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恋する気持ちは、他の大切な物を見えなくする
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ある晴れた日、スズとハルはいつものようにおままごとをして遊んでいました。
いつもは楽しいおままごとでしたが、今日はなにかが違うようです。そばにいたノシバの精達もどこかに行ってしまうほどの言い合いっこをしていました。
初めは、スズの些細な自慢話から始まった事でした。今日の早朝にバラからもらったバラの実水が美味しかったと、とても嬉しそうにハルに語ったのです。それに対してハルは、小瓶に花弁と一緒に入ったバラ水の事を話しました。
どちらも自分がもらった方が素敵なプレゼントだとして譲らず、終いには喧嘩になってしまったのです。
スズは、「ムキーッ」と怒って言いました。
「わたしがもらったバラの実のお水の方が良いに決まっていゆわ」
スズの話に、ハルは言い返します。
「わたしのバラ水の方が美味しいわ。
だって、ヒンヤリした土に埋めておいたんだもの」
「わたしのは新鮮な朝露が原料だから、まろやかだもん」
キーと顔を真っ赤にして、スズはそばに落ちていた羽毛を投げつけました。羽毛はとても軽いので、投げても手元から飛んでいくことなく、ふわふわと落ちていきます。
ハルはよちよち歩いて行って、羽毛を拾って言いました。
「いくら朝露でも、冷やしておかないと鮮度が落ちるのよ」
スズは、更に「ムキーッ」となりましたが、言い返せません。ハルは「ふふん」と得意げに帰っていきます。
その背を呼び止めて、スズが言いました。
「れ? わたしの羽毛持って帰ゆの!? 返しなさいよ」
「やーですよぅ。わたしのお布団に混ぜますわ」
ハルは得意げに、貴婦人風の口調で返します。
「何よぉ、わたしの羽毛なんですからね、大事に使わないと、いけないわよ!! 絶対よ!!」
「分かっているわ、掛布団の花弁と一緒に、大切に使わせてもらうわ」
「必ずよ!!」
本当に喧嘩中なのでしょうか。はたから見ると、とても仲良く騒いでいるように見えます。そんな2人の喧嘩は毎日続きました。
それは、バラの実水とバラ水だけにとどまりません。お昼過ぎにスズのもとにやってきたハルは、バラの花弁を掲げて開口一番言いました。
「わたしは花弁のアカスリを貰ったわ。
鱗を磨いてピカピカになれるのよ」
「わたしは花飾りを貰ったわ」スズが言い返すと、ハルが「わたしなんてカチューシャよ」と更に言い返します。どちらもバラの花弁でした。
あまりに長いこと喧嘩が続いていたので、バラは見かねて、仲直りするよう説得に行きました。
それに対してスズが言いました。
「わたしはハルと仲直りしようと思っていゆんですよ。
でも、ハルがしようとしないんです。
だからバラ様、ハルを説得してくれませんか?」
上目づかいで、瞳をキラキラさせて訴えてきます。仕方なくバラはハルの所に行って、同じことを言いました。すると、ハルはこう言いました。
「わたしはいつもスズちゃんと仲良くしようと努力しているんです。
スズちゃんに、もっとハルと仲良くするように言ってもらえませんか?」
2人共、自分から仲直りする気はない様です。バラは鼻でため息をついた時に、気が付いて訊きました。
「その羽毛はどうしたの?」
「これは、この間スズちゃんにもらったの。
ふあふあして気持ち良いお布団です。わたしの宝物」
ハルはニッコリ笑って、自慢げに言いました」
聞くと、2人が喧嘩に突入して後にもらったらしいのです。
(なんだ、2人共本気で喧嘩しているんじゃないんだな)
バラはそう思って、帰って行きました。
あくる日、バラは2人を仲直りさせるために、友達の蜜蜂から貰った蜂蜜入りの紅茶を作ってあげようと、アールグレイの茶葉の入ったツボと、蜂蜜の瓶を棚から取りました。
ちょうどその時、お城から飛ばされた1枚の大きな花弁が舞い飛んできました。その花弁をひろうと、『登城せよ』と書いてあります。バラは、姫が新しい遊びを編み出したのかと思い、紅茶のプレゼントは後にして、お城に向かいます。
