163 / 192
51.時空
2.赤ちゃんプレイ
しおりを挟む
退院した陸であったが、すぐには学校に行かなかった。中学・高校での記憶がすっぽりと無くなっていたからだ。小学生の時、彼に彼の過去を教えるのは母親の役目であったが、今回は有紀子と加奈子が務めた。
有紀子と加奈子の2人で陸の家に遊びに行って、夏に伊豆旅行に行った時の写真や、夏祭りの写真。学校で撮った写真や、食事会の写真を見ながら、思い出話を語って聞かせる。
10歳に戻ったといっても、陸の精神や知能が幼児返りをしているわけではない。頭脳は今までと変わらなかった。ただ、ローラースケートを履いたまま自転車に乗ろうとしていた時の記憶までしかない、というだけだ。
日本語は高校生レベルで普通に喋っていた。特に2人がびっくりしたのは、英語の会話力が事件前と変わらないことだ。違う意味でびっくりしたのは、体育意外の他の教科はからきし駄目になっていた。
加奈子が笑って陸に言った。
「よかった。私、心配してたんだ。陸君が赤ちゃんプレイになっちゃったらどうしようって。記憶が無いってだけで、今までと変わんないじゃん」
有紀子が笑って続ける。
「でも、前より子供っぽくなったよね。いい感じに。少年の心を忘れていないというか。小学校気分が抜けない中学生っていうか。夏休み気分が抜けてない感じ?」
陸が「あはっ」と笑った。「僕、2人と話していて思うんだけれど、2人より結構精神年齢高いと思うよ?」
「ひどーい」
プリプリそう言う有紀子に「ごめんごめん」と返す陸を見て、加奈子が大笑いした。
「それは言えてる。有紀は結構子供っぽいところがあるからね」
「本当、有紀ちゃんがこないだ赤ちゃんプレイだったよ。僕より子供っぽくしゃべるんだもん。僕、お兄ちゃんみたいに思っちゃったよ」
「ほおう、ゆっこには赤ちゃんプレイのご趣味が?」
ののほんと笑う陸の言葉を聞き逃さなかった加奈子は、ニヤリと笑った。
「やだ! 陸君変なこと言わないで」
真っ赤に頬を染めた有紀子が、女の子パンチで空を叩く。
ほのぼのとした時間が過ぎていた。笑い疲れて一瞬会話に間があった後、陸は2人を交互に見て言った。
「なんかこう――」
陸は2人の手を取って続ける。
「なんかこう、記憶はないけど、3人で1人って感じがする」
微笑む陸に2人が笑みを返して、交互に目を合わせる。
――そうだ、私達は3人で1人なんだ――
有紀子と陸と加奈子。3人は同じ想いをいだいていた。それは、のどかな陽だまりに生えた名もなき草花と、そこに響く小鳥のさえずりが織り成して生まれた雰囲気の様に、心を温かくしてくれた。
有紀子と加奈子の2人で陸の家に遊びに行って、夏に伊豆旅行に行った時の写真や、夏祭りの写真。学校で撮った写真や、食事会の写真を見ながら、思い出話を語って聞かせる。
10歳に戻ったといっても、陸の精神や知能が幼児返りをしているわけではない。頭脳は今までと変わらなかった。ただ、ローラースケートを履いたまま自転車に乗ろうとしていた時の記憶までしかない、というだけだ。
日本語は高校生レベルで普通に喋っていた。特に2人がびっくりしたのは、英語の会話力が事件前と変わらないことだ。違う意味でびっくりしたのは、体育意外の他の教科はからきし駄目になっていた。
加奈子が笑って陸に言った。
「よかった。私、心配してたんだ。陸君が赤ちゃんプレイになっちゃったらどうしようって。記憶が無いってだけで、今までと変わんないじゃん」
有紀子が笑って続ける。
「でも、前より子供っぽくなったよね。いい感じに。少年の心を忘れていないというか。小学校気分が抜けない中学生っていうか。夏休み気分が抜けてない感じ?」
陸が「あはっ」と笑った。「僕、2人と話していて思うんだけれど、2人より結構精神年齢高いと思うよ?」
「ひどーい」
プリプリそう言う有紀子に「ごめんごめん」と返す陸を見て、加奈子が大笑いした。
「それは言えてる。有紀は結構子供っぽいところがあるからね」
「本当、有紀ちゃんがこないだ赤ちゃんプレイだったよ。僕より子供っぽくしゃべるんだもん。僕、お兄ちゃんみたいに思っちゃったよ」
「ほおう、ゆっこには赤ちゃんプレイのご趣味が?」
ののほんと笑う陸の言葉を聞き逃さなかった加奈子は、ニヤリと笑った。
「やだ! 陸君変なこと言わないで」
真っ赤に頬を染めた有紀子が、女の子パンチで空を叩く。
ほのぼのとした時間が過ぎていた。笑い疲れて一瞬会話に間があった後、陸は2人を交互に見て言った。
「なんかこう――」
陸は2人の手を取って続ける。
「なんかこう、記憶はないけど、3人で1人って感じがする」
微笑む陸に2人が笑みを返して、交互に目を合わせる。
――そうだ、私達は3人で1人なんだ――
有紀子と陸と加奈子。3人は同じ想いをいだいていた。それは、のどかな陽だまりに生えた名もなき草花と、そこに響く小鳥のさえずりが織り成して生まれた雰囲気の様に、心を温かくしてくれた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
律と欲望の夜
冷泉 伽夜
大衆娯楽
アフターなし。枕なし。顔出しなしのナンバーワンホスト、律。
有名だが謎の多いホストの正体は、デリヘル会社の社長だった。
それは女性を喜ばせる天使か、女性をこき使う悪魔か――。
確かなことは
二足のわらじで、どんな人間も受け入れている、ということだ。
“純”の純愛ではない“愛”の鍵
Bu-cha
恋愛
男よりも“綺麗で格好良い”と言われる“純”が仕舞ったはずの“愛”が、また動き出す。
今後は純愛ではない形で。
ホワイトデー、30歳の誕生日の夜に再会をしたのは3年前に終わったはずの身体の関係“だけ”の相手。
2人で何度も通った店で再会をし、3年前と同じように私のことを“純ちゃん”と呼び、私のことを“女の子”として扱ってくれる。
ちゃんと鍵を掛けて仕舞ったはずの“愛”がまた動き出してしまう。
関連物語
『お嬢様は“いけないコト”がしたい』連載中
『朝1番に福と富と寿を起こして』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高21位
『約束したでしょ?忘れちゃった?』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高30位
『好き好き大好きの嘘』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高36位
『雪の上に犬と猿。たまに男と女。』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高11位
※イラストもBu-cha作

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる