愛するということ

緒方宗谷

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4.アタック大作戦 

2.その効果

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 何をやってもうまくいかない。次第に有紀子の希望は絶望へと変化していった。しばらくすると、陸には親しい友達ができて、休み時間の大半をその男子達と過ごすようになった。
 そればかりか、幾人かの女子とも仲良くなって、よくおしゃべりをしている。当然のことであるが、その中に有紀子はいない。
 有紀子は、思い出の中に孤立した自分を嘆いた。陸の人生は一度リセットされて、断崖絶壁の下に落ちてしまった。今の陸は、その谷の向こうにあるもう一つの断崖絶壁の上で、有紀子に背を向けて歩んでいる。自分だけがこちらの断崖絶壁の前に取り残された。
 さすがにそこまでくると、加奈子は有紀子が痛々しく思えてならない。とても可愛そうに見えた。
 有紀子は、心境を加奈子にも伝えていなかった。「誰だっけ?」の一言であきらめがついた。そういうことにしたかった。10年も会っていなかったんだからしょうがない。約束なんて覚えていない。悲しいけれど、「誰だっけ?」の一言が現実だ。
 正直ムカついた。この日のために10年間も想い続けてきたのか。ショックではあるが、でも意外に傷ついていない、と有紀子は思った。
 せっかく会えたのに、ずっと遠くに離れてしまった気がする。

 近くにいるのに……

 ぽつんと孤独に沈んでいたにもかかわらず、どことなく他人事のように思えた。今に至るまで仲良くなれていないのに、自分の身に降りかかってきた事実が現実のように思えない。それには理由がある。「誰だっけ?」の一言の後、何故そんなことを言われたのかすぐに知ることが出来た。
 交通事故、記憶喪失。どちらの情報もピンとこない。漫画やドラマでよくあることだけれど、まさか現実であるとは思わない。
 家に帰ってアルバムを手に取った有紀子は、しばらくの間1人で考えた。記憶が無いってどういう感じがするのだろう。分からない。ただ分かったのは、喪失した記憶の軽さだ。そう、重要ではないのだ。
 写真にはたくさんの幼い自分がいる。そのほとんどに関する記憶はない。私も記憶喪失と同じではないか、と有紀子は感じた。
 学校にいる陸の幼馴染みは、有紀子だけではない。誰も自分の様に思い詰めているようには見えなかった。彼らにとって、喪失した記憶は大切ではないのだ。過去に縛られた自分が情けない。
 みんなは今が大切なのだ。みんなの様に新しく陸との関係を築けたら、どんなに楽か。自分が、みんながほとんど覚えていないような幼い時の記憶をこれほどまでに大切にするのは、今に至るまでいだいてきた恋愛感情があるからだ。
 諦めがついた、と自分の心にふたをしてなお、有紀子は、どうしてもこの感情を陸と共有したかった。

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