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成長した愛は、相手を理解しようとする ハルの話
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ハルは考えていました。お母さんのお腹の中で久しぶりに握ったスズちゃんの手のひらは、ぷよぷよ柔らかくて、温かくて、お友達って良いなぁ、またお手手をつなぎたいなぁと思える手のひらでした。
初めて出会ったのは、まだ100歳にも満たない頃です。人間でいえば0歳でしたが、スズと遊んだ記憶は鮮明に残っていました。しっぽを持って、高い高ーいをしてもらったのです。
思い出とは美化されるもので、実際は、突然自分の前に現れた蛇にびっくりしたスズが、怒って尻尾を鷲掴みにして、ブンブン振り回していただけなのに。ハルにとっては楽しい思い出なのだから、幸せなものですね。
「どうしたら、もっと仲良くなれるかなぁ」
来る日も来る日も、ハルはベッドの中で考えました。
スズはハルの事が嫌いではありません。むしろたった1人のお友達として、とても大好きなのです。母蛇のお腹からの脱出劇で、一致団結して頑張ってから、特に心の距離は縮まり、もっと好きになっていました。
ですが、本質的にハルが苦手です。スズにとって、ハルのシーシーと音を立てて鞭打つ二又の舌は、とても恐ろしく感じられました。自分にはない牙も持っていましたし、いつか食べられてしまうのではないか、と心の奥底に不安を抱えていたのです。
この間、母蛇に食べられてしまいましたし、あながち考え過ぎとは言えません。ハルとはいつも追いかけっこして遊んでいますが、振り返ると、お腹を空かせた女の子が、大好きなおやつに駆け寄るような恍惚の笑顔で、自分めがけて走り迫ってくるのです。
蛇の里のハルのお家に遊びに行ったとき知ったことですが、彼女の大好物は鶏肉らしいのです。ネズミにしておきなさいよと思いましたが、遺伝なのかお父さんもお母さんも鶏肉好きでした。
ハルが虫のような光をプレゼントしても、虫をプレゼントしてもスズは全く喜びません。虫を食べない蜜食の小鳥なのですから、興味を持たないのも当たり前です。
この間実家で鈴虫を鑑賞したときは喜んでくれましたが、もう、1度聴いてしまったのだから、初めて聞く感動は与えられません。それに、あれほど美しい音色を奏でる虫はいない、とハルは思っています。コオロギの鳴き声も可愛くて面白いのですが。
ハルは考えていました。お夕食の時、実家から送られてきた鳥の水煮をハムハム食べながら。毎食毎食、鳥のトマト煮や、チキン南蛮、照り焼きチキン、鳥の骨付きもも肉のから揚げ、極めつけは雛の丸焼き。
お母さんが沢山送って来てくれるので、毎日毎日鶏肉を食べながら考えました。そして、遂にひらめきました。
「そうだ! スズちゃんは鳥だから、わたしが鶏肉を食べるのが嫌なんだわ!!」
と。鶏肉をモシャモシャ食べながら、言いました。
ハルは今後鶏肉を食べるのを止めると誓いましたが、部屋を見渡すと、お母さんから届いた鳥料理が沢山あります。外には血抜きした鶏がぶら下がっています。だから、スズは最近ハルのお家に近寄らないのですが、そこにはまだ気が付いていません。
精は宿っていないとはいえ、命があった生き物です。その命を食べるために奪っておいて捨てるなんて、失礼です。生や死への冒涜ですから、残さず美味しくいただくことにしました。
ハルはウロコを使って、母蛇に手紙を書きました。
【スズちゃんとり たべないの】
汚ったない字です。“と”の字の向きが、左右逆で、ボタボタと墨もたれています。テーブルもお顔も真っ黒クロ。満足げな表情のハルは、さっそくお手紙をバラに託して、送ってもらいました。
「あら、アナタ、ハルから手紙が届きましたよ」
お外から帰ってきた母蛇が言いました。
【親愛なるお母さん、お父さん、いかがお過ごしでしょうか、わたしは元気にやっています。
いつもいつも、大変すばらしいお料理を送ってくれて、ありがとうございます。
毎日美味しく食べています。
今日は、その事で1つお願いしたいことがあって、お手紙を書きました。
実はスズちゃんは鳥なのです。
知っていましたか? わたしの大好物の鶏肉と同じ鳥なのです。
わたしは最近気づいて、大変驚きました。
だからスズちゃんは、あんなに美味しそうで可愛いんですね。
それでわたしは決意しました。
スズちゃんともっと仲良しになるために、これからは肉食はやめにします。
お母さんのお料理が食べられなくなるのは辛いけれど、頑張ります。
応援してね、よろしくね。
では、さようなら。
かしこ♪ かしこ♪ かしこし♪ かしこ♪♪】
どこをどう読んだら、こんな長文になるのか分かりませんが、両親の愛情は空より広く、海より深いという事でしょうか。
「なんだ、あの小鳥、食べないのか」父蛇は驚きました。
「そうよね、捨て子なんだから食べちゃえば良いのにね」
2人は、スズが孤児だと思っていたので、食べてしまった事をそれほど気にしていません。ですが、もし消化していたとしたら大問題です。外国である花の里の、しかも神の居城で、精の宿る小鳥を食べてしまったのですから。
それに、スズにはちゃんと両親がいます。もしかしたら、鳥の里と蛇の里との間で、外交問題に発展しかねません。
鳥の里を治める黄金の鷹は、とても怖い猛禽の女神なので、家族そろって食べられてしまうかもしれませんね。知らぬが仏とはこの事でした。
