愛するということ

緒方宗谷

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21.島根隆弘と水野彩絵

6.偏見

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「ねえ、彼氏やばいよ、絶対ロリコンだよ」ポニーテールの優奈が言うと、
「そうよ、別れなよ」と、セミロングの律子が言った。
 大学内のカフェで、彩絵は友達に説得されていた。
「あなたは私達の愛玩動物なのよ」幼児をあやしながら諭すように言う優奈。
「そうよ、チワワ的なペットなんだから」律子が続ける。
 せめてマスコットと言ってほしい、と彩絵は思った。
「大丈夫だよ、たっちゃんはロリコンじゃないよ」
 彩絵は自信を持って続ける。
「ロリコンって、はあはあ言いながら鼻息を荒くして、『僕のアイスクリームをペロペロしてね』っていう奴を言うんだよ」
「ええ? あんたそんな目に遭ったことあるの?」優奈が、「げぇっ」とした表情をする。
「あるよ、高1の時、学校の裏で。でも大丈夫だったよ、やーって叫んで逃げたから。それでね、みんなに言いふらしてやったー」
 彩絵の話を聞いて律子は失笑気味に「うわ、最悪、私がそいつだったら、もう生きていけないね」と、泥をかき混ぜたような変顔で叫ぶ。
「うふふー、その人、登校拒否になっちゃった」
「あんた、面白い性格してるよね、可愛いなぁ」優奈は、少し呆れた感じで言う。
 彩絵は島根を信じていた。
 もともと、背が小っちゃいのも童顔なのもコンプレックスだった。特に、蚕の繭をスレンダーにしたような幼児体型が好きではない。胸に膨らみはあるものの、お酒を飲む杯を裏返したような形の胸、お尻も小さい。
 でも、やせているのでくびれはある。(それだけは好き)。彩絵はそう思った。
 大抵の男は「可愛い」って言ってくれるが、女としては見ない。彩絵は性にも興味はあるものの、寄ってくるのはロリコンばかりだ。
 天然だが頭は悪くない。彩絵が普段振りまいている性格は、少し演じているところがある。だから、みんなにチヤホヤされていても、何だか心に空虚感があった。
 高校に上がってからは、特に他の女子との体型差が色濃く出て、魅力のない彩絵は恋の話からは縁遠かった。
 嫌われていたわけでもないし、イジメられていたわけではないが、そういう話は頭の上をスルーしていく。いつも笑っていたが、結構傷ついていた。彩絵は、沢山生徒がいる教室の中で、自分が存在していないのではないか、と感じる時も多々あった。
 好かれるという気持ちを味わいたくて、みんなが自分に持つイメージを演じるということを自然と身につけていったのだ。
 それでも自分を恋愛の対象にしてくれる男子はいない(ロリコンは対象外)。それがどうだ。島根は自分を好いてくれた。
 初めは子供好きのスイッチが入っただけだったと思う。真の子供好きに出会ったことは無かったが、明らかにロリコンとは違う反応だった。彩絵の目には幼児をあやす保父さんの様に映った。彼のような人を真の子供好きというのだろう。
 付き合い始めてから1年くらい経つが、2人は一度もエッチはしていない。お互いすごく愛おしく思って抱きしめ合うことはある。彩絵は“抱かれたい、抱かれてもいい”と思うことが度々あったが、島根はキスすらしようとしない。
 彩絵は少し寂しいと感じていたが、肉欲を抜きにして純粋に自分を好きでいてくれているんだと思うと、逆に嬉しく思った。
「彩絵ちゃん」
 カフェに島根が迎えにきた。友達にバイバイをした彩絵は、島根の手を取って恋人つなぎをしてキャンバスを歩いていった。

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