愛するということ

緒方宗谷

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27.陸の本性

2.誰も知らない過去

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 誰も知らない。高知での陸は、一時期荒れていた時がある。中学の3年間は、ビール缶を片手にヤニを燻らせていた。
 記憶喪失の影響で聞こえるようになった家庭内の不協和音に、陸の心は敏感に反応していたのだ。些細なことであるが、思春期の陸への影響は尋常ではなかった。
 不良という不良ではない。族に加わっているわけでもなかった。友達だけの小さなグループで、拾ってきた?スクーターを使ってチキンレースをして遊ぶ程度。可愛いやんちゃにも満たない。
 だがそれでも、ヒエラルキーを形成するためのタイマンは、何度も行われた。陸は一番強かったわけではない。それでも、何人かグループにいた1個上の先輩も含めて、ケンカの強さは上から数えた方が早かった。
 今いる学校は、1人も不良がいない健全な学校だ。しいて言えば、ヤンキーぽい女子が2人いるだけ。その2人も特別不良ではない。古い言い方をすればアムラー(とガングロの間くらい)に似ている程度だ。思春期や反抗期がこじれた感じの子ではない。
 だから、不良に面識のない吉野にとって、記憶喪失でとてもこじれた陸は、異界の魔物の様に見える。必死に懇願した。
 「悪かったよ、許してくれよ、頼むから。本当申し訳ない、ごめん」
 陸は、吉野が繰り返す謝罪の言葉を無視したばかりか、それを拒否すると言わんばかりに机の裏を蹴りあげる。
 すごい音を鳴り響かせて宙を舞う机が他の机やイスを巻き込んで床に落ちる。「ヒッ」と声を漏らした吉野は、人目も気にせず土下座をして許しを請う。
 陸は以外に冷静だった。膝をついた瞬間の吉野の頭にトゥキックを浴びせようとしたが、照準をずらして空を舞わせて、言った。
 「悪かったな、立てよ、もういいから。ただ、シャーペンがダメになっちゃったから、1本弁償してくれよ」
 すぐに吉野は1本持ってきた。自分が持っていた中で一番いいやつだ。陸が自分で折ったシャーペンは、ペットボトルのお茶を買った時についてきた安物のやつだった。デザインは別として、シャーペンとしては100円台で買えるだろう。
 もらうことを躊躇する陸に、ストレスに苛まれて苦しそうに歪む顔で、吉野が言う。
 「いや、謝罪の気持ちも入っているから」
 早く解放されたい、と願う吉野の顔は、さらに異様に歪んでいく。
 バルコニーも廊下も野次馬でいっぱいだ。窓も扉も開け広げられて、全ての開口部は生徒で埋まっている。その中をガタイの良い体育教師が分け入ってきて陸の頭を叩き、無理やり職員室へと連れていった。
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