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未来の自分の為に、目の前の誘惑に打ち勝てますか?
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スズは、いつも新鮮な朝露を好んで飲んでいました。けして、取っておいて後で飲むことはしません。
バラは、家族となったスズの周りの花には、特別に多めの蜜を含ませていたので、それが朝露に溶け出し、ほんのり甘いバラ水が出来ていたのです。
常に花から直接蜜を吸っていたスズは、蜜を取って蓄えておくことをしませんでした。ですからスズは、冬になると慎ましい生活を送っています。
最近のスズは、まん丸のお家に住んでいました。バラがイバラを絡めて作ってくれたまあるいお家です。スズにトゲが刺さらないように、内側にはトゲがありません。まだ力の弱いバラでしたが、夏でも花を咲かせず、冬でも枯れない1つの苞葉を頑張って作りました。
スズが「暖かいのちょーだい」と言って、苞葉の中心をふにゅふにゅくすぐるとお湯が出て、「お水ちょーだい」と言ってくすぐると、水が出ます。ツルを上に持ち上げれば、湯浴みに使えますし、下に持ってきて苞葉を上向きにすれば、水も飲めます。部屋は1Rで寝室と玄関と水場に仕切りはありませんが、幼いスズには十分です。
バラがもらってきてくれた枝を、一生懸命ドーナツ状に絡めてベッドにしたスズは、羽毛の布団の中で、冬の間静かにのんびりと過ごします。バラの眷属になったお祝いに、お母さんが持ってきてくれたお布団でした。
蜜は飲めませんでしたが、ツルを通して湧く水にはバラの神気が溶け込んでいましたし、栄養も有りましたから、特別困りません。
スズはこれで良い、と思っていました。毎年こんな冬の過ごし方ですから、他の過ごし方があるなんて、夢にも思いません。
ですが、実際には他の過ごし方が沢山あるのです。ハルは、スズと全く違う過ごし方をしていました。
この子もスズ同様、バラにお家を作ってもらっていました。イバラをドーム型に編んだお家です。こちらの家も1Rで、水場があるだけの簡素な間取りでした。
バラの眷属になったお祝いにお母さんが持ってきてくれた、レンゲのすくうところの様な形をした、つるつるの石でできたベッドに敷いた真綿のお布団の中で、殆ど1日中寝て過ごしています。冬眠というやつです。
その程度の差であれば、スズが知ったとしても別に羨ましくなんてないでしょう。でも、それだけの差ではありませんでした。
ハルは時折飛んでくる虫の様な光を捕まえては、全部食べてしまわずにお家にしまっていました。捕まえた光だけでなく、スズにあげようとして断られた虫もとっておいていました。壁を構成するツルとツルの隙間に隠していたのです。
ですから、ハルはスズと違って豪勢な冬の生活をしていました。春や夏と同じ様に虫のような光を食べ、時々贅沢をしてバッタやなんかを食べていたのです。
スズは、その時々でしたいことをしたいようにして過ごしていました。蜜をなめたければなめ、実を食べたければ食べ、露が飲みたければ飲んでいました。好きなことを好きなときに好きなようにしていたのです。
バラのイバラは、毎日、美味しい朝露と甘い蜜と酸っぱい果実を提供していましたから、スズは生活に困ることはありません。それで満足してしまっていた彼女は、未来永劫そんな生活が続くものだと漠然と考えていました。
確かに冬は質素な生活でしたが、雪降る中でも暖かいお家があって、食うには困らない蛇口がついています。他のみんなの生活を見たことはありませんから、みんな自分と同じ様な生活だと思っていました。ですから、特別不満も感じていなかったのです。
それに対して、ハルは違いました。イバラに住み着いた頃から、いつも食べ物に困っていました。虫は生息していませんし、虫のような光はいつも沢山飛んでいるわけではなかったので、長い間食べる物が無い時もあしました。
ですから、彼女は食べ物がどれだけ大事か知っていたのです。捕まえた光を見つめながら、いつも自分に言い聞かせていました。
「今食べちゃダメよ。
今食べたら、冬のわたしは何を食べて過ごせば良いの? 未来のわたしの為にとっておいてあげましょうよ。
そうしたら、未来のわたしはとても素敵な冬を過ごせるはずだわ。
だって、雪見をしながらバラ湯の良い香りの中、美味しいものに舌鼓を打てるのよ」
