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どんな困難が立ちはだかろうとも、道は必ずある
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花の姫が城の上空に舞い上がって、眼下の城を眺めています。この日は朝からずっと、城の様子を見て回っていました。
3000年前、裏庭の端に植えたバラの苗は、城の外壁の下部を覆い、正門の上部を越えて一周周って、裏庭まで戻ってきていました。小さな5枚の花弁の花が咲いていますが貧弱で、イバラの規模にはとても似つかわしくない少なさです。
花の里の姫が住むお城というより、魔界にありそうなお城に見えました。城の正面には賑わいを見せる町があり、周りは大草原、裏には湖があって森も茂っています。その景観のお陰で、なんとか魔界の城には見えずにいました。
姫はバラととても仲が良かったですし、一緒に過ごした時間が長いので、この城の情景を見ても、モミの神が言うように悪い様には思いません。なにしろ、こうなった様子を突然見たわけではなく、そうなっていく様を見てきたのです。バラの成長の記録でもあり、とても大切な思い出のイバラなのです。
ですが、宮殿でとても偉い地位にいるモミの神との約束を放置しておくわけにはいきません。と言っても、言われるがままに剪定するなんて、とてもしたくありません。かといって、このまま放置してやり過ごすなんて出来ないでしょう。ですから、姫はとても悩んでいました。
モミの神を納得させて、バラを傷つけない方法な無いものかと、最近ずっと考えていたのです。
バラは、姫のお気持ちを察して、自らを剪定することを上申しました。姫はバラの心情を慮って、言いました。
「バラちゃん、それでは、あなたの努力が水の泡になってしまうでしょう。
わたし自身は今のままで良いと思っているし、本当は切りたくもないのです。
ただ、立場上、他の里の偉い方々をお迎えすることもありますし、全く手つかずにはできないの。
だから、あまり切らなくても、モミの神を納得させられる方法を考えたいのよ。
わたしの事を心配してくれて嬉しいわ。ありがとうね、バラちゃん」
長いこと考えあぐねて、既にもう300年以上も経っています。何か思いつきそうで、思いつかない姫は、この頃お城中をウロウロ、ウロウロしていました。
あの時、モミの神はこう言っていました。
“しかし姫、この城は、花の里で1、2を争う立派な巨城でございます。
各里からの観光客だけでなく、上位神なども訪れることもございましょう。
宮殿を訪問した各里の高官も訪れる事もあるのですから、好き勝手、無作法にツルを這わせては、示しがつきません”
モミの神は、バラの出自を気にしていたようですし、イバラの多さに対しての花の少なさも気にしています。それに、バラが城で幅を利かせているのも許せない様子でした。
出自に関しては、バラが頑張って出世していけば、その内に認められるでしょう。既に精霊にも昇華しましたし、地道に頑張って行けば良いのです。
つらつら推もんみると、モミの神は、イバラに覆われた城の姿が気に入らない様子でしたから、見た目が良ければ良いのではないか、と姫は考えました。
次の日から、お城をあげての大工事が始められたのです。姫は隊長級の兵士達を集めて言いました。
「親愛なるわたしの兵士達、皆さんも知っての通り、この城はイバラに覆われていて、宮殿からそれを伐採するように言われています。
ですが、皆さんはバラのお友達ですし、バラがどんな努力を重ねてここまで成長してきたか、その両目で見てきたと思います。
あの子が、まさか精霊にまで昇華するなんて、皆さんもびっくりしていることでしょう。わたしでさえ、ビックリしているのですから。
ですが今、バラのイバラは切られようとしています。
もし剪定されてしまったのなら、今のバラでは、また妖精に降下してしまうかもしれません。それだけ大きな神気を失ってしまうのです。
ですから、わたしは考えました。
イバラを剪定せずに、立派で美しい庭園を造ってしまおう、と」
兵士達はざわめきました。確かにバラはお友達ですし、出来る事なら剪定なんかしたくありません。そもそも今のバラは、兵士達にとって大事な戦力でもありました。
