愛するということ

緒方宗谷

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53.闇サイト

3.拒絶反応

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 知恵は複雑な気持であった。初めは裏サイトのことを信じていなかった。陸が異性愛者であることは、自分が一番よく知っている。なんせ、抱かれた自分が女子であるのだから。だが、今はモヤモヤとしている。
 友達のひかるは、嬉々として知恵に言った。
「あの話本当ってことは、バイってことだよね」
「バイ? 何それ?」
「バイセクシャルってこと、同性も異性もOKな人のことよ」
 秘密であるが、ひかるはやおいが大好きだった。思春期の男子の如く、ベッドの下にはエッチな漫画を数冊隠している。表向きは軽いタッチのBLしか読まない。内容は仲の良い男子の青春ストーリーなので、知恵はひかるの本当の趣味に気が付いていない。
 同性を抱いた手で私を抱いたのかと思うと、とてもモヤモヤした思いがこみ上げる。知恵は少し不安になって顔を歪めた。それを察したひかるが言う。
「知恵はダメなタイプ?」
「え? ダメって、いいわけないじゃん、ひかるは大丈夫なの?」
 「二股されて無ければ気にならないかな、なんか解放されてる感じ」
 ひかるの表情は、少し興奮しているようにも見える。唇をすぼめて微かににやけていた。鼻息を荒くして、綺羅星が瞳に散らばっている。教室なので知恵はつっこまなかったが、明らかにいつもと違う。
 ひかるが続ける。
「なんか、女子が割り込むことの出来ない友情の先にある純愛? ドキドキしちゃう。沢山の障害を乗り越えて結ばれるんだよ」
 理解できない。知恵は、男の子同士の青春小説ばかり読みすぎだと思った。
 ひかるは想像を馳せなから、愉悦した表情で推理を展開する。
「サイトの動画の彼は、間違いなく心は女子だね。すると上条先輩が攻めか」
「ちょっと、変な想像しないでよ」
 知恵はそっぽを向いて、話しを遮った。受け入れられるはずがない。そんなことあってはならない、と考えていた。ただ、しばらくすると不安だと思う気持ちは消え、同情へと変わった。
 放課後、ひかるの家に遊びに行って同性愛について開設されたサイトを見ると、彼(彼女)達の悲痛な叫びが書かれていたからだ。
 知恵は自らの意思で閲覧したわけではない。「うちで一緒に見てみようよ」、とひかるに誘われただけだった。
 ひかるが知恵を誘ったのは、別に啓蒙や啓発のつもりではない。自分の趣味を友達に言いたかっただけだ。この子にとって性属性の悩みは、肉体を乗り越えたラブストーリーが成就するまでの障害としてしか受け止められていない。
 だが、知恵は思った。そんな楽しんでみられる内容ではない。とても残酷に思えた。性に悩む人々が可哀想で、否定したい気持ちも消えた。同時に陸への愛情も潰えた。
 
 
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