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24.陸の告白
1.唐突に
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陸は思い詰めていた。いつかいなくなる自分なら、存在したという証を残したい。本気で大声で笑いあった思い出を残したい。自分は忘れてしまうかもしれないけれど、みんなの心に自分がいたという爪痕を刻みたい。学校の机にあるOBの名前や相合傘の様に消えない自分を。そう願うようになっていた。
あの笑顔、あの声、一挙一動が気になる。何を話しているんだろう。誰と話しているのだろう。ついこの間まで彼女が男子と話していることに何の抵抗もなかったはずなのに、今は全然耐えられない。
やめてほしい。俺以外の男子と話さないでほしい。寝ても覚めても彼女のことしか考えられない。自分だけのものになってほしい。好きだ。大好きだ。考えるだけで悶絶してしまうほど全身で愛している。
陸は考えた。こんな風に誰かを想ったことなんて、かつてあっただろうか、と。信じられない。見たこともない表情を想像してしまう。あんな声出すんだろうか。なんて俺は汚らわしいんだろう。
我慢すればするほど、陸の中に抑えきれない欲情が頭をもたげる。
全てを吐き出すと陸は冷静になれた。そこには純愛しか残っていない。陸は本当に好きだと思った。思い浮かぶのは、健やかな彼女の笑顔だけだ。
意を決した。正確には意を決したわけではない。それ以外考えられなかった。全身の細胞がそのことしか考えていなかった。何かスイッチを押して押しっぱなしにしたような感じだ。画面は押した瞬間のままで止まっている。離したら画面が消えるなんて、陸には思いもよらない。
何かのスイッチを押した次の日、陸は加奈子に校舎裏に来るように頼んだ。精一杯尖っていたあの頃の自分にすがりなから。そして、忘れ去られた日蔭の中で、神妙な面持ちで加奈子を見やって言った。
「俺、加奈子のことが好きなんだ」
沈黙があった。
それからしばらくして、虚を突かれた加奈子が、一瞬不安げに笑って目を泳がせながら口を開く。
「あはっ、何言っているの? バカなこと――そっか、冗談だよね、エープリルフールでもないのに、やんなっちゃうなぁ」しどろもどろした口調で、髪をすいたり指に絡めたりして言った。
「冗談なんかじゃないよ、本気で告白しているんだ」
「信じるわけないじゃん、親友の初恋の相手だよ、まだあの子、陸君のことが好きなんだよ。陸君だって、有紀子のことが――」
加奈子がそう言いかけた時、遮って陸が言った。
「そんな記憶なんてないよ。俺の中に、有紀子の記憶はない」
「記憶が戻ったら、どうするの?」
「戻っても変わらないさ」
「変わるよ、記憶が戻ったら、無かった時の記憶は無くなるって言うじゃない? 私のことなんて忘れて、有紀子のことを想うようになるよ」
陸は目を見開いて、少し強ばった表情で固まる。だが、加奈子は気がつかずに続けた。
「陸君は勘違いしているんだよ、きっと。戻りそうで戻らない記憶の扉の奥の気持ちが、有紀子といつも一緒にいる私に向かっているって」
加奈子は戸惑うような笑顔を向けながらそう言って、背伸びをしながら空を仰いで、最後に陸を見て微笑みかける。
「じゃあね、私、親友を裏切れないから」
そう言って駆けて行った。
陸は、その後ろ姿を見送った後、しばらく立ち尽くしていた。
あの笑顔、あの声、一挙一動が気になる。何を話しているんだろう。誰と話しているのだろう。ついこの間まで彼女が男子と話していることに何の抵抗もなかったはずなのに、今は全然耐えられない。
やめてほしい。俺以外の男子と話さないでほしい。寝ても覚めても彼女のことしか考えられない。自分だけのものになってほしい。好きだ。大好きだ。考えるだけで悶絶してしまうほど全身で愛している。
陸は考えた。こんな風に誰かを想ったことなんて、かつてあっただろうか、と。信じられない。見たこともない表情を想像してしまう。あんな声出すんだろうか。なんて俺は汚らわしいんだろう。
我慢すればするほど、陸の中に抑えきれない欲情が頭をもたげる。
全てを吐き出すと陸は冷静になれた。そこには純愛しか残っていない。陸は本当に好きだと思った。思い浮かぶのは、健やかな彼女の笑顔だけだ。
意を決した。正確には意を決したわけではない。それ以外考えられなかった。全身の細胞がそのことしか考えていなかった。何かスイッチを押して押しっぱなしにしたような感じだ。画面は押した瞬間のままで止まっている。離したら画面が消えるなんて、陸には思いもよらない。
何かのスイッチを押した次の日、陸は加奈子に校舎裏に来るように頼んだ。精一杯尖っていたあの頃の自分にすがりなから。そして、忘れ去られた日蔭の中で、神妙な面持ちで加奈子を見やって言った。
「俺、加奈子のことが好きなんだ」
沈黙があった。
それからしばらくして、虚を突かれた加奈子が、一瞬不安げに笑って目を泳がせながら口を開く。
「あはっ、何言っているの? バカなこと――そっか、冗談だよね、エープリルフールでもないのに、やんなっちゃうなぁ」しどろもどろした口調で、髪をすいたり指に絡めたりして言った。
「冗談なんかじゃないよ、本気で告白しているんだ」
「信じるわけないじゃん、親友の初恋の相手だよ、まだあの子、陸君のことが好きなんだよ。陸君だって、有紀子のことが――」
加奈子がそう言いかけた時、遮って陸が言った。
「そんな記憶なんてないよ。俺の中に、有紀子の記憶はない」
「記憶が戻ったら、どうするの?」
「戻っても変わらないさ」
「変わるよ、記憶が戻ったら、無かった時の記憶は無くなるって言うじゃない? 私のことなんて忘れて、有紀子のことを想うようになるよ」
陸は目を見開いて、少し強ばった表情で固まる。だが、加奈子は気がつかずに続けた。
「陸君は勘違いしているんだよ、きっと。戻りそうで戻らない記憶の扉の奥の気持ちが、有紀子といつも一緒にいる私に向かっているって」
加奈子は戸惑うような笑顔を向けながらそう言って、背伸びをしながら空を仰いで、最後に陸を見て微笑みかける。
「じゃあね、私、親友を裏切れないから」
そう言って駆けて行った。
陸は、その後ろ姿を見送った後、しばらく立ち尽くしていた。
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