無理して食べるのを我慢したりはしませんでしたが、食べたいからといって過剰に食べたりもしませんでした。いつも腹8分目で満足していました。適量を食べた後は、みんな取っておいたのです。
毎年そのような1年を繰り返した結果、ハルの財産は段々と増えていきました。城の観覧者から貰った小瓶にバラ水を入れて、更に虫のような光を入れておくと、夜淡い光を発してとても綺麗なことにも気が付きました。
その水をそのままにしておくと、数週間の後に光が水に溶けて、砂金を水に入れたかの様にキラキラと輝くようになることも知りました。しかもその水はとても美味しい水になっていました。バラの神気や栄養に光の栄養が足されたからです。
沢山の光を何枚ものバラの花や葉で包んで置いておくと、光がくっついて1つになり、光る羊羹みたくなります。とてもとても美味しい食べ物でした。
ですから、貯めておいた財産は、貯めておいた通りのままではなく、その価値が高まって増えていったのです。
スズの生活は、まあるいお家と羽毛布団が手に入っただけで、それ以外は住み始めた頃とあまり変わっていません。未来の自分を考えるなんて思いつくことは無く、いつも今の自分を大切にしていたのです。
結果として、2人の冬の生活水準には雲泥の差がついてしまいました。
この様なことは、誰にでもありました。たとえば、近くの森に住む山桜の精は、ある年の冬が暖冬だったという理由で、もう一度花を咲かせようと欲張ってしまった結果、翌年の春に咲く力が残っていなくて、1人さびしく葉桜になってしまったことがありました。
ある畑で育った青梗菜の精は、年に何度も美味しい葉っぱを広げることが出来たのに、隣の青梗菜よりも立派に見せたいという虚栄心から、1度目の春の葉に栄養を注ぎ過ぎて、夏の葉に注ぐ栄養が不足し、春物よりも小さくなってしまったばかりか、秋物はもっと小さくなってしまいました。
彼らは、目の前の誘惑に駆られ我慢できなかったばっかりに、先の事が見えなくなってしまったのです。目の前の利益ばかりが大きく見えて、後さき考えずに欲を満たして、いつも後悔を繰り返していました。
大人であっても例外ではありません。鳥の里に美しいクジャクの精霊がいました。腰まで長い黒髪は青紫色に輝き、二重で切れ長の瞳に長いまつ毛、唇はしっとりとした紅色で、本人も容姿端麗だと自負していました。
しかし、クジャクの女性は、男性と違って美しい羽を持っていません。ふつう美しいといえば、女性の特権のように聞こえますが、クジャクの場合、美しいのは男性で、女性の身には美しい飾り羽はありません。
彼女は十分美しかったのですが、やはり女性ですし、もっと可愛く、もっと美しくなりたいという気持ちは、みんなと一緒でした。
彼女はまだ6000歳代だったので、まだ親に養ってもらっています。もらったお小遣いをどのように使っていたのでしょうか。ほしいものは沢山あるでしょう。お菓子やジュース、洋服や化粧品、宝石や飾り羽など色々です。
もし、今お菓子が食べたいから、ジュースが飲みたいからと、もらったお小遣いをすぐにみんな使ってしまっては、いつまでたっても高価な宝石や飾り羽は手に入りません。
彼女はまさにそういう女の子でした。結果として、自分の可愛さを活かし切れず、何時まで経っても好きな男子には振り向いてもらえません。
ラクダの神が治めるラクダしか住んでいないオーストラリアくらいの小さな里にいたある女性は、年に1回大きなオアシスが出来る砂漠に住んでいました。
初めて彼氏が出来た彼女は、お友達とグループデートを企画し、泳ぎに行くことにしたのです。彼氏に「可愛いよ」と言ってほしくて、どんな水着を着ようか、毎日毎日幸せに悩む日々が続きました。オアシスで泳ぐのがとても楽しみです。
可愛い水着を着るために、ダイエットしようとみんなで思い立ち、色々なダイエットに励みました。ですが、みんなが目標を達成する中、彼女1人だけ体重が増加してしまったのです。何故でしょうか。
ダイエットを開始したのは4月の初めでした。8月に可愛い水着を着てオアシスで泳ぎたいと思っていたのですが、目の前にはお菓子やジュースの誘惑があり、我慢できません。もしかしたら甘くて美味しいケーキの誘惑が待ち構えていたかもしれません。これは強敵です。
そんな時、彼女はダイエットに成功して、可愛い水着でオアシス浴をしている自分を忘れてしまうのです。
「まだ8月まで何カ月もあるし、今甘いものを食べても大丈夫よ。
こんなおいしい物を食べないなんてもったいないわ」
そう自分に言い聞かせて食べてしまうのです。