姫は、続けて計画を話しました。無秩序に城を覆っているイバラを使って庭を彩ろう、というのです。水彩画で書かれた姫の絵は、とても可愛らしいお城の絵でした。
裏庭には、とても綺麗なバラの迷路、北側の庭には何重にも連なったバラのアーチ、城につたうツルは、バラに頼んで可能な限り古いツルにしてもらいます。観覧に来たお客さん向けに、花は南側に咲くようにしてもらいます。集まって咲かせれば、沢山あるように見えますし、城のつたうツルも緑1色に統一出来るでしょう。
バラのツルは赤と緑の2色にわかれていました。根元に近い方は緑色で、先の方の新しいツルは赤かったり、赤紫色だったりします。葉っぱも同じでした。新しいツルは、紫外線から身を守る為に、葉や肌が赤紫色になるのです。
ですから、新しいツルをあまり使わないことによって、青々とした美しく輝く衣装をお城に着せよう、と姫は思ったのです。
事前に姫は、モミの神が送ると言っていた応援を送ってくれるように手紙を出していました。ですが、彼らが到着した時には着工しているように、手紙の到着日を計算していました。
しばらくして応援にやって来た工作部隊は、当然モミの神がたてた剪定計画を持って来ていましたが、既に工事が始まっていたので、どうして良いか迷っています。姫は彼らの顔を潰さないように長旅をねぎらい、みんなの手間にならないように準備をしていた、と言いました。
「わたしは昔、この城に来る前に、お庭にお花畑を作ろうと思っていました。
その話はモミの神も知っていて、とても楽しそうに聞いてくれていたわ。
訪れた各里の神々も楽しめるようなお庭にしたくて、色々研究した結果、このようにしようと思っているのよ」
自分の描いた水彩画を見た工作隊の隊長に、姫は続けて言いました。
「お城を蔦っているイバラは大分剥がされるし、訪問者を楽しませるためにお花でお出迎えも出来るわ。
迷路やアーチもあって、とても優美でしょう? モミの神が心配していた事も解決できるし、私はこれで大満足よ」
姫は、モミの神の顔を立てた上で、計画は変更しない、という意思を遠回しに伝えました。工作隊は従うほかありません。モミの神の顔が立ち、自分達もモミの神に言い訳ができます。姫がとても気を使ってくださった事に恐れ入って、すぐ作業に参加しました。
バラが自分で動かせるツルは自分で動かしましたが、動かせないツルは、みんなに手伝ってもらって、姫の気に入る形になるまで何度も直しました。
バラの4580歳のバースデーに完成式を行いました。お披露目には大勢のお客さんが来場し、美しいバラの庭園に生まれ変わった外庭を散策して楽しみました。
以前は、裏庭を楽しむ訪問者はほとんどいませんでしたが、今では一周周っても飽きずに、もう一度お散歩するお客さんも多くいます。子供達にはバラの迷路が大人気でした。
初めの予定では、半分以上が剪定されるはずだったバラでしたが、何と1本も切られることはありませんでした。バラ本人だけでなく、仕える兵士達も、姫の手腕に驚きました。松の爺やだけは、さも分かっていた様子で長い髭をなでながら、「さすがは姫様ですじゃ」と感心しています。
完成式に招かれたモミの神は、庭園を見て回って言いました。
「イバラで荒れたあの庭が、まさかこのように生まれ変わるとは思いませんでした。
城は緑のベールをまとい、庭には姫の元気さを思わせる迷路やアーチがあって、目を楽しませてくれます。
私が以前参りました時には、バラの花は小さくて、ここには似つかわしくないと申し上げましたが、このように集めて咲かせることで、見え方がここまで変わろうとは思いもよりませんでした。
しかも、それを全く剪定することなくやってのけるとは、姫のお力には恐れ入るばかりでございます」
モミの神は、感嘆に感嘆を重ねても足りない様子で、更に感嘆を重ねた感嘆の言葉を繰り返すほどに感嘆しました。それでも、まだバラを完全に認めたわけではないようです。
「バラの精霊よ、精霊になったからといって調子に乗ってはならぬぞ。
お前はまだまだ弱くて、全く頼りにならん。
もし本当に姫の騎士になりたいのであれば、もっと精進しなければならないぞ。
お前以上に強い神気を持つ精霊は沢山いるのだからな」
