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20.坂本知恵
2.重ねる空虚
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陸と初デート(?)の日に行ったゲームセンター。あの時よく来るって言っていた。また来ないかな、と意識して、知恵はよくその前を通るようにした。もしかしたら中にいるかもしれない。そう思ってエレベーターで4階まで上って、階段で下りながらワンフロアごとに見てみる。でもいない。陽が暮れた後は、ガラの悪い奴が増えるので、知恵はそんなに長いはせずに家に帰る。
何度か通って、ようやく陸と道端で遭遇できた知恵はラッキーと思って、さっそくそばに駆け寄って手をつないで、ゲーセンに誘う。
突然で一瞬びっくりした様子の陸であったが、つないだ手を強く握り返す。そして、音ゲーやリズム系で遊ぼう、と誘い返してきた。
そんな陸を意外に感じ、知恵は不思議に思った。
私に合わせてくれているのだろうか、それとももともとこういうゲームが好きなのだろうか。
知恵は陸の真意を計りかねた。だが同時に、可愛い趣味だな、とも思った。
「先輩上手すぎ、もっと手抜いてくださいよー」
知恵は、そういうゲームもそれほど不得意でないと思っていたが、陸も遊び慣れていて全く勝てない。それでも知恵は楽しかった。普段見せないほどの笑顔でぴょんぴょん跳ねる。特にリズム系は心底楽しく思えて、知恵は高揚した。陸に勝とうとして必死になればなるほどリズムがずれる。総崩れになりそうな状態を綱渡りで乗り切ろうと悪戦苦闘。出来そうで出来なさそうなところがムズかゆくて、知恵はすごく愉快でならなかった。
最近、こんなに笑うことってあっただろうか、と知恵は考えた。何か楽しいことは無いかな、と考えては、繰り返す同じ日々。特定の友達とカラオケに行ってアイス食べて帰る。その後は、友達か自分の家でゴロゴロしながらファッション雑誌をめくって、適当なことを適当に喋るだけ。別につまらなくはない。よく分からないことで笑える。
楽しいことを求めているのに探さないのは、あの温い感じが心地良いからだ。だから、くだらないおしゃべりも失いたくない。でも加奈子と里美がいる以上、陸を自分に合わせることは出来ない。だから知恵は自分を合わせた。
実は今日も、友達と昼間国分寺でカラオケをしてアイスを食べている。それから友達の家で遊んで、帰りに陸がいないか繁華街を見に戻ってきたのだ。
すごいハードスケジュール。我ながら感心する。知恵は自分で自分を褒めてあげた。こんな頑張る私が好きだと知恵は思った。
陸を帰したくない。知恵はそう欲して、カラオケで引き留める。昼間カラオケで歌いまくったから、喉が枯れてきた。それを顔に出さず、さっき友達と歌った歌をまた歌う。でも、時々覚えたばかりの歌も披露する。軽快なダンスミュージック。大人数の女性アーティストグループで、みんなモデル並みに可愛い。陸はそっち系が好きみたいなので、勉強した。いつもは男性アイドルグループの歌ばかり。顔写真入りのうちわを持って友達と歌う。普段は結構乙女なのだ。私はなんて健気な女の子なんだろう、と知恵ははにかんだ。
陸は定番の盛り上がる曲も知っていて2人で歌う。
(やっぱり先輩ってすごい。クラスの男子とは違う)
と知恵は思った。1歳しか違わないのにとても大人だ。
秘密で持ち込んだ楽しくなる飲み物は、全部空になった。
何度か通って、ようやく陸と道端で遭遇できた知恵はラッキーと思って、さっそくそばに駆け寄って手をつないで、ゲーセンに誘う。
突然で一瞬びっくりした様子の陸であったが、つないだ手を強く握り返す。そして、音ゲーやリズム系で遊ぼう、と誘い返してきた。
そんな陸を意外に感じ、知恵は不思議に思った。
私に合わせてくれているのだろうか、それとももともとこういうゲームが好きなのだろうか。
知恵は陸の真意を計りかねた。だが同時に、可愛い趣味だな、とも思った。
「先輩上手すぎ、もっと手抜いてくださいよー」
知恵は、そういうゲームもそれほど不得意でないと思っていたが、陸も遊び慣れていて全く勝てない。それでも知恵は楽しかった。普段見せないほどの笑顔でぴょんぴょん跳ねる。特にリズム系は心底楽しく思えて、知恵は高揚した。陸に勝とうとして必死になればなるほどリズムがずれる。総崩れになりそうな状態を綱渡りで乗り切ろうと悪戦苦闘。出来そうで出来なさそうなところがムズかゆくて、知恵はすごく愉快でならなかった。
最近、こんなに笑うことってあっただろうか、と知恵は考えた。何か楽しいことは無いかな、と考えては、繰り返す同じ日々。特定の友達とカラオケに行ってアイス食べて帰る。その後は、友達か自分の家でゴロゴロしながらファッション雑誌をめくって、適当なことを適当に喋るだけ。別につまらなくはない。よく分からないことで笑える。
楽しいことを求めているのに探さないのは、あの温い感じが心地良いからだ。だから、くだらないおしゃべりも失いたくない。でも加奈子と里美がいる以上、陸を自分に合わせることは出来ない。だから知恵は自分を合わせた。
実は今日も、友達と昼間国分寺でカラオケをしてアイスを食べている。それから友達の家で遊んで、帰りに陸がいないか繁華街を見に戻ってきたのだ。
すごいハードスケジュール。我ながら感心する。知恵は自分で自分を褒めてあげた。こんな頑張る私が好きだと知恵は思った。
陸を帰したくない。知恵はそう欲して、カラオケで引き留める。昼間カラオケで歌いまくったから、喉が枯れてきた。それを顔に出さず、さっき友達と歌った歌をまた歌う。でも、時々覚えたばかりの歌も披露する。軽快なダンスミュージック。大人数の女性アーティストグループで、みんなモデル並みに可愛い。陸はそっち系が好きみたいなので、勉強した。いつもは男性アイドルグループの歌ばかり。顔写真入りのうちわを持って友達と歌う。普段は結構乙女なのだ。私はなんて健気な女の子なんだろう、と知恵ははにかんだ。
陸は定番の盛り上がる曲も知っていて2人で歌う。
(やっぱり先輩ってすごい。クラスの男子とは違う)
と知恵は思った。1歳しか違わないのにとても大人だ。
秘密で持ち込んだ楽しくなる飲み物は、全部空になった。
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