でもそれは、お菓子を食べたいという誘惑に負ける自分を正当化するために、自ら負ける理由を作り出して後ろめたさを打消し、自分を慰めて、努力を諦めることを許しているだけなのです。
魔界に住むカラスの妖怪もそうです。今あれが食べたい、これが着たい、遊びたい、とお金をばら撒いていたので、いつまでたってもお金は堪りません。白鳥の住む天界に行って、白鳥達とお友達になりたいと思っていましたが、とても天界へ行ってのんびりバケーションとはいきませんでした。
まだ、意識して分かる無駄遣いなら良いのですが、無意識の無駄遣いもあります。歯を磨くとき出しっぱなしの水とか、おやつを食べすぎてお腹いっぱいだからと、食べ残して捨ててしまったお夕飯はどうでしょう。習慣で買っているお菓子やジュースの中には、食べたい飲みたい、と欲して口にしているわけではなく、習慣から気づかず口にしている物もあります。
お勉強だってそうです。つまらないから、やりたくないから、と全くやらずにいると、すぐさま周りにおいて行かれて、いざやろうとしてもさっぱりです。
バラの精霊は、もともと花も咲かせない小さな小さなイバラでした。ですが、いっぱいお勉強をして、いっぱい運動をしたので、花を咲かせられるようになりましたし、イバラも沢山伸ばすことが出来ました。今では立派な精霊です。一緒に要るノシバは、いまだに精なのに。
未来の為に無理をし過ぎるあまり、つらい今を過ごすのでは本末転倒です。今の自分を犠牲にしすぎると、将来過去を振り返って、失ったものの多さに愕然とするからです。失ったものが、手に入れたものよりも多ければ、それは豊かになったとは言えません。それは、失ったそれらとは、金銭に変えられない思い出や経験だったりします。
でも、今を大事にしすぎるという事は、未来を蔑ろにするという事と同じだと知っておくべきです。
バラの加護を受けられなくなったスズは、環境の変化に対応することが出来ず、生活水準は著しく低下しました。ですが、同じく加護を受けられなくなっていたハルには蓄えが沢山あったので、生活水準は落ちませんでした。
しいて言えば、一生懸命オシャレのお勉強をしていたスズは、美しい金色の羽が生えてきて、観光客を楽しませました。オシャレに努力をしなかったハルは、普通に白い蛇でした。オシャレのお勉強をしていれば、白銀に輝けるはずなのに。
スズとハルの冬の過ごし方の差と、バラに会えない今の様子は、みんなに未来への道しるべとなる教訓を与えてくれます。
バラは、家族となったスズの周りの花には、特別に多めの蜜を含ませていたので、それが朝露に溶け出し、ほんのり甘いバラ水が出来ていたのです。
常に花から直接蜜を吸っていたスズは、蜜を取って蓄えておくことをしませんでした。ですからスズは、冬になると慎ましい生活を送っています。
最近のスズは、まん丸のお家に住んでいました。バラがイバラを絡めて作ってくれたまあるいお家です。スズにトゲが刺さらないように、内側にはトゲがありません。まだ力の弱いバラでしたが、夏でも花を咲かせず、冬でも枯れない1つの苞葉を頑張って作りました。
スズが「暖かいのちょーだい」と言って、苞葉の中心をふにゅふにゅくすぐるとお湯が出て、「お水ちょーだい」と言ってくすぐると、水が出ます。ツルを上に持ち上げれば、湯浴みに使えますし、下に持ってきて苞葉を上向きにすれば、水も飲めます。部屋は1Rで寝室と玄関と水場に仕切りはありませんが、幼いスズには十分です。
バラがもらってきてくれた枝を、一生懸命ドーナツ状に絡めてベッドにしたスズは、羽毛の布団の中で、冬の間静かにのんびりと過ごします。バラの眷属になったお祝いに、お母さんが持ってきてくれたお布団でした。
蜜は飲めませんでしたが、ツルを通して湧く水にはバラの神気が溶け込んでいましたし、栄養も有りましたから、特別困りません。
スズはこれで良い、と思っていました。毎年こんな冬の過ごし方ですから、他の過ごし方があるなんて、夢にも思いません。
ですが、実際には他の過ごし方が沢山あるのです。ハルは、スズと全く違う過ごし方をしていました。
この子もスズ同様、バラにお家を作ってもらっていました。イバラをドーム型に編んだお家です。こちらの家も1Rで、水場があるだけの簡素な間取りでした。
バラの眷属になったお祝いにお母さんが持ってきてくれた、レンゲのすくうところの様な形をした、つるつるの石でできたベッドに敷いた真綿のお布団の中で、殆ど1日中寝て過ごしています。冬眠というやつです。
その程度の差であれば、スズが知ったとしても別に羨ましくなんてないでしょう。でも、それだけの差ではありませんでした。
