愛するということ

緒方宗谷

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35.決定的な亀裂

1.大切な人

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 陸は、有紀子と目を合わさなかった。有紀子も目を背けて見ないようにしている。2人の間に不穏な空気が流れた。ついこの間自分に告白したばかりだと言うのになんということか、と加奈子は陸の様子を苦々しく見据え憤っていた。放課後、帰り道の出来事である。
 唯一勝ち誇ったように笑みを浮かべる知恵は、陸に腕を回して悦に浸ったような目で有紀子を見下す。
 通り過ぎるまでずっと、加奈子は陸を睨んでいた。1回知恵を見やる。さすがに加奈子のことは怖いらしく、知恵は目を合わせない。
 すれ違ってすぐに、加奈子が口を開いた。
「ねえ、陸君、いい気なものね、この間私に告白したばかりだっていうのに、フラれてすぐに彼女がいるなんて」
「加奈を好きだったのは事実だけど、間違いだったって今分かったよ。告白したことを人前で晒すなんて最低だな」
 有紀子は争いたくなかった。ようやく加奈子と友情を回復することが出来たばかりだ。あとは、三角関係(四各関係?)の均衡をどう保っていくかで頭がいっぱいだった。
 加奈子の性格は表も裏も気が強い。陸は表向き静かだが、内実我が強い。まくしたて合うとまではいかないが、お互いケンカ腰に意見を言い合う。
 元来大人しい有紀子は、2人の激しいやり取りを見て、ハラハラドキドキしてもう関係は修復できない、と絶望していた。
 だが実際、2人共お互いに敵意は感じていない。はっきりと意見しあうことの出来る関係だと認め合っていた。当時の2人は単純にお互いにムカついていただけだった。後になって落ち着いて振り返ると、お互いの意見も一理ある、と思えることになる。
 2人は気持ちよく言い合っていたのだが、隣で見ている有紀子は気が気ではない。こうもハッキリ言いあっていては、聞きたくない決定的な言葉を聞かざるを得なくなる。
 陸は、知恵の肩を抱き寄せて言い放った。
「俺、今知恵が好きなんだ! 知恵と付き合っているんだ」
(ああ、やっぱり)。有紀子は苦しげに表情を歪めて俯く。加奈子は言葉を返せないでいた。陸はそのまま背を向けて歩いていった。知恵の肩に腕を回す姿は、お前は漫画に出てくる70代の不良か、とツッコミたくなる光景だ。
 だが、そんなツッコミを入れる余裕なんてない。ここでようやく加奈子は気が付いた。有紀子が止めたかったのは、陸と知恵がつきあっている、と100%認知してしまう状況だったのだ。
 加奈子は口を開けたまま絶句している。プルプル震える手で陸を指さす。しばらくして有紀子を見た。
「ごめーん、有紀ー‼」
「いいのよ、いいの」
 えーん、と泣くそぶりを見せる加奈子を慰めながら、(内心泣きたいのはこっちだよ)と思う有紀子であった。

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