上 下
1 / 10

1話 3つ目のスキル

しおりを挟む
俺の名前はトシユキ
勇者様や転移者様たちにあやかりたいと、俺が生まれたときに農民のジョブの両親がトシユキと付けてくれた。
父方はそういう名前を付ける家系でもあるらしい。
ただ 農民の親からは農民の子が生まれると言うのが世の中の道理だろうと思っていた。

少し昔のある日、子供だったボクは父親に連れられて父・母・俺の三人でギルドに行くことになった。
昨日もボクのことで喧嘩をしていたみたいで 普段はとても仲がいい二人なのに
ボクが父方と母方のどちらのスキルを継承したのかということでケンカになったんだ。
ただ大事にされ過ぎているようにも思えるけど理由もあったりする。
ギルドへ向かう通りの道でボクの頭をクシャクシャと撫で回すのが好きな父さんは胸を張ってこういった。
「いいかトシユキ。農民というジョブをバカにしちゃいけないぞ。農民はなその昔、あの勇者様のパーティーに加えていただいたことがある由緒正しいジョブなのだ。誇りに思え!がははは」と農民にとっては勇者様は憧れの存在なんだ。

お母さんはボクを見守るように二歩下がって付いてきてくれる人で
ときどき 追いつかれて農民衣装のショールが触れてくすぐったい。
たまに本当にくすぐるために追いかけてきて ボクをおもちゃにするんだ。

バザーの通りまで差し掛かるとだいぶ賑やかになってきた。 
ボクと同じ年くらいの女の子が一人で暑い日差しの中を働いているけど それはこの街ならそれほど珍しい事じゃない。よくある風景で買ってあげたいところだけど あっちは八百屋さんみたいだしどちらかと言えば、うちからお願いして買ってもらう方の立場だ。

街の広場にやってくるとギルドがあり重い開き戸を先に押すけどボクの力では動かなくて、両親に手伝ってもらってやっと開けることができた。
ギルドの中を見上げると クエストを探す冒険者たちや報酬を分け合いすでにお酒を飲んでいる冒険者がにぎやかにしている。
「うわ~ ここが ギルド・・」

子供の目の高さのボクには見上げるすべてが憧れのものに見える
丸いテーブルに何かの魔物の骨のオブジェの飾りや、杖をもった可愛いお姉さんや
受付のお胸の大きなお姉さん、防御力がゼロに近い不思議な鎧を着たお姉さんたちが楽しそうに話をしていた。
マタの背丈ぐらいしかないボクは人混みを進む父に付いて行くけど ついにお姉さん戦士の前で立ち止まってしまい上を見上げてしまうと、気が付いたお父さんは手を引いて進んでくれた。 
受付のカウンターに着くと受付嬢はちょうど交代のタイミングだったようで新米の受付嬢と代わる。
お父さんは気にせずに、破れそうな服のポケットの中から料金ピッタリの鑑定料を取り出して「これで頼む・・」と手のひらを差し出した。
父の豆だらけのボロボロな手のひらは 武道家とも剣士とも違うが苦労の染みついた手。
家族思いの手のひらだった。
受付のお姉さんも 父の手のひらをわかってくれているようで眉間にシワが出来るほど見つめていた。


「あ。。。数えますのでコインをテーブルに置いていただけますか?・・うわぁ きたな・・はい ございますね。それではこちらへ・・」

水晶のある鑑定室は文字がよく見えるようにするためなのか少し薄暗くて水晶の光が広がる妖艶な雰囲気の部屋だけど 元気いっぱいの両親は「さあ 手を置くんだトシユキ」「頑張るのよ トシユキ」と期待をしている。
受付のお姉さんがそれでは手のひらを水晶玉においてくださいと言うので
大きな水晶の玉に 大人に負けないくらいに手のひらを大きく広げて乗せてみた。

だけど お姉さんには「確りおいてください。」といわれし 戸惑っていると「失敗したらイヤなので手の上に分厚い本を置かせてください。」とお姉さんがボクの手に上に置いてくれた。

ドン! ギュ!グリィ グリィ

「水晶玉:ピー・・サーチ 開始」

息をのむ父、両手を組んで祈る母を前に父と母の期待に応えてあげたいと渇いた喉にツバを飲み込む。
父の話では 農民というジョブは勇者様も重宝がられてくださったスキルを持っているらしく
捨て身の「体当たり」というスキルもあれば当たれば威力がすごい一撃になる「正拳突き」というのもあるらしい。

父方の「体当たり」
母方の「正拳突き」
どちらに似たのだろう???
水晶玉が眠りし力に光を当てる。

写し出された結果は・・
水晶玉:「体当たり」「正拳突き」・・。・・。・・。

両親は鑑定中にもかかわらず 俺をギュっと抱きしめてくれた。
「でかした トシユキ!!体当たりだ」
「すごいわ おじいちゃんの正拳突きを受け継いでくれたのね・・」
俺は 農民だったら通常は一つしか継承できないスキルを二つも継承していた。
よかった 両親がこんなに喜んでくれるんだからきっと いいことをしたんだな。

おっほん!ん!んんん!!

