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31.新常識
2.有紀子と島根と彩絵
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なんか話が脱線したまま、有紀子は家についた。
(何でこんなこと考えていたんだっけ?)
玄関の外で鍵を開けずに少し考える。
(そうだ、島根さんと会ったからだ)
加奈子の家庭教師の島根だ。加奈子の家に遊びにいった時に何度か会ったことがあるだけで、挨拶以外会話を交わしたことは無い。格好良い人ではあるが、特別興味をいだいたりはしなかった。
今日たまたま国分寺駅で島根に会った。向こうは有紀子を覚えていて、「有紀ちゃん」となれなれしく話しかけてきた。有紀子は一瞬誰か分からなくて身構えたが、加奈子の家庭教師だと思い出して気が緩む。と同時に硬直した。
可笑しな現象であったが、実際にそうなった。島根の後日談曰く、この時の有紀子の顔は、少女漫画系のホラーに出てくるショッキングな表情だったらしい。何か悍ましいものを見たかのような顔を、一瞬(と言うか数秒)したという。
苦玉を練り込んだコンクリートの様な声で、有紀子は言ったらしい。
「……妹さんですか?」
「違うよ、彼女だよ」苦笑いで島根が答える。
「初めまして、水野です」
少し間があった。ロリコンだと思われている、と島根は気が付いた。
有紀子は平静を装って笑顔を振りまいたが、目が笑っていない。彩絵にそう指摘されてドギマギした。
「うふふ、私、一応20歳ですよぅ、えっへん」
場を和ませよう、としたのか、妙ににこやかな笑顔で彩絵が、これでもか、と可愛さを振りまく。
有紀子の眉間にすっごいシワがよる。そうならないように心掛けるのだが無理だ。そう思った。有紀子の警戒リストに島根が登録された瞬間だった。
いろんなものを見透かして、彩絵が低く高低差のない声で言う。
「たっちゃんのこと、ロリコンだって思っているんでしょう?」
図星だ。「はい、あ、いいえ」。わざと言い間違える有紀子に、島根が苦笑いをする。
気持ち悪い、という気持ちは、外に出してはいけない。有紀子は無感情な笑顔を浮かべる。
(ん? はたち? 20歳か)
なんで私は気持ち悪いと思ったのだろう、と有紀子は考えた。その瞬間、彩絵に申し訳ない気持ちが湧く。
(小学生? うん、申し訳ないけど見た目中学生とは言えないよね。本当に小中学生なら犯罪だと思うけど……)
だけど20歳なら問題ない。なのに嫌悪をいだくのはおかしい。有紀子は、彩絵のことを20歳の女性として全否定していたことに気が付いた。
島根を悍ましく思うということは、同時に水野彩絵を悍ましく思っているのと同じことだと思った。そして、容姿のことを問題にするなんて最低だ、と有紀子は自分に思った。
これからデートらしい2人が背を向けた時、咄嗟に有紀子が呼び止める。
「お2人のお話を聞かせてくださいよう。ついでにお茶をおごってくれると嬉しいなぁ、島根さん。加奈ちゃんのお友達特権でお願いしまーす♡」
加奈子から聞いている通りの子だと島根は思った。「あの子は甘いもののことしか考えていない」と加奈子が言ったことがある。目の奥にはチーズケーキが自慢のカフェしか映っていない様子だった。
(何でこんなこと考えていたんだっけ?)
玄関の外で鍵を開けずに少し考える。
(そうだ、島根さんと会ったからだ)
加奈子の家庭教師の島根だ。加奈子の家に遊びにいった時に何度か会ったことがあるだけで、挨拶以外会話を交わしたことは無い。格好良い人ではあるが、特別興味をいだいたりはしなかった。
今日たまたま国分寺駅で島根に会った。向こうは有紀子を覚えていて、「有紀ちゃん」となれなれしく話しかけてきた。有紀子は一瞬誰か分からなくて身構えたが、加奈子の家庭教師だと思い出して気が緩む。と同時に硬直した。
可笑しな現象であったが、実際にそうなった。島根の後日談曰く、この時の有紀子の顔は、少女漫画系のホラーに出てくるショッキングな表情だったらしい。何か悍ましいものを見たかのような顔を、一瞬(と言うか数秒)したという。
苦玉を練り込んだコンクリートの様な声で、有紀子は言ったらしい。
「……妹さんですか?」
「違うよ、彼女だよ」苦笑いで島根が答える。
「初めまして、水野です」
少し間があった。ロリコンだと思われている、と島根は気が付いた。
有紀子は平静を装って笑顔を振りまいたが、目が笑っていない。彩絵にそう指摘されてドギマギした。
「うふふ、私、一応20歳ですよぅ、えっへん」
場を和ませよう、としたのか、妙ににこやかな笑顔で彩絵が、これでもか、と可愛さを振りまく。
有紀子の眉間にすっごいシワがよる。そうならないように心掛けるのだが無理だ。そう思った。有紀子の警戒リストに島根が登録された瞬間だった。
いろんなものを見透かして、彩絵が低く高低差のない声で言う。
「たっちゃんのこと、ロリコンだって思っているんでしょう?」
図星だ。「はい、あ、いいえ」。わざと言い間違える有紀子に、島根が苦笑いをする。
気持ち悪い、という気持ちは、外に出してはいけない。有紀子は無感情な笑顔を浮かべる。
(ん? はたち? 20歳か)
なんで私は気持ち悪いと思ったのだろう、と有紀子は考えた。その瞬間、彩絵に申し訳ない気持ちが湧く。
(小学生? うん、申し訳ないけど見た目中学生とは言えないよね。本当に小中学生なら犯罪だと思うけど……)
だけど20歳なら問題ない。なのに嫌悪をいだくのはおかしい。有紀子は、彩絵のことを20歳の女性として全否定していたことに気が付いた。
島根を悍ましく思うということは、同時に水野彩絵を悍ましく思っているのと同じことだと思った。そして、容姿のことを問題にするなんて最低だ、と有紀子は自分に思った。
これからデートらしい2人が背を向けた時、咄嗟に有紀子が呼び止める。
「お2人のお話を聞かせてくださいよう。ついでにお茶をおごってくれると嬉しいなぁ、島根さん。加奈ちゃんのお友達特権でお願いしまーす♡」
加奈子から聞いている通りの子だと島根は思った。「あの子は甘いもののことしか考えていない」と加奈子が言ったことがある。目の奥にはチーズケーキが自慢のカフェしか映っていない様子だった。
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