これ以来、ハルは肉や虫を食べるのを止めました。虫のような光も食べるのを止めました。頑張って、スズの様に蜜をなめたり、花弁や葉っぱを食べる蛇になろう、と決心したのです。
初めて出会ったのは、まだ100歳にも満たない頃です。人間でいえば0歳でしたが、スズと遊んだ記憶は鮮明に残っていました。しっぽを持って、高い高ーいをしてもらったのです。
思い出とは美化されるもので、実際は、突然自分の前に現れた蛇にびっくりしたスズが、怒って尻尾を鷲掴みにして、ブンブン振り回していただけなのに。ハルにとっては楽しい思い出なのだから、幸せなものですね。
「どうしたら、もっと仲良くなれるかなぁ」
来る日も来る日も、ハルはベッドの中で考えました。
スズはハルの事が嫌いではありません。むしろたった1人のお友達として、とても大好きなのです。母蛇のお腹からの脱出劇で、一致団結して頑張ってから、特に心の距離は縮まり、もっと好きになっていました。
ですが、本質的にハルが苦手です。スズにとって、ハルのシーシーと音を立てて鞭打つ二又の舌は、とても恐ろしく感じられました。自分にはない牙も持っていましたし、いつか食べられてしまうのではないか、と心の奥底に不安を抱えていたのです。
この間、母蛇に食べられてしまいましたし、あながち考え過ぎとは言えません。ハルとはいつも追いかけっこして遊んでいますが、振り返ると、お腹を空かせた女の子が、大好きなおやつに駆け寄るような恍惚の笑顔で、自分めがけて走り迫ってくるのです。
蛇の里のハルのお家に遊びに行ったとき知ったことですが、彼女の大好物は鶏肉らしいのです。ネズミにしておきなさいよと思いましたが、遺伝なのかお父さんもお母さんも鶏肉好きでした。
ハルが虫のような光をプレゼントしても、虫をプレゼントしてもスズは全く喜びません。虫を食べない蜜食の小鳥なのですから、興味を持たないのも当たり前です。
この間実家で鈴虫を鑑賞したときは喜んでくれましたが、もう、1度聴いてしまったのだから、初めて聞く感動は与えられません。それに、あれほど美しい音色を奏でる虫はいない、とハルは思っています。コオロギの鳴き声も可愛くて面白いのですが。
ハルは考えていました。お夕食の時、実家から送られてきた鳥の水煮をハムハム食べながら。毎食毎食、鳥のトマト煮や、チキン南蛮、照り焼きチキン、鳥の骨付きもも肉のから揚げ、極めつけは雛の丸焼き。
お母さんが沢山送って来てくれるので、毎日毎日鶏肉を食べながら考えました。そして、遂にひらめきました。
「そうだ! スズちゃんは鳥だから、わたしが鶏肉を食べるのが嫌なんだわ!!」
と。鶏肉をモシャモシャ食べながら、言いました。
ハルは今後鶏肉を食べるのを止めると誓いましたが、部屋を見渡すと、お母さんから届いた鳥料理が沢山あります。外には血抜きした鶏がぶら下がっています。だから、スズは最近ハルのお家に近寄らないのですが、そこにはまだ気が付いていません。
精は宿っていないとはいえ、命があった生き物です。その命を食べるために奪っておいて捨てるなんて、失礼です。生や死への冒涜ですから、残さず美味しくいただくことにしました。
ハルはウロコを使って、母蛇に手紙を書きました。
【スズちゃんとり たべないの】
汚ったない字です。“と”の字の向きが、左右逆で、ボタボタと墨もたれています。テーブルもお顔も真っ黒クロ。満足げな表情のハルは、さっそくお手紙をバラに託して、送ってもらいました。
「あら、アナタ、ハルから手紙が届きましたよ」
お外から帰ってきた母蛇が言いました。
【親愛なるお母さん、お父さん、いかがお過ごしでしょうか、わたしは元気にやっています。
いつもいつも、大変すばらしいお料理を送ってくれて、ありがとうございます。
毎日美味しく食べています。
今日は、その事で1つお願いしたいことがあって、お手紙を書きました。
実はスズちゃんは鳥なのです。
知っていましたか? わたしの大好物の鶏肉と同じ鳥なのです。
わたしは最近気づいて、大変驚きました。
だからスズちゃんは、あんなに美味しそうで可愛いんですね。
それでわたしは決意しました。
スズちゃんともっと仲良しになるために、これからは肉食はやめにします。
お母さんのお料理が食べられなくなるのは辛いけれど、頑張ります。
応援してね、よろしくね。
では、さようなら。
かしこ♪ かしこ♪ かしこし♪ かしこ♪♪】
どこをどう読んだら、こんな長文になるのか分かりませんが、両親の愛情は空より広く、海より深いという事でしょうか。
「なんだ、あの小鳥、食べないのか」父蛇は驚きました。
「そうよね、捨て子なんだから食べちゃえば良いのにね」
2人は、スズが孤児だと思っていたので、食べてしまった事をそれほど気にしていません。ですが、もし消化していたとしたら大問題です。外国である花の里の、しかも神の居城で、精の宿る小鳥を食べてしまったのですから。
それに、スズにはちゃんと両親がいます。もしかしたら、鳥の里と蛇の里との間で、外交問題に発展しかねません。
鳥の里を治める黄金の鷹は、とても怖い猛禽の女神なので、家族そろって食べられてしまうかもしれませんね。知らぬが仏とはこの事でした。
これ以来、ハルは肉や虫を食べるのを止めました。虫のような光も食べるのを止めました。頑張って、スズの様に蜜をなめたり、花弁や葉っぱを食べる蛇になろう、と決心したのです。
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