愛するということ

緒方宗谷

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21.島根隆弘と水野彩絵

4.彩絵の秘密

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 島根は子供好きだ。もともと島根は、そう自分をプロファイリングしていたが、改めて再認識した。自分は子供好きなのだ。
 付き合い始めた彩絵は、とても可愛い女の子。一重の細い目で黒目がち、濃いめのベージュ色(色黒でもないし日焼けもしていない)、髪は黒いストレートミディアム、THE日本人、といった感じだった。
 水野は色白に憧れているらしいが、島根は白くない子供風の今の肌の色の方が好きだ。全くもって紫外線に無防備な感じが、子供っぽくて良い。
 島根は、彩絵のことを論理的じゃないなぁ、と思っていた。「色白になりたいなら日焼け対策すればいいのに」そう言ったことはあるが、帰ってきた答えは、「え~、めんどうくさい」だった。
 初めて会った時、彩絵はブレザーの制服を着て大きなリュックを背負っていた。卒業して大学生になっても高校で使っていたリュックを使っている。
 彩絵のお気に入りのリュックで、自分のチャームポイントなのだそうだ。チャームポイントとは、自分自身の中(えくぼとか八重歯とか)から選ぶものだと思うが、島根は言わなかった。
 確かに、ちっちゃい彩絵が大きなリュックを持っていると、アンバランスで可愛い。初めて会った時、島根の目に妖精のように映ったのもこのアンバランスさの影響が大きかった。
 自らの胴体よりも大きなリュックを背負って、両方の親指をショルダーの下に引っ掛け、ピンと引っ張っる姿勢でニコニコしている。遠足帰りの子供の様だ。
 彩絵はちっちゃいので、ある特技がある。ヒミツの特技だ。実は、人に手伝ってもらえば、背負っているリュックにすっぽりと体を納めることが出来るのだ。高3の夏休みにこのリュックを買った時にすぐさま気が付いて、試してみた。
 あらかた1人で入ることが出来たが、肩が入らない。出るものもったいなかったから、階下のお母さんを呼んで押し込んでもらうことにした
 部屋のドアを開けた母親は、「ひゃっ」と小さな絶叫をあげてから、「何やっているの? もー」とあきれた様子で部屋に入ってきて、大笑いしながら何しているのか訊いた。
 事情を知った母親は、「うーんうーん」と唸る娘を無理やりリュックの中に押し込んで、頭だけ出した状態でチャックを絞めて部屋から出た。
 放置された彩絵は何度も母親を呼ぶが、戻ってこない。彩絵は「うふふー」と笑って、あたりをキョロキョロしていた。
 スマホを持って戻ってきた母親は、頭以外すっぽりとリュックに収まった娘の写真を何枚も撮る。彩絵は、「自分のスマホでも撮って」と頼んで沢山撮ってもらった。
 部屋には細長い姿鏡があったので、自分の姿が見えるように向きを変えてもらって、小っちゃい自分を堪能した。
 お母さんとの秘密だったが、島根は気が付いていた。水野はこのリュックに入れることを。

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