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29.この国の行く末

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「私にとってこの国はその程度の物なのです。貴女が居なければ繁栄しても滅んでもどちらも変わらない。そんな奴が王となっては国民が可愛そうですよね?」
「それでもカインは王となる為に生きてきた。シャイロー様だって急に重責を押し付けられたら…」
「シャイローは自ら王になる事を望んでたのです」
チャラチャラと女の子を渡り歩いていた男の姿が思い浮かぶ。
そんなはずないだろう。
シャイロー様を知っている人ならそう必ず口にしてしまうだろう。
「彼は使えない兄とその兄に全てを尽す母、その母に操られる様な国王が嫌いだったのです。その為兄のスペアとしてさせられていた帝王学の勉強も進んでやり、機会を伺っていたのです」
ルーファス様は外見だけでも苦手だが、王族としての責任すらも果たせていない人だった。
実の兄で全てを持っているのに何も出来ない兄が許せなかったのかもしれない。
「シャイローは勤勉で頭の良い。賢王となるでしょう」
「カインはそれでいいの?」
「私はシルヴィア、貴女さえ側で笑ってくれていれば良い。今までは好きだと伝える事すら出来なかった。でももう我慢しません」
颯爽と立ち上がって繋がれた手を引かれて私も立ち上がる。
近い距離に恥ずかしいのに良い匂いがする。
「私を貰ってください」
「……ん?」
「あげられるのはこの体だけです。それでも私の全てで貴女を幸せにします」
「それって逆じゃない?」
「私がお婿に行くので合ってますよ」
笑いながら指先に落とされる口付け。
今まで私の側に居たカインがそこにいる。
「もう怖い思いをさせません。幸せになりましょう」
「………はい」
暴れまわる心臓を手で抑えながら思ったよりも小さな声が出た。
「私がカインを幸せにしてあげる!」
遠慮はしないと言ってたのに遠慮がちに近付いている体を力任せに抱き締める。
固まる体をギュウギュウ締め付けるとフッと笑いがカインから漏れた。
「私は子爵家の娘よ。王太子が継承権を返上しても臣籍出来るような身分ではないわよ?」
「この度のルーファス事件で解決する功労者としてシルヴィア自身に伯爵の位と領地が与えられます。恩恵としてアンダーソン家も伯爵と爵位が上がります」
「そんな簡単に…」
「はい、簡単に上がります」
その時の笑顔が本当に黒くて怖かった。
私は何かとんでもないものを与えられたのかもしれない。
かなりヤバイ爆弾かな?
そこからはカインのターン。
私の返事がイエスだったからなのか、正式な婚約証書が出てきて名前を書く。
そこには既に伯爵という地位が記されていた。
そして今、私の頭はカインの膝に置いてある。
「これは新手の拷問か何か?」
「何を言ってるんですか?」
「シルヴィア様が正論ですよ」
カインの寝室。
ベッドの上。
膝枕する王太子と寝転がる婚約者の女。
その目の前に立っている寸分の隙もない従者。
お分かり頂けただろうか。
「カイン……もう頭を上げても…」
「まだシルヴィアが足りません」
王室の従者に見られているというプレイ。
百歩譲っても役割が逆じゃなかろうか!!!
「陛下は母親である側妃様を説き伏せて何とか流刑地へと追い出すことに成功した模様です。明日には側妃様と前国王様、そしてルーファス様が出立なさります」
「あの人は本当に仕事が早いですね」
「この日の為に母親を懐柔されてた様ですよ。女性に気に入られる方は凄いですね」
「私には真似する事は出来ないですね」
アハハハと笑う男二人が怖い。
乾いた笑みと笑っていない目。
「前国王様も流刑地に行くの?」
「この国はもう滅び始めていたのです。息子に期待をして言いなりの母と嫁に惚れて言いなりの夫。それが普通の家庭なら家庭円満の方法もあったのですが、権力とお金があり過ぎた」
「前国王陛下は権力もお金も愛する人に使い過ぎたのです」
従者が最後の補足をしてくれる。
何気なくカインに目を向けると苦笑を返された。
「あの男と私は似ているのですよ」
「カイン…」
傾国の美姫とはよく聞く悪女。
それも愛された結果なのかもしれない。
そして私もカインにそれ程愛されている。
同時にこの国も愛しているのだと分かった。
滅ぼしたくないから退くしかないのだと。
「前国王陛下とは違うわ。カインはカインなりに国を、民を守っているんだもの」
「そうですか?」
迷子の様な捨てられた犬の様な寂しそうな顔をしていた。
「シルヴィア様、カイン様は本当にそこまで考えておりません。貴女様の事以外に全く興味がありませんから」
「煩い」
「側妃様がまた煩くなるのは困るので流刑地とはお伝えせずに送られるそうです。ご自身の息子が王になる事をただ願っていた人なので、あちらで優雅に過ごさせるそうですよ」
「まだ優雅に過ごせるなんて本当に幸せですね」
「そうは言いますが、ルーファス様を処刑したら側妃様が。側妃様が騒いだら前国王陛下が出てこられます」
「面倒ですね」
「はい。至極面倒です」
「だから静かに引退してもらうんでしょー」
音も気配も私は気付かなかったのに、シャイローがいつの間にか部屋の扉を開けて立っていた。
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