ハルは時折飛んでくる虫の様な光を捕まえては、全部食べてしまわずにお家にしまっていました。捕まえた光だけでなく、スズにあげようとして断られた虫もとっておいていました。壁を構成するツルとツルの隙間に隠していたのです。
ですから、ハルはスズと違って豪勢な冬の生活をしていました。春や夏と同じ様に虫のような光を食べ、時々贅沢をしてバッタやなんかを食べていたのです。
スズは、その時々でしたいことをしたいようにして過ごしていました。蜜をなめたければなめ、実を食べたければ食べ、露が飲みたければ飲んでいました。好きなことを好きなときに好きなようにしていたのです。
バラのイバラは、毎日、美味しい朝露と甘い蜜と酸っぱい果実を提供していましたから、スズは生活に困ることはありません。それで満足してしまっていた彼女は、未来永劫そんな生活が続くものだと漠然と考えていました。
確かに冬は質素な生活でしたが、雪降る中でも暖かいお家があって、食うには困らない蛇口がついています。他のみんなの生活を見たことはありませんから、みんな自分と同じ様な生活だと思っていました。ですから、特別不満も感じていなかったのです。
それに対して、ハルは違いました。イバラに住み着いた頃から、いつも食べ物に困っていました。虫は生息していませんし、虫のような光はいつも沢山飛んでいるわけではなかったので、長い間食べる物が無い時もあしました。
ですから、彼女は食べ物がどれだけ大事か知っていたのです。捕まえた光を見つめながら、いつも自分に言い聞かせていました。
「今食べちゃダメよ。
今食べたら、冬のわたしは何を食べて過ごせば良いの? 未来のわたしの為にとっておいてあげましょうよ。
そうしたら、未来のわたしはとても素敵な冬を過ごせるはずだわ。
だって、雪見をしながらバラ湯の良い香りの中、美味しいものに舌鼓を打てるのよ」
無理して食べるのを我慢したりはしませんでしたが、食べたいからといって過剰に食べたりもしませんでした。いつも腹8分目で満足していました。適量を食べた後は、みんな取っておいたのです。
毎年そのような1年を繰り返した結果、ハルの財産は段々と増えていきました。城の観覧者から貰った小瓶にバラ水を入れて、更に虫のような光を入れておくと、夜淡い光を発してとても綺麗なことにも気が付きました。
その水をそのままにしておくと、数週間の後に光が水に溶けて、砂金を水に入れたかの様にキラキラと輝くようになることも知りました。しかもその水はとても美味しい水になっていました。バラの神気や栄養に光の栄養が足されたからです。
沢山の光を何枚ものバラの花や葉で包んで置いておくと、光がくっついて1つになり、光る羊羹みたくなります。とてもとても美味しい食べ物でした。
ですから、貯めておいた財産は、貯めておいた通りのままではなく、その価値が高まって増えていったのです。
スズの生活は、まあるいお家と羽毛布団が手に入っただけで、それ以外は住み始めた頃とあまり変わっていません。未来の自分を考えるなんて思いつくことは無く、いつも今の自分を大切にしていたのです。
結果として、2人の冬の生活水準には雲泥の差がついてしまいました。
この様なことは、誰にでもありました。たとえば、近くの森に住む山桜の精は、ある年の冬が暖冬だったという理由で、もう一度花を咲かせようと欲張ってしまった結果、翌年の春に咲く力が残っていなくて、1人さびしく葉桜になってしまったことがありました。
ある畑で育った青梗菜の精は、年に何度も美味しい葉っぱを広げることが出来たのに、隣の青梗菜よりも立派に見せたいという虚栄心から、1度目の春の葉に栄養を注ぎ過ぎて、夏の葉に注ぐ栄養が不足し、春物よりも小さくなってしまったばかりか、秋物はもっと小さくなってしまいました。
彼らは、目の前の誘惑に駆られ我慢できなかったばっかりに、先の事が見えなくなってしまったのです。目の前の利益ばかりが大きく見えて、後さき考えずに欲を満たして、いつも後悔を繰り返していました。
大人であっても例外ではありません。鳥の里に美しいクジャクの精霊がいました。腰まで長い黒髪は青紫色に輝き、二重で切れ長の瞳に長いまつ毛、唇はしっとりとした紅色で、本人も容姿端麗だと自負していました。
しかし、クジャクの女性は、男性と違って美しい羽を持っていません。ふつう美しいといえば、女性の特権のように聞こえますが、クジャクの場合、美しいのは男性で、女性の身には美しい飾り羽はありません。
