愛するということ

２０．坂本知恵

１．欲しいもの

　坂本知恵１６歳。背が小っちゃくて可愛い１年生だ。癖なのかウェーブがある。実際はゆるふわパーマのセミロング。大きくはないものの二重でぱっちりとした目に、真顔でも微笑んで見える唇。丸顔のいまどきの女子高生といった感じの子で、そこそこ男子から人気がある。
　ぽっちゃりしているわけではないが、やせているわけでもない。可愛さはアイドルのような可愛さではなく、チワワ顔の可愛さだ。ポメラニアンと言った方が近い。他の可愛い女子と比べれば、埋没しかねない子であるが、そうはならなっていない。
　妙にエッチな、というか性的魅力がある子だったから、思春期の男子はみんなムズムズしていた。
　制服はとてもラフな感じに着こなしていて、雰囲気はどことなくアメリカのハイスクールの金髪の女の子を連想させる。スカートはとても短くて、パンツが見えてしまうのではないかというほど。階段を上る時は、１人お尻を抑えて上る。いまどきここまでスカートが短い女子は珍しい。
　別に軽い女子ではない。中３の時に彼氏が１人いた。あと、高校に上がってから１、２カ月付き合ってたぽい男子がいたくらいだ。それ以外に友達以上の男子はいない。
「あの人？　あの人が今度転校してきた先輩なの？」知恵が言った。
　夏休み前のある日、たまたま登校中の陸を見つけた知恵は、すぐに陸を見初めた。
　部活を調べたが、転校したばかりでどこにも所属していない。クラブにも属していない。知恵も帰宅部だが、クラブはビデオ鑑賞クラブに属している。
　ただで映画が見られる、と思って入ったのだが、『風と共に去りぬ』とか『戦争と平和』とか、文学的で勉強になる名作と言われるものばかり。正直ヘキヘキしていた。
　学校の授業の一環なのだから当然と言えば当然だが、知恵は最近のハリウッド映画とか、日本映画とかを期待していたからガッカリ。結局クラブにはあまり顔を出さなくなっていた。
　高校に上がって数カ月、新しくできた友達と放課後にカラオケに行って、アイスのお店に行って、家に帰るのが日課として定着しつつある。
　高校に上がってすぐに良いな、と思ったクラスメイトとは、少し話が合わずつまらなかったので、付き合うまでは至らなかった。対象の男子を先輩に広げようと思っていたそんな矢先、陸のことを発見したのだ。
「格好良いけど、やめといたら？」奈美恵が知恵に言った。
「何で？」
「彼女いると思うよ、ネクタイの色から２年だね」
　彼女が誰だかはすぐに調べが付いた。実際に調べたわけではない。陸は、いつも有紀子と加奈子と下校していた。だから知恵は、誰が彼女かすぐに分かった。
　だが、知恵には自信がある。加奈子は苦手なタイプに思えたが、有紀子は大丈夫そうだ。並び順から見て、彼女は有紀子に間違いない。魅力なら私の方が上だと知恵は思った。