愛するということ

緒方宗谷

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55.大葉の過去

4.2人のLOVE

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 深夜バスの時間までまだだいぶあったので、有紀子と加奈子は、お城のそばにある市場でご飯を食べた。クジラの竜田揚げとマグロをぐるぐる巻いたやつが美味しい。「もう少し安ければ一口餃子をたくさん食べたい」と加奈子が嘆く。だが金欠なので我慢した。
 有紀子は、加奈子が(有紀子のお金で)買ったウツボを一口もらったが、食べるのに勇気がいった。
 一口餃子のお店のカウンターで、餃子が焼き上がるのを待っている時、突然加奈子が面白い顔をした。
「うへっ、このお茶酸っぱい」
 加奈子が、さっき買ったペットボトルのお茶を飲んだ時のことだ。麦茶みたいな色をしているが、とても酸味が利いている。一口飲ませてもらった有紀子も顔をしかめた。
 餃子を焼いていた店員の話によると、お茶葉を発酵させて作った『碁石茶』という飲み物らしい。日本には数種類しかない発酵茶だ。
 加奈子は新奇探究心が強く、初めて見る食べ物に興味津々でどんどん買っていく。金欠だから節約しなきゃと言って観光し始めたのに、結局破産。
 時間が遅かったので幾つかの料理は値引きで売られていたが、お腹はいっぱいにならない(予算の都合、及び加奈子が量の少ない変なものばかりかったせいで)。そんな理由で、バス停がある高知駅への道すがら、コンビニでパンを買った。加奈子は朝のセリフを繰り返す。
「うーん、ひもじい。高知まで来てコンビニぱんとは我ながら情けないのう」
 それからしばらく会話が途切れたが、加奈子が口を開いた。
「陸君、いいヤツだったね」
「うん」
 加奈子の透き通った低い声に、有紀子が頷く。
 背伸びをして頭に手を回した加奈子が、夜空を仰いだ。
「思っていたよりいいやつだなぁ、ああいうのいいかも」
 加奈子が続ける。
「でも、余計に分からなくなった。バイセクシャルって思っていた時期もあるし、レズビアンだって思った時期もあって、うやむやになって、今はまたレズビアンだって思ってる。
 でも、今日の陸君の話を聞いて、男の子も、陸君もいいかなってちょっと思っちゃった」
「ええ? ちょっと、やめてよ」
 ビックリする有紀子に、加奈子は「あはは」と笑う。
「冗談よ、なんていうか、あんな男子になりたいなって。
 そう思うと、余計わからないのよね、LなのかBなのかTなのか」
 確かにそうだ。有紀子は加奈子のことを理解したくて、何冊かそういう本を買ったことがある。LGBTの内、LGBは分かりやすかったがTは難しい。本によって範囲が異なるし、トランスジェンダーにも色々な方がいるらしいのだ。しかも、QIAまであって+がつく。そこまでくると、もうちんぷんかんぷん。
 その上、幼少期は女児(男児)でも、第二次成長で体の特徴が変わることもある。脳にも性別があって、生まれついての性別と、成長の過程で変化する性別があるらしい、というくだりも加わって、有紀子は思考停止状態。
 でも、一つだけ確実に分かっていることが、有紀子にはあった。
「別に今ハッキリさせなくてもいいんじゃない? 加奈子は加奈子だもん。
 加奈子のセクシュアリティが何だって、わたしは加奈子が大好きだよ」
「うふ、ありがとー」
 お互い俯いいたまま言った。深夜バスはもう来ていた。

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