愛するということ

緒方宗谷

文字の大きさ
上 下
79 / 192
24.陸の告白

1.唐突に

しおりを挟む
 陸は思い詰めていた。いつかいなくなる自分なら、存在したという証を残したい。本気で大声で笑いあった思い出を残したい。自分は忘れてしまうかもしれないけれど、みんなの心に自分がいたという爪痕を刻みたい。学校の机にあるOBの名前や相合傘の様に消えない自分を。そう願うようになっていた。
 あの笑顔、あの声、一挙一動が気になる。何を話しているんだろう。誰と話しているのだろう。ついこの間まで彼女が男子と話していることに何の抵抗もなかったはずなのに、今は全然耐えられない。
 やめてほしい。俺以外の男子と話さないでほしい。寝ても覚めても彼女のことしか考えられない。自分だけのものになってほしい。好きだ。大好きだ。考えるだけで悶絶してしまうほど全身で愛している。
 陸は考えた。こんな風に誰かを想ったことなんて、かつてあっただろうか、と。信じられない。見たこともない表情を想像してしまう。あんな声出すんだろうか。なんて俺は汚らわしいんだろう。
 我慢すればするほど、陸の中に抑えきれない欲情が頭をもたげる。
 全てを吐き出すと陸は冷静になれた。そこには純愛しか残っていない。陸は本当に好きだと思った。思い浮かぶのは、健やかな彼女の笑顔だけだ。
 意を決した。正確には意を決したわけではない。それ以外考えられなかった。全身の細胞がそのことしか考えていなかった。何かスイッチを押して押しっぱなしにしたような感じだ。画面は押した瞬間のままで止まっている。離したら画面が消えるなんて、陸には思いもよらない。
 何かのスイッチを押した次の日、陸は加奈子に校舎裏に来るように頼んだ。精一杯尖っていたあの頃の自分にすがりなから。そして、忘れ去られた日蔭の中で、神妙な面持ちで加奈子を見やって言った。
「俺、加奈子のことが好きなんだ」
 沈黙があった。
 それからしばらくして、虚を突かれた加奈子が、一瞬不安げに笑って目を泳がせながら口を開く。
「あはっ、何言っているの? バカなこと――そっか、冗談だよね、エープリルフールでもないのに、やんなっちゃうなぁ」しどろもどろした口調で、髪をすいたり指に絡めたりして言った。
「冗談なんかじゃないよ、本気で告白しているんだ」 
「信じるわけないじゃん、親友の初恋の相手だよ、まだあの子、陸君のことが好きなんだよ。陸君だって、有紀子のことが――」
 加奈子がそう言いかけた時、遮って陸が言った。
「そんな記憶なんてないよ。俺の中に、有紀子の記憶はない」
「記憶が戻ったら、どうするの?」
「戻っても変わらないさ」
「変わるよ、記憶が戻ったら、無かった時の記憶は無くなるって言うじゃない? 私のことなんて忘れて、有紀子のことを想うようになるよ」
 陸は目を見開いて、少し強ばった表情で固まる。だが、加奈子は気がつかずに続けた。
「陸君は勘違いしているんだよ、きっと。戻りそうで戻らない記憶の扉の奥の気持ちが、有紀子といつも一緒にいる私に向かっているって」
 加奈子は戸惑うような笑顔を向けながらそう言って、背伸びをしながら空を仰いで、最後に陸を見て微笑みかける。
「じゃあね、私、親友を裏切れないから」
 そう言って駆けて行った。
 陸は、その後ろ姿を見送った後、しばらく立ち尽くしていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。 何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。 同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。 もうやめる。 カイン様との婚約は解消する。 でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。 愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません! 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【1/23取り下げ予定】あなたたちに捨てられた私はようやく幸せになれそうです

gacchi
恋愛
伯爵家の長女として生まれたアリアンヌは妹マーガレットが生まれたことで育児放棄され、伯父の公爵家の屋敷で暮らしていた。一緒に育った公爵令息リオネルと婚約の約束をしたが、父親にむりやり伯爵家に連れて帰られてしまう。しかも第二王子との婚約が決まったという。貴族令嬢として政略結婚を受け入れようと覚悟を決めるが、伯爵家にはアリアンヌの居場所はなく、婚約者の第二王子にもなぜか嫌われている。学園の二年目、婚約者や妹に虐げられながらも耐えていたが、ある日呼び出されて婚約破棄と伯爵家の籍から外されたことが告げられる。修道院に向かう前にリオ兄様にお別れするために公爵家を訪ねると…… 書籍化のため1/23に取り下げ予定です。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

処理中です...