彼女は十分美しかったのですが、やはり女性ですし、もっと可愛く、もっと美しくなりたいという気持ちは、みんなと一緒でした。
彼女はまだ6000歳代だったので、まだ親に養ってもらっています。もらったお小遣いをどのように使っていたのでしょうか。ほしいものは沢山あるでしょう。お菓子やジュース、洋服や化粧品、宝石や飾り羽など色々です。
もし、今お菓子が食べたいから、ジュースが飲みたいからと、もらったお小遣いをすぐにみんな使ってしまっては、いつまでたっても高価な宝石や飾り羽は手に入りません。
彼女はまさにそういう女の子でした。結果として、自分の可愛さを活かし切れず、何時まで経っても好きな男子には振り向いてもらえません。
ラクダの神が治めるラクダしか住んでいないオーストラリアくらいの小さな里にいたある女性は、年に1回大きなオアシスが出来る砂漠に住んでいました。
初めて彼氏が出来た彼女は、お友達とグループデートを企画し、泳ぎに行くことにしたのです。彼氏に「可愛いよ」と言ってほしくて、どんな水着を着ようか、毎日毎日幸せに悩む日々が続きました。オアシスで泳ぐのがとても楽しみです。
可愛い水着を着るために、ダイエットしようとみんなで思い立ち、色々なダイエットに励みました。ですが、みんなが目標を達成する中、彼女1人だけ体重が増加してしまったのです。何故でしょうか。
ダイエットを開始したのは4月の初めでした。8月に可愛い水着を着てオアシスで泳ぎたいと思っていたのですが、目の前にはお菓子やジュースの誘惑があり、我慢できません。もしかしたら甘くて美味しいケーキの誘惑が待ち構えていたかもしれません。これは強敵です。
そんな時、彼女はダイエットに成功して、可愛い水着でオアシス浴をしている自分を忘れてしまうのです。
「まだ8月まで何カ月もあるし、今甘いものを食べても大丈夫よ。
こんなおいしい物を食べないなんてもったいないわ」
そう自分に言い聞かせて食べてしまうのです。
でもそれは、お菓子を食べたいという誘惑に負ける自分を正当化するために、自ら負ける理由を作り出して後ろめたさを打消し、自分を慰めて、努力を諦めることを許しているだけなのです。
魔界に住むカラスの妖怪もそうです。今あれが食べたい、これが着たい、遊びたい、とお金をばら撒いていたので、いつまでたってもお金は堪りません。白鳥の住む天界に行って、白鳥達とお友達になりたいと思っていましたが、とても天界へ行ってのんびりバケーションとはいきませんでした。
まだ、意識して分かる無駄遣いなら良いのですが、無意識の無駄遣いもあります。歯を磨くとき出しっぱなしの水とか、おやつを食べすぎてお腹いっぱいだからと、食べ残して捨ててしまったお夕飯はどうでしょう。習慣で買っているお菓子やジュースの中には、食べたい飲みたい、と欲して口にしているわけではなく、習慣から気づかず口にしている物もあります。
お勉強だってそうです。つまらないから、やりたくないから、と全くやらずにいると、すぐさま周りにおいて行かれて、いざやろうとしてもさっぱりです。
バラの精霊は、もともと花も咲かせない小さな小さなイバラでした。ですが、いっぱいお勉強をして、いっぱい運動をしたので、花を咲かせられるようになりましたし、イバラも沢山伸ばすことが出来ました。今では立派な精霊です。一緒に要るノシバは、いまだに精なのに。
未来の為に無理をし過ぎるあまり、つらい今を過ごすのでは本末転倒です。今の自分を犠牲にしすぎると、将来過去を振り返って、失ったものの多さに愕然とするからです。失ったものが、手に入れたものよりも多ければ、それは豊かになったとは言えません。それは、失ったそれらとは、金銭に変えられない思い出や経験だったりします。
でも、今を大事にしすぎるという事は、未来を蔑ろにするという事と同じだと知っておくべきです。
バラの加護を受けられなくなったスズは、環境の変化に対応することが出来ず、生活水準は著しく低下しました。ですが、同じく加護を受けられなくなっていたハルには蓄えが沢山あったので、生活水準は落ちませんでした。
しいて言えば、一生懸命オシャレのお勉強をしていたスズは、美しい金色の羽が生えてきて、観光客を楽しませました。オシャレに努力をしなかったハルは、普通に白い蛇でした。オシャレのお勉強をしていれば、白銀に輝けるはずなのに。
スズとハルの冬の過ごし方の差と、バラに会えない今の様子は、みんなに未来への道しるべとなる教訓を与えてくれます。
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