正門をくぐると出迎えのつくしの兵がいて、ついてくるように言います。「どこに行くのですか」と聞くと、「謁見の間だよ」と言いました。
いつもは直接姫の居館に行きますから、少し変だなと思いながら、バラは謁見の間の大きな扉をくぐるりました。謁見の間はとても広い空間です。兵士用の大食堂と同じくらいの広さでした。
初めて入るバラは、ぽかんと口を開けたままキョロキョロと周りを眺めながら、姫がいる方に歩み出します。
姫は、中央の奥行6m位の床を上下に挟んだ5段ずつの階段を上った一番上にある玉座に、腰を下ろしていました。玉座は横長の木製で、大人も3人位は座れる大きさです。様々な神聖な花や葉、色々な果物の彫刻が沢山施されたていました。
階段の前には、初めて見る兵士が1人います。つくしでもないようです。おでこから後頭部まで飾りの鋲がある木の兜をかぶり、青いローブの上に木の胸当てをつけて、腰には棍棒を下げていました。
彼は、雲海との境を守る国境警備兵のアオダモの精霊です。アオダモは大変硬い植物で、人間界では主にバットの材料として使われています。野球の試合で力強く振られて、剛速球を打ち返すさまを見れば、その強さが分かるでしょう。
バラはつくしの兵しか見たことがありません。秘める強さに歴然とした差があるのがうかがえます。精霊に昇華したばかりの自分と比べても、圧倒的に強い存在に思えました。
それから暫くしたある日、スズとハルの2人は呆けていました。何をするわけでもなく、それぞれの部屋の中で空中を見ています。何かがおかしいのです。でも何かは分かりません。気のせいか,イバラに鮮やかさが感じられません。
2人は少し不安を覚えましたが、どうすることも出来ません。不安が不安を呼んで、段々と怖くなりました。バラにやさしくしてもらおうと名前を呼びますが、何日経っても来てくれません。
2人はバラに見捨てられたのかと思って、悲しくなりました。「うえ~ん」と泣き出して、幾度もバラを呼びましたが、やはりバラは現れません。
2人は思いました。
「もう長い間喧嘩しかしていなかったから、ご主人様に嫌われてしまったんだわ。
この間バラ様が来てくださった時、素直に仲直りしていれば、こんな事にならなかったのに、さあどうしましょう」
一向に仲直りしない2人に呆れたバラが、とうとう自分達を見捨てたのだと考えたのです。
2人共本気でお互いを嫌っていたわけではありません。バラが2人を訪問した時、相手が謝れば仲直りすると答え、頑なに自分から謝ることをしませんでした。バラは困った様子でしたが、本気で困らせたいわけではなく、大好きなバラに甘えていただけなのでした。
わがままを言って、構ってほしいと思っただけなのです。まだ成長していない愛情は、好きな相手に悪戯をしてしまうという形で発露してしまう事があるのです。
ついには水も湯もポタポタとしか出なくなり、花も咲かなくなりました。稀に蕾が出来ますが、花弁が苞葉から顔を出すことはありません。いよいよ捨てられる日が近づいているようです。
2人はオロオロするばかり、1人でいるのは怖かったので、スズはハルの所に急いでいきました。ちょうどハルも1人でいるのが怖かったので、スズのお家に行くところでした。
ハルの姿を見るなり抱きついたスズば、泣きました。
「ごめんねハルちゃん、わたしが悪かったわ」
「ううん、ごめんねスズちゃん、わたしも悪かったわ。
スズちゃんがもらったプレゼントは、とても羨ましい物ばかりだったのよ」
2人は何日もわんわん泣き続けました。泣くだけ泣いて泣き疲れて、スズはツルに抱き付いて、ハルはスズのいるツルの根本に抱き付いて、寝てしまいました。
ふと目を覚ました2人は、辺りを見渡しました。心なしか真っ暗に感じます。2人はバラの存在を全く感じることが出来ませんでした。
怯えた様子のハルは、息をするのもやっとで言いました。
「スズちゃん、この先どんな事があろうとも、わたしたちはお友達よ」
「本当よ、わたし達ずっと一緒にいましょうね」
2人にとって、イバラの中は世界の全てと言っても過言ではありません。外の世界に放り出される覚悟はできませんでした。2人の間にある友情だけが頼りです。2人は後悔していました。バラに愛されたいと思うばかりに、他の大切なことが見えていなかったのです。
