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25.大型犬の思惑と囚われた令嬢

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カチャン…
「はぁ…」
シルヴィアとリーディアが部屋から出て行くのを確認すると大きく息を吐いた。
「本当に大切なんだね。付き合ってないんでしょ?」
「だから婚約者だと何度も言ってますが?」
「あー…仮染めの婚約者だっけ?」
「違います」
「本人が認識してない婚約ってもう仮染めじゃないの?」
ニヤニヤしながら言うシャイローの顔面を殴ってやりたい。
「これからどうするの?このままだとリーディア王女と結婚。シルヴィアちゃんは良くて側室、最悪妾…か婚姻認められずに愛人?」
「言葉に気を付けて下さい」
「カインも兄に対する礼儀を一から学んできた方が良いよ」
「貴方達を兄と思ったことはありませんから」
「まあ、当たり前だな」
大きな窓枠に体を預けながら外を眺めるシャイローとの会話は兄弟という温かなものは感じない。
他人よりももっと酷い、命を狙う者と狙われる者。
シャイロー自体は王座に興味も関心もなく、母親と兄に振り回されている印象しかない。
「リーディア王女を巻き込むつもりは無かったんだけどな…」
小さな呟きは今までの軽い調子ではなく心底後悔しているように聞こえた。
そしてほんの少し見えた横顔も傷ついているような表情を見せていた。
もしかして?
「シャイローはどうしたいのですか?」
「俺は……何も」
歯切れの悪い言い方はシャイローらしくない。
いつもは適当に返事をして我関せずで姿を消すのに。
「リーディア王女が気になるのですか?」
「気になる事はない。お前が王になり、王女が王妃になる。それは決定事項だ」
振り向いたシャイローの表情は無に近いのに瞳が悲しげなのが笑えた。
「決定事項に横槍を入れようとしてるのは君の母親と兄ですよ」
「それはもう大丈夫だろう。兄上は罪人で…」
「母親は諦めてないですよ」
この頃の忙しさは証拠固めで奔走していたのもある。
その事を告げるとシャイローの顔色が変わる。
「次の犠牲者は貴方ですね」
「あのクソババア…」
本音が漏れるように低い声か響き、顔をしかめながら窓の外に目線を投げた。
「ルーファスは罪人で投獄。私が死ねばシャイローしか後継者が居ないというお話ですね」
「…………お前は死なない」
「死にたくはないですので私も罪人になろうと思います」
「は?」
「この計画には貴方の協力と承諾と覚悟が必要になります」
シャイロー側にある窓から見下ろす庭園でシルヴィアとリーディアが笑い合ってるのを視界に収めながら自分の顔が悪どく笑むのが抑えられなかった。

★★★

リーディアさんとの散歩は毎日、時間があるだけしている。
散歩だけでは時間が余って仕方がないから、この頃はお茶会も主流になってきていた。
リーディアさんの部屋近くの庭園には、私達用にと立派な椅子とテーブル、パラソルが用意された。
紅茶だけでなくお菓子まで多種多様の美味しく綺麗かつ可愛いものが並んでいて、体の体積増加を心配する事となった。
「そういえば王宮裏の庭園には行ったことありますか?」
自分の部屋と図書室しか往復していなかった私が庭園でお茶会をするようになった事すら大進歩なのに、王宮裏なんかに出向くはずもない。
それでなくても早く王宮から出て家に帰りたいのに。
「いいえ」
「そこには珍しいお花が多いそうです。少し行ってみませんか?」
「え!?出歩くのはちょっと…」
護衛も付いているし王宮内だというのは安心要素が多いけど、どうしても気が進まない。
いや、王宮内でも危険が有り余る事か。
「少しだけなので行きましょう!私、お花が大好きなんです。どうしても珍しいお花を直に見てみたくて」
「まずは許可を取らないとダメです。人様のお家で勝手気ままに歩き回るのは例え貴族や平民でも無礼になりますから」
怒ったようには見せないように、聞かせるようにゆっくり話すとリーディアさんはハッとしたように目を見開く。
「そうね……そうよね!それはいけない事っきゃあ!!」
「動くな!騒ぐな!」
リーディアさんを宥めるのに成功したと思った瞬間に、黒ずくめの侵入者な方々に包囲されました。
見える範囲で三名。
明るい日差しを遮る様に目深に被ったフードと口許を覆う布、体を包み込むマント。
手には小さくも鋭利な刃物。
視線を巡らせてもリーディアさんに付いている筈の護衛が見当たらない。
おかしい。
そう思いながらもリーディアさんを逃がそうと状況を見ているけど、血走った目をキョロキョロと動かす侵入者達の隙は見当たらない。
「大人しくしていれば手荒な真似はしない」
リーダーなのか、唯一マントの下にあるチラチラ見える服が少しだけ良いもので綺麗な肌。
他の二人はボロボロの服に荒れた手。
今は大人しくしていた方が得策と判断して肩から力を抜く。
「こっちに来い」
抵抗の意思がないと判断したリーダーの男が先に歩き出す。
それに付いて行くと後ろから男達が私達を警戒しながら歩き出す。
王宮にゴロツキの様な男が入ってくる事が大問題。
警備の状態も、リーディアさんの警護体制も、謎ではあるけれどあってはならない事態が起こっている。
あ、リーディアさんは隣国の王女様で、今は来賓として丁重にお守りしないといけない対象なのを思い出した。
これは外交問題、延いては戦争になり得る話になってしまう。
私は一人で冷や汗を垂らしながら男達に気付かれないように視線を動かして打開策を考え始める。
どうにかしてリーディアさんを逃がさなくては。
私が囮になっても良いのだが、それにリーディアさんが納得して一人で逃げてくれるとか話し合いなしでは無理。
協力者も居ないこの場でリーディアさんだけを逃がすのも得策ではない。
まずはこの男達の目的だけでも探ろうと目を凝らし、耳を澄ませた。
冷や汗が出る。
自然と体が震えるけれど、今は怖がっている場合ではない。
乱れがちな呼吸を意識的に整える。
ああ、素直にリーディアさんの提案に乗って王宮裏の庭園に行っていれば助かったかもしれないなんて思いながら。
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