見上げて、ハルはハムハムと鶏肉を食べていました。彼女の事だから、全く気が付いていないのでしょう。
 スズは、お母さんにお手紙を書いて相談することにしました。母蛇に食べられたことを母鳥に話すとびっくりされるので、そこは黙っていることにします。そうバラに言ったら、「スズちゃんはとても優しい女の子だね」と褒めてくれたので、もう誰にも言いません。
 自分の羽を1本抜いて筆にして、スラスラと書いていきます。どうやら達筆なようです。
 ・・・・? どうやら達筆なようです? 手紙には何も書いてありません。墨汁を付け忘れたのでしょうか。いいえ、そうではありません。実はこの手紙、水に濡らして和紙に押し付けると、字が紙に写るのです。
 とても風流なお手紙でした。全部ひらがなで書いてありますし和紙に写すと左右逆で読みにくいのですが、変な知識のある子供です。手紙にはこう書いてありました。

 【へびはにくなの?】
 
 五・七・五か四文字熟語で書くことが出来れば、もっと風流? に見えなくもありませんが、漢字を書いたり歌を詠むのは難しくて出来ないので、簡単なひらがなです。全ての里で通じる文字です。

 「お父さん、スズから手紙が届いたよ」スズのお姉ちゃんが、居間にいるお父さんの所にやってきました。
 「どれどれ、読んでおくれ」
 「・・・うーん、何これ? 分かんない」
 長女がそう答えたので、台所からやってきた母鳥が代わりに読みました。
 
 【拝啓、お父さん、お母さん、お姉ちゃん、お久しぶりです。
  みんな元気でいますか? わたしは元気です。
  こちらは春の陽気で温かく、ご主人様のバラ様もとても良くしてくれます。
  毎日、美味しい蜜と朝露をいただいて、とても幸せです。
  さようなら。
  敬具】

 ここでもですか? どこをどう読んだら、こんな長文になるのでしょう。やっぱり、両親の愛情は空より広く、海より深いという事でしょうか。
 「うそ? 文字数違うじゃん!?」
 長女の反応は当然の反応でした。その横で口を開くお父さん。母鳥の話を聞いて答えるその言葉に、父鳥の妻への愛情がとても深いという事が表れています。
 「つまり、お友達の蛇の女の子が、なんで鶏肉を好んで食べるのかが知りたいと言うんだね。
  それは、自然の摂理と言うしかないよ。
  世界には草を食べる者もいるし、穀物を好む者もいるし、血を吸う者もいる。
  我々の様に蜜しか食べない鳥もいれば、魚を食べる鳥もいるし、肉を食べる鳥もいる。
  こればかりは、摂理の神様が定めた自然の法則と言う他ないな」
 「ん? お母さんの話にそんな話出てきたっけ?」
 2人は愛し合っているのですね。娘2人が、こんな旦那さんにめぐり会える事を願ってやみません。

 お母さんからの返信をバラに読んでもらったスズは、考えました。
 (肉といっても色々あるわね。
  ネズミとかカエルとか、他のを食べてもらうのはどうかしら)
 スズがハルを訪ねると、彼女はグッタリしていました。尋ねると、自分の為に肉食を止めて、花弁を食べて過ごしているというのです。うまく消化も出来ないし、体調がすぐれません。
 スズは弱ったハルを看病しながら、なぜこの子はこんなに鶏肉が好きなのか考えました。部屋中鶏肉だらけでしたから、鳥食なのかと思えるほどです。ですが、部屋を見渡したスズは気が付きました。沢山あった鳥料理が1つもありません。外にも鶏は吊るされていませんでした。
 そこまで自分の為に頑張ってくれているのだと感動したハルは、こう提案しました。
 「ハルちゃん、これからは卵を食べるのはどう? わたしはまだ卵を産めないけど、お母さんに頼んで、鳥の里から卵を送ってもらうわ」
 「本当? わたし卵大好きよ」
 ハルはとても喜んでくれました。鳥の里は蛇の里よりももっと遠いので、卵が届くまで時間がかかります。そこでスズは、バラに頼んで卵を手に入れてもらおう、と思いました。
 さっそく相談しに行くと、バラは快く引き受けてくれて、すぐに飛んでいきます。ちょうど麗らかな春の季節、多くの鳥達が観光にやってきていました。バラは自分の蜜やローズヒップと引き換えに幾つかの卵を産んでもらって、スズにあげました。
 スズは喜んでそれを受け取り、走ってハルのもとに届けます。蛇の姿で寝ていたハルは、スズにあーんしてもらって、全部の卵を丸飲みにしました。
 「美味しいわ」まったりハルが笑顔を見せます。「本当にありがとう、スズちゃん」
 「良いのよ別に、わたし達お友達じゃない」
 ハルはとても嬉しく思いました。体調が回復したハルとスズは、また一緒に遊びました。以前よりもとても仲良くなって、お手手をつないでお散歩もするようになりました。遂にハルの願いがかなったのです。
 スズにしても、食べられてしまうのでは、と内心ビクビクしてましたから、憂いが無くなってホッと一息。心の底から楽しく遊べるようになりました。
 「ねえ、ハルちゃん」スズが訊きました。「ハルちゃんは、いつもわたしの事大好きだって言ってくれるし、虫のような光を一生懸命集めてくれたり、虫を貰ってきてくれたり、食べられちゃったわたしを助けにわざわざお腹の中まで来てくれたり、今回はお肉を食べるのをやめてくれたり色々してくれたけど、どうしてそこまでしてくれるの?」
 「んー、スズちゃんが大好きだから」
 ハルは少し考えて、そう答えました。
 「どう好きなの?」
 喜んだスズが訊き返すと、今度は間髪入れずハルが答えます。
 「だってスズちゃん、美味しそうなんだもん。
  わたし、スズちゃんの事、食べちゃいたい位とっても可愛いと思っているのよ」
 ハルは、笑顔でそう言いました。
 「ギャー!! やっぱりやーよぅ!!」
 スズはハルの手を振りほどいて、飛んで逃げていきました。
 「あっ! スズちゃん飛べるようになったのね!? 良かったわね! わたし嬉しいわ!!」
 初めて飛べた日の思い出です。



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