いつもは楽しいおままごとでしたが、今日はなにかが違うようです。そばにいたノシバの精達もどこかに行ってしまうほどの言い合いっこをしていました。
初めは、スズの些細な自慢話から始まった事でした。今日の早朝にバラからもらったバラの実水が美味しかったと、とても嬉しそうにハルに語ったのです。それに対してハルは、小瓶に花弁と一緒に入ったバラ水の事を話しました。
どちらも自分がもらった方が素敵なプレゼントだとして譲らず、終いには喧嘩になってしまったのです。
スズは、「ムキーッ」と怒って言いました。
「わたしがもらったバラの実のお水の方が良いに決まっていゆわ」
スズの話に、ハルは言い返します。
「わたしのバラ水の方が美味しいわ。
だって、ヒンヤリした土に埋めておいたんだもの」
「わたしのは新鮮な朝露が原料だから、まろやかだもん」
キーと顔を真っ赤にして、スズはそばに落ちていた羽毛を投げつけました。羽毛はとても軽いので、投げても手元から飛んでいくことなく、ふわふわと落ちていきます。
ハルはよちよち歩いて行って、羽毛を拾って言いました。
「いくら朝露でも、冷やしておかないと鮮度が落ちるのよ」
スズは、更に「ムキーッ」となりましたが、言い返せません。ハルは「ふふん」と得意げに帰っていきます。
その背を呼び止めて、スズが言いました。
「れ? わたしの羽毛持って帰ゆの!? 返しなさいよ」
「やーですよぅ。わたしのお布団に混ぜますわ」
ハルは得意げに、貴婦人風の口調で返します。
「何よぉ、わたしの羽毛なんですからね、大事に使わないと、いけないわよ!! 絶対よ!!」
「分かっているわ、掛布団の花弁と一緒に、大切に使わせてもらうわ」
「必ずよ!!」
本当に喧嘩中なのでしょうか。はたから見ると、とても仲良く騒いでいるように見えます。そんな2人の喧嘩は毎日続きました。
それは、バラの実水とバラ水だけにとどまりません。お昼過ぎにスズのもとにやってきたハルは、バラの花弁を掲げて開口一番言いました。
「わたしは花弁のアカスリを貰ったわ。
鱗を磨いてピカピカになれるのよ」
「わたしは花飾りを貰ったわ」スズが言い返すと、ハルが「わたしなんてカチューシャよ」と更に言い返します。どちらもバラの花弁でした。
あまりに長いこと喧嘩が続いていたので、バラは見かねて、仲直りするよう説得に行きました。
それに対してスズが言いました。
「わたしはハルと仲直りしようと思っていゆんですよ。
でも、ハルがしようとしないんです。
だからバラ様、ハルを説得してくれませんか?」
上目づかいで、瞳をキラキラさせて訴えてきます。仕方なくバラはハルの所に行って、同じことを言いました。すると、ハルはこう言いました。
「わたしはいつもスズちゃんと仲良くしようと努力しているんです。
スズちゃんに、もっとハルと仲良くするように言ってもらえませんか?」
2人共、自分から仲直りする気はない様です。バラは鼻でため息をついた時に、気が付いて訊きました。
「その羽毛はどうしたの?」
「これは、この間スズちゃんにもらったの。
ふあふあして気持ち良いお布団です。わたしの宝物」
ハルはニッコリ笑って、自慢げに言いました」
聞くと、2人が喧嘩に突入して後にもらったらしいのです。
(なんだ、2人共本気で喧嘩しているんじゃないんだな)
バラはそう思って、帰って行きました。
あくる日、バラは2人を仲直りさせるために、友達の蜜蜂から貰った蜂蜜入りの紅茶を作ってあげようと、アールグレイの茶葉の入ったツボと、蜂蜜の瓶を棚から取りました。
ちょうどその時、お城から飛ばされた1枚の大きな花弁が舞い飛んできました。その花弁をひろうと、『登城せよ』と書いてあります。バラは、姫が新しい遊びを編み出したのかと思い、紅茶のプレゼントは後にして、お城に向かいます。
正門をくぐると出迎えのつくしの兵がいて、ついてくるように言います。「どこに行くのですか」と聞くと、「謁見の間だよ」と言いました。