咳払いをする受付嬢は 盛り上がっている俺達を見て眉間にシワを作って眺めていた。
近所のよく吠えてくるワンコみたいだ。

「盛り上がっているところですが、サーチはこれで終わりにしましょう。
これ以上やっても無駄ですので。それにしても
スキルを二つも継承していてよかったですね。
命中率がほぼゼロの当たらない「正拳突き」に
体力の半分以上を持っていかれる「体当たり」。
クスクス。ふふふふ。血気多感な勇者様なら死ぬまで重宝してくださるでしょうね。死ぬまでね。ふふふ」

サーチは続いていたようで水晶玉が 突然まぶしく光り出した!!
 
水晶玉:「体当たり」「正拳突き」・・。・・。「召喚」
・・・。
・・並べ替え・・
・・
水晶玉:「召喚」SS、「体当たり」S、「正拳突き」A・・。サーチ終了

両親と受付嬢はポカンとしているけど何が起きたのだろう?
「3つ目のスキルなのか? 農民は二つしかスキルがないはずだ。何のスキルだ?」と驚く父
「あの 受付嬢さんすみませんが、私たちはあまり文字が読めないのです。何と書かれているのでしょうか?」と受付嬢にすがる母
そして 顔をひきつらせた受付嬢。
「し・・し・・ショウカン(召喚)よ! ウソでしょ? こんな田舎の街から召喚士が生まれるなんて信じられないわ!!」
歓喜の両親の声とともに俺の右手を父のゴツゴツした手が握り、
左手を擦り傷だらけの母の手が握ってくれた。
両親の眼差しは まるで教会で祈りを捧げているようなそんな眼差しだった。

俺は 神様にでもなった気分だった。

何かを思い出したように受付嬢は服装を整えてから、遮るように両親の間に入るとニッコリと俺に微笑んで
「はいはいはい ちょっと待ってね。まだ 書いてもらう書類があったのよ。ねえ、トシユキちゃん?お姉ちゃんとあっちの部屋に行こうか?ね?ね?ね?」と半ば強引に手を引いて重い木製の扉の部屋に連れていかれた。

内側から扉のカギをかけた受付嬢は整えたはずの制服を再び整えて「私の名前はリーシャ、受付のリーシャよ。安心してすぐに返してあげるから。でもね お姉ちゃんと約束してくれたら、そしたら出て行ってもいいわよ」といって胸元にカギを沈めた。
子供の目線の高さにかがんだ受付嬢はやさしさとは違う視線を向けて
「出たいんでしょ? ほ~ら カギを取って自分で開けるのよ。それくらいできるでしょ?」なんて事をいってくる。

ボクと遊びたいのかな?用事も済んだみたいだったし お姉さんも胸元を突き出して早くカギを取ってほしそうなのでドアを開けてあげることにした。
でも 手を伸ばすと

キャ!

いやぁ~ん 

とはしゃげるようにコソコソと動くお姉さんは、とっても年上の人がする目線で軽く軽蔑したように
「今触ろうとしたわよね?女の子のお胸を触ったら結婚しなくちゃいけないんだからね。わかったわね?ふふふ さて、もう一度よ」と言いながら続けるように胸を促した。

胸に触らないように何度かカギを取ろうとしたけど 
「ほら もう一度よ ふふふ」・・もう一度・・もう一度・・いやぁ~ん もう。
軽やかにはしゃぐのでカギを取ることはできなかった。
だけど そのうちお姉さんの方から「捕まえた」といってお姉さんは俺をギューっと強く抱きしめて耳元でささやいてきた。

「仕方がないわねぇ~ 全く。私があなたの代わりにドアを開けてあげるわ。
その代わり、大人になったら酒場の二階の部屋にお姉さんと遊びに行くって約束して?ね?ね?ね?」

部屋の中では楽しそうに遊んでいたお姉さんなのに外に出ると
何事もなかったかのように淡々と手続きを始めてくれた。
ボクたちも満足のいく鑑定結果を貰ってギルドを後にした。

大人になるまで誰にも話しちゃいけないって決りの遊びらしいけど。 
話すにしたって、なんて名前の遊びかわからないや
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

夫から国外追放を言い渡されました

杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。 どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。 抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。 そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

(完結)私より妹を優先する夫

青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。 ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。 ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。

処理中です...