モミの神は、バラを少しは評価しなおしたようです。それでも、もし姫のおそばにお仕えするに及ばないと判断したなら、バラを引っこ抜いて、他の騎士を植えようと考えていました。バラよりも強い精霊はいくらでもいるのですから。
3000年前、裏庭の端に植えたバラの苗は、城の外壁の下部を覆い、正門の上部を越えて一周周って、裏庭まで戻ってきていました。小さな5枚の花弁の花が咲いていますが貧弱で、イバラの規模にはとても似つかわしくない少なさです。
花の里の姫が住むお城というより、魔界にありそうなお城に見えました。城の正面には賑わいを見せる町があり、周りは大草原、裏には湖があって森も茂っています。その景観のお陰で、なんとか魔界の城には見えずにいました。
姫はバラととても仲が良かったですし、一緒に過ごした時間が長いので、この城の情景を見ても、モミの神が言うように悪い様には思いません。なにしろ、こうなった様子を突然見たわけではなく、そうなっていく様を見てきたのです。バラの成長の記録でもあり、とても大切な思い出のイバラなのです。
ですが、宮殿でとても偉い地位にいるモミの神との約束を放置しておくわけにはいきません。と言っても、言われるがままに剪定するなんて、とてもしたくありません。かといって、このまま放置してやり過ごすなんて出来ないでしょう。ですから、姫はとても悩んでいました。
モミの神を納得させて、バラを傷つけない方法な無いものかと、最近ずっと考えていたのです。
バラは、姫のお気持ちを察して、自らを剪定することを上申しました。姫はバラの心情を慮って、言いました。
「バラちゃん、それでは、あなたの努力が水の泡になってしまうでしょう。
わたし自身は今のままで良いと思っているし、本当は切りたくもないのです。
ただ、立場上、他の里の偉い方々をお迎えすることもありますし、全く手つかずにはできないの。
だから、あまり切らなくても、モミの神を納得させられる方法を考えたいのよ。
わたしの事を心配してくれて嬉しいわ。ありがとうね、バラちゃん」
長いこと考えあぐねて、既にもう300年以上も経っています。何か思いつきそうで、思いつかない姫は、この頃お城中をウロウロ、ウロウロしていました。
あの時、モミの神はこう言っていました。
“しかし姫、この城は、花の里で1、2を争う立派な巨城でございます。
各里からの観光客だけでなく、上位神なども訪れることもございましょう。
宮殿を訪問した各里の高官も訪れる事もあるのですから、好き勝手、無作法にツルを這わせては、示しがつきません”
モミの神は、バラの出自を気にしていたようですし、イバラの多さに対しての花の少なさも気にしています。それに、バラが城で幅を利かせているのも許せない様子でした。
出自に関しては、バラが頑張って出世していけば、その内に認められるでしょう。既に精霊にも昇華しましたし、地道に頑張って行けば良いのです。
つらつら推もんみると、モミの神は、イバラに覆われた城の姿が気に入らない様子でしたから、見た目が良ければ良いのではないか、と姫は考えました。
次の日から、お城をあげての大工事が始められたのです。姫は隊長級の兵士達を集めて言いました。
「親愛なるわたしの兵士達、皆さんも知っての通り、この城はイバラに覆われていて、宮殿からそれを伐採するように言われています。
ですが、皆さんはバラのお友達ですし、バラがどんな努力を重ねてここまで成長してきたか、その両目で見てきたと思います。
あの子が、まさか精霊にまで昇華するなんて、皆さんもびっくりしていることでしょう。わたしでさえ、ビックリしているのですから。
ですが今、バラのイバラは切られようとしています。
もし剪定されてしまったのなら、今のバラでは、また妖精に降下してしまうかもしれません。それだけ大きな神気を失ってしまうのです。
ですから、わたしは考えました。
イバラを剪定せずに、立派で美しい庭園を造ってしまおう、と」
兵士達はざわめきました。確かにバラはお友達ですし、出来る事なら剪定なんかしたくありません。そもそも今のバラは、兵士達にとって大事な戦力でもありました。
姫は、続けて計画を話しました。無秩序に城を覆っているイバラを使って庭を彩ろう、というのです。水彩画で書かれた姫の絵は、とても可愛らしいお城の絵でした。
