愛するということ

緒方宗谷

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44.渡り廊下の里美と有紀子

1.提案

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「渡辺さん、ちょっといい?」と私(里美)は声をかけた。
 意外そうな顔をしている。「えっ?」だって。私って怖いのかな。渡辺さん少し怯えた様子だ。
「篠原さん、何?」
 渡り廊下の中央で待ち伏せしていた私に声をかけられた渡辺さんはそう答えて、少ししかめっ面で私を見て、おずおずと隣の壁に寄りかかる。
 私は窓枠に寄りかかたまま、一度大きく深呼吸をして言った。
「陸君のことどう思う?」
「どう思うって――」
 渡辺さんは少しびっくりしたように眉をあげて、少し高いトーンで声を発した。一度私から視線を外してもう一度こちらを見る。私はその視線を見つめ返す。彼女はすごい真剣な表情だったけど、何も言わない。業を煮やした私が口を開いた。
「陸君が村上さんを好きなのは知ってる?」
「……うん」
「2年の子と付き合ってるのは?」
「知ってる」
「この間陸君と話す機会があったんだけど、まだ村上さんのこと好きみたい」
 私がそう言うと、渡辺さんはあからさまに嫌な顔をして私から視線を逸らした。でも私は続ける。
「理由は知らないけど、村上さんって陸君と喧嘩してるよね? 渡辺さんも陸君と話してないみたいだし。何が原因だったの?」
「話したくない」
「噂は本当?」
「まさか、そういうんじゃないの。でも話せないから、ごめんね」
 渡辺さんは、ため息をついて続ける。
「でも何で坂本さんと付き合いだしたんだろう。篠原さんの話だと、まだ加奈子のこと好きなのに」
 ひどい。陸君のことそんな風に言うなんて。でも私は感情を顔に出さずに答える。
「告白して失恋したんだから、とても傷ついたんだよ。その傷を癒してほしくて、誰かにコロッといっちゃうことだってあるんじゃないかな?」
 告白してない私だって未だにずきずき痛いのだ。渡辺さんなんかに陸君の何が分かるんだ、と思いながら、私は渡辺さんに一つの提案をした。

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