いつもは直接姫の居館に行きますから、少し変だなと思いながら、バラは謁見の間の大きな扉をくぐるりました。謁見の間はとても広い空間です。兵士用の大食堂と同じくらいの広さでした。
初めて入るバラは、ぽかんと口を開けたままキョロキョロと周りを眺めながら、姫がいる方に歩み出します。
姫は、中央の奥行6m位の床を上下に挟んだ5段ずつの階段を上った一番上にある玉座に、腰を下ろしていました。玉座は横長の木製で、大人も3人位は座れる大きさです。様々な神聖な花や葉、色々な果物の彫刻が沢山施されたていました。
階段の前には、初めて見る兵士が1人います。つくしでもないようです。おでこから後頭部まで飾りの鋲がある木の兜をかぶり、青いローブの上に木の胸当てをつけて、腰には棍棒を下げていました。
彼は、雲海との境を守る国境警備兵のアオダモの精霊です。アオダモは大変硬い植物で、人間界では主にバットの材料として使われています。野球の試合で力強く振られて、剛速球を打ち返すさまを見れば、その強さが分かるでしょう。
バラはつくしの兵しか見たことがありません。秘める強さに歴然とした差があるのがうかがえます。精霊に昇華したばかりの自分と比べても、圧倒的に強い存在に思えました。
それから暫くしたある日、スズとハルの2人は呆けていました。何をするわけでもなく、それぞれの部屋の中で空中を見ています。何かがおかしいのです。でも何かは分かりません。気のせいか,イバラに鮮やかさが感じられません。
2人は少し不安を覚えましたが、どうすることも出来ません。不安が不安を呼んで、段々と怖くなりました。バラにやさしくしてもらおうと名前を呼びますが、何日経っても来てくれません。
2人はバラに見捨てられたのかと思って、悲しくなりました。「うえ~ん」と泣き出して、幾度もバラを呼びましたが、やはりバラは現れません。
2人は思いました。
「もう長い間喧嘩しかしていなかったから、ご主人様に嫌われてしまったんだわ。
この間バラ様が来てくださった時、素直に仲直りしていれば、こんな事にならなかったのに、さあどうしましょう」
一向に仲直りしない2人に呆れたバラが、とうとう自分達を見捨てたのだと考えたのです。
2人共本気でお互いを嫌っていたわけではありません。バラが2人を訪問した時、相手が謝れば仲直りすると答え、頑なに自分から謝ることをしませんでした。バラは困った様子でしたが、本気で困らせたいわけではなく、大好きなバラに甘えていただけなのでした。
わがままを言って、構ってほしいと思っただけなのです。まだ成長していない愛情は、好きな相手に悪戯をしてしまうという形で発露してしまう事があるのです。
ついには水も湯もポタポタとしか出なくなり、花も咲かなくなりました。稀に蕾が出来ますが、花弁が苞葉から顔を出すことはありません。いよいよ捨てられる日が近づいているようです。
2人はオロオロするばかり、1人でいるのは怖かったので、スズはハルの所に急いでいきました。ちょうどハルも1人でいるのが怖かったので、スズのお家に行くところでした。
ハルの姿を見るなり抱きついたスズば、泣きました。
「ごめんねハルちゃん、わたしが悪かったわ」
「ううん、ごめんねスズちゃん、わたしも悪かったわ。
スズちゃんがもらったプレゼントは、とても羨ましい物ばかりだったのよ」
2人は何日もわんわん泣き続けました。泣くだけ泣いて泣き疲れて、スズはツルに抱き付いて、ハルはスズのいるツルの根本に抱き付いて、寝てしまいました。
ふと目を覚ました2人は、辺りを見渡しました。心なしか真っ暗に感じます。2人はバラの存在を全く感じることが出来ませんでした。
怯えた様子のハルは、息をするのもやっとで言いました。
「スズちゃん、この先どんな事があろうとも、わたしたちはお友達よ」
「本当よ、わたし達ずっと一緒にいましょうね」
2人にとって、イバラの中は世界の全てと言っても過言ではありません。外の世界に放り出される覚悟はできませんでした。2人の間にある友情だけが頼りです。2人は後悔していました。バラに愛されたいと思うばかりに、他の大切なことが見えていなかったのです。
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