裏庭には、とても綺麗なバラの迷路、北側の庭には何重にも連なったバラのアーチ、城につたうツルは、バラに頼んで可能な限り古いツルにしてもらいます。観覧に来たお客さん向けに、花は南側に咲くようにしてもらいます。集まって咲かせれば、沢山あるように見えますし、城のつたうツルも緑1色に統一出来るでしょう。
バラのツルは赤と緑の2色にわかれていました。根元に近い方は緑色で、先の方の新しいツルは赤かったり、赤紫色だったりします。葉っぱも同じでした。新しいツルは、紫外線から身を守る為に、葉や肌が赤紫色になるのです。
ですから、新しいツルをあまり使わないことによって、青々とした美しく輝く衣装をお城に着せよう、と姫は思ったのです。
事前に姫は、モミの神が送ると言っていた応援を送ってくれるように手紙を出していました。ですが、彼らが到着した時には着工しているように、手紙の到着日を計算していました。
しばらくして応援にやって来た工作部隊は、当然モミの神がたてた剪定計画を持って来ていましたが、既に工事が始まっていたので、どうして良いか迷っています。姫は彼らの顔を潰さないように長旅をねぎらい、みんなの手間にならないように準備をしていた、と言いました。
「わたしは昔、この城に来る前に、お庭にお花畑を作ろうと思っていました。
その話はモミの神も知っていて、とても楽しそうに聞いてくれていたわ。
訪れた各里の神々も楽しめるようなお庭にしたくて、色々研究した結果、このようにしようと思っているのよ」
自分の描いた水彩画を見た工作隊の隊長に、姫は続けて言いました。
「お城を蔦っているイバラは大分剥がされるし、訪問者を楽しませるためにお花でお出迎えも出来るわ。
迷路やアーチもあって、とても優美でしょう? モミの神が心配していた事も解決できるし、私はこれで大満足よ」
姫は、モミの神の顔を立てた上で、計画は変更しない、という意思を遠回しに伝えました。工作隊は従うほかありません。モミの神の顔が立ち、自分達もモミの神に言い訳ができます。姫がとても気を使ってくださった事に恐れ入って、すぐ作業に参加しました。
バラが自分で動かせるツルは自分で動かしましたが、動かせないツルは、みんなに手伝ってもらって、姫の気に入る形になるまで何度も直しました。
バラの4580歳のバースデーに完成式を行いました。お披露目には大勢のお客さんが来場し、美しいバラの庭園に生まれ変わった外庭を散策して楽しみました。
以前は、裏庭を楽しむ訪問者はほとんどいませんでしたが、今では一周周っても飽きずに、もう一度お散歩するお客さんも多くいます。子供達にはバラの迷路が大人気でした。
初めの予定では、半分以上が剪定されるはずだったバラでしたが、何と1本も切られることはありませんでした。バラ本人だけでなく、仕える兵士達も、姫の手腕に驚きました。松の爺やだけは、さも分かっていた様子で長い髭をなでながら、「さすがは姫様ですじゃ」と感心しています。
完成式に招かれたモミの神は、庭園を見て回って言いました。
「イバラで荒れたあの庭が、まさかこのように生まれ変わるとは思いませんでした。
城は緑のベールをまとい、庭には姫の元気さを思わせる迷路やアーチがあって、目を楽しませてくれます。
私が以前参りました時には、バラの花は小さくて、ここには似つかわしくないと申し上げましたが、このように集めて咲かせることで、見え方がここまで変わろうとは思いもよりませんでした。
しかも、それを全く剪定することなくやってのけるとは、姫のお力には恐れ入るばかりでございます」
モミの神は、感嘆に感嘆を重ねても足りない様子で、更に感嘆を重ねた感嘆の言葉を繰り返すほどに感嘆しました。それでも、まだバラを完全に認めたわけではないようです。
「バラの精霊よ、精霊になったからといって調子に乗ってはならぬぞ。
お前はまだまだ弱くて、全く頼りにならん。
もし本当に姫の騎士になりたいのであれば、もっと精進しなければならないぞ。
お前以上に強い神気を持つ精霊は沢山いるのだからな」
モミの神は、バラを少しは評価しなおしたようです。それでも、もし姫のおそばにお仕えするに及ばないと判断したなら、バラを引っこ抜いて、他の騎士を植えようと考えていました。バラよりも強い精霊はいくらでもいるのですから。
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