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第9話:光明への軌跡

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キシオとミカンは、総理大臣の陰謀に対する決定的な一撃を与えるべく、緊急の作戦会議を開いた。夜の帳が街を包む中、二人は低い声で密談を交わした。

「時間がない。私たちの動きを察知する前に、次の手を打たなければ。」キシオの眼は決意に燃えていた。

「わかってる。でも、慎重にね。あなたが何かあったら私は…」ミカンの言葉は不安に震えていたが、キシオは優しく彼女の肩を抱き寄せた。

「大丈夫だ。俺たちならできる。総理大臣が何を企んでいるのか、国民に知らせなくちゃ。」

彼らの前には、総理大臣のプロパガンダに抗するためのビラが山と積まれていた。これを市内のあちこちに配布すれば、メガネの力による洗脳から市民を目覚めさせることができるかもしれなかった。

作戦は早朝に決行されることになった。市民たちがまだ深い眠りについているうちに、キシオとミカンは行動を開始した。彼らはビラを配りながら、総理大臣の部隊を避けて街中を駆け巡った。

突然、サイレンの音が鳴り響き、総理大臣の部隊が迫ってきた。「くそ、早すぎる!」キシオが怒鳴った。二人は裏路地に駆け込み、追手を振り切ろうとした。

「キシオ、私たちの思い、必ず届けるわ。」ミカンの声には、逆境に負けない強さがあった。

「ああ、絶対にな。」

この日、夜明けと共に希望の光が、少しずつこの街に差し込み始めたのだった。
追手は執拗だったが、二人の絆はそれを上回る力を持っていた。裏路地から裏路地へと、まるで迷路を駆けるように逃げる彼らの後ろで、ビラがひらひらと舞い落ちていった。キシオは時折振り返り、慌てふためく部隊員たちに向かって、さらにビラの束を空に舞い上げる。

「これが真実だ!目を開けろ!」彼の声が夜明けの街に響き渡る。

市民たちが窓を開け、扉を開き始めた。彼らの目には疑問が浮かんでいた。ビラを手に取り、囁かれる真実に耳を傾ける人々。街は静かながらも確かな動きを見せていた。

「キシオ、見て! 人々が…私たちの言葉を聞いているわ!」ミカンは希望に満ちた表情で言った。キシオは微笑んだ。彼らの行動が、ついに実を結び始めていたのだ。

その時、総理大臣の部隊が一斉に彼らの隠れ場所を取り囲んだ。しかし、部隊員たちもビラの内容に心を動かされているようだった。彼らの中には、命令に背いてビラを読む者もいた。

「我々もまた国民だ。真実を知る権利がある!」ある部隊員が仲間に呼びかけた。

その言葉がきっかけとなり、部隊内に揺らぎが生じ始めた。一部の兵士はメガネを取り、自らの目で真実を確かめようとした。キシオとミカンの行動が、総理大臣の計画に亀裂を入れ始めていた。

**再会と救出**キシオ編

雨が街を濡らし、灰色の空からは冷たさだけが降り注いでいた。キシオは不安と期待を胸に抱え、総理大臣の屋敷への道を急いでいた。彼の心にはミカンを取り戻す、ただ一つの思いがあった。

屋敷に到着すると、彼は周囲を慎重に偵察した。警備は厳重だが、彼はかつての3Dの世界で鍛えた知恵とスキルを駆使し、見事に警備の目をかいくぐり、屋敷の内部に侵入した。

ミカンは屋敷の奥深く、ひっそりとした部屋に閉じ込められていた。キシオが部屋に入ると、彼女は驚きと喜びで目を輝かせた。「キシオ!」彼女は声を抑えながらも感情を隠せずにいた。

「ミカン、大丈夫か?ここから出るぞ。」キシオはそう言うと、彼女を引き寄せ、手早く彼女の縛られた手を解放した。

「どうやって見つけたの?」ミカンが問うと、キシオは微笑んだ。「君のことはどこにいても感じることができる。」

二人は抱き合い、その再会の瞬間をかみしめた。しかし、外はまだ雨が降り続けており、逃走を急がなければならなかった。キシオはミカンを連れて、彼が来た道を戻り、警備が手薄な裏口を目指した。

出口に近づくにつれて、キシオは周囲にさらに警戒し、ミカンの手を強く握った。彼は「もう少しで自由だ」と彼女を励ました。

そして、ついに二人は屋敷の外に出た。雨は上がり、月明かりが彼らの逃走を照らすかのようだった。キシオはミカンを自分の隠れ家に連れて行き、そこで二人は安全を確保した。

屋敷から逃れた後、ミカンはキシオにすべてを打ち明けた。増税メガネの秘密、総理大臣の計画、そして自分が直面していた危機について。キシオはすべてを聞いた後、ミカンに約束した。

「僕たちは一緒にいれば、どんな困難も乗り越えられる。これからは二人で進もう。」

その夜、キシオとミカンは新しい未来を夢見ながら、隠れ家でひそやかに眠りについた。彼らの心は、再会の喜びと共に温もりで満たされていた。
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