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第1章 フランコルム帝国近衛飛龍隊創設!
第10話 龍人由来記
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飛龍隊の事実上の初日の狂宴が終わり、2日目が来た。だが、隊員の大半は二日酔いで士気は低い。それでも地上班の面々の飛龍の世話に手抜かりが起きないのは、近衛騎兵連隊から引き抜いた選りすぐりの腕利きたる所以である。
朝の飛龍の世話が一通り終わり、教会に全隊員が集められた。テオドラによって飛龍と龍人の歴史について講義が行われるのだ。
「ええ、まずは十字派の歴史と私達の関係から話さないといけません」
数十人のギャラリーを前に緊張の面持ちで説教台に立ったテオドラは、気まずそうにコクトー神父に視線をやった。だが、神父は自分に都合の悪い話が始まるのに些かも気にする様子はない。教会の十字架は布が掛けられて隠されていた。
まず読者の為にも、帝国の南に面する内海とその周辺の内海世界における宗教事情から説明せねばならない。
内海世界では内海の東岸に始まった啓典教と呼ばれる一神教が専ら信仰されているが、この啓典教は大きく3つの宗派に分かれている。
約2000年前、啓典教に一人の偉大な預言者が現れ、この預言者によって啓典教が枝分かれして十字派が生まれた。内海世界の北側、単に大陸と呼ばれる地域ではこの十字派が主に信仰されている。
一方、啓典教の源流を成すのが星派である。星派の信徒は神に選ばれた「選民」を称しているが、戦乱で国家を失い、今は各地に少数民族として生きている。
だが、十字派は教義上の問題から商業を忌避する為、どこの国でも商人や金貸しには星派が非常に多く、無視できない影響力を持つ。酒保商人のモランもどうやら星派であるらしく、地上班にも数人が居る。
そして十字派の発生から数百年後、東方の砂漠の街である豪商が啓示を受け、預言者となって月派が興った。今や内海の東岸から南方大陸にかけての地域では月派が主流をなしている。
この3派は互いに反目しあっているが、この3派の中にもそれぞれ分派がある。
「この中に正統十字派でない人は居ますか?」
テオドラが挙手を求めると、ベップとアハメド医師、その他地上班と合わせて10人程が手を上げた。つまり、大多数はテオドラが言うところの正統十字派である。
帝国から銀嶺山脈を挟んで南方のアペニン半島に教皇を頂く正統十字派は、大陸各国の国教として権威を持っている。
諸国の王の王権は正統十字派の権威が担保していて、皇帝といえども教皇は無碍にできない。帝国の人間は大半が正統十字派であり、コクトー神父は正統十字派の司祭である。
だが、権力と結びついて長い時代を過ごすうちに正統十字派は腐敗し、これに異を唱えて新しい信仰を目指して分派したのが新十字派である。
ベップと他数人が新十字派である。星派同様に商人には新十字派が多く、大陸でも帝国より東方では新十字派の方が多数派になりつつある。
そして、更に東方や南方大陸に散在する辺境十字派と総称される諸派がある。アハメド医師は南方大陸で信仰を守る辺境十字派の家系であり、テオドラも辺境十字派にあたる。
「もう知っていると思いますが、私達龍人の先祖は正統十字派の迫害を逃れて銀嶺山脈に逃げ込みました」
テオドラはそう言って少し暗い表情を浮かべると、被っていた白いベールを脱いだ。龍人の証だという赤毛と角が露わになる。まだ飛龍隊の面々はその姿に慣れない。
古文献を紐解くと、啓典教が勃興する以前、雑多な多神教が信仰されていた時代の内海世界において、飛龍はそれほど珍しい存在ではなかったらしい。
そしてその多神教の神話によると、人間の娘に恋をした飛龍が人に化けて娘と結ばれ、生まれた子供が龍人の始祖であるという。
古代の飛龍と龍人は強い魔力を持ち、龍人は龍を使役し、あるいは魔術師として社会に溶け込んで暮らしていた。
だが、国家と結びついて強大な権力を持つに至った十字派は、啓典の教義と矛盾する存在であるこういった種族を「異端」とみなして迫害し始めた。
以来千数百年に渡って多くの異端とされた種族が殺され、魔術や魔力を持つ種族、そしてその知識は失われていった。
飛龍と龍人は僻地に逃れて僅かに生き延びた。銀嶺山脈に逃げ込んだのがテオドラと飛龍達の先祖で、それが言い伝えによると1800年ほど前の事だという。
以来、龍人は山道から外れた秘境に村を築き、周辺に住まう人々に飛龍を使役させる事で取り入って命脈を保ってきたのである。
龍人古来の信仰は十字派と奇妙に融合し、山脈に多い新十字派の教義も取り入れて変質していった。僻地にはこのようにして辺境十字派の一派として独自の教義を守っている宗派が他にもあるという。
テオドラは代々龍人の神官を務めてきた家系の娘であり、神官は飛龍と龍人、そして周辺の人々との調停役である。
「そして、何故私達がここまで来たかを説明します」
龍人の村と飛龍の群生地は銀嶺山脈に国境をまたいで数カ所があるが、長年の迫害と貧困の為に帝国には飛龍は100頭足らず、龍人も数百人が残るだけである。
近親交配を繰り返してきた為か飛龍は昔よりも幾分弱くなり、龍人もまた人間との混血が進んで魔力を殆ど持たなくなった。
テオドラ達神官の家系は魔力が強いという話だが、それでもテオドラは煙草に火をつけるのがやっとの火の粉が口から吐けて、よく当たる占いが出来る程度である。多くの龍人はもやは見た目の他は人間と変わらないという。
その命脈はもはや風前の灯というべき飛龍と龍人であったが、レオ一世の登場がその運命を大きく変えた。
レオ一世は大陸でもいち早く国家権力と宗教を切り離すことに成功し、国家の利益になるとして魔術の保護政策を打ち出した。その一環として帝国の龍人と飛龍の保護が始まったのである。
飛龍の群生地は禁猟区に定められ、龍人には帝国臣民として人間とほぼ同等の権利が認められた。麓から飛龍の食料が運び込まれるようになり、隠れ里や周辺の村々も国費で整備された。
有形無形の差別は残ったものの、それでも龍人は命の危険なしに人里に出ることができるようになったのである。それ故龍人の間では皇帝の人気は大変なものだとテオドラは少し嬉しそうに語った。
そして、そんな飛龍と龍人が何故帝都の外れまで来たのかというと、これは皮肉にも迫害に端を発する
帝国の保護が始まる以前、飛龍の子供は同世代の龍人と一緒に近くの人間の村に奉公に出て、労働力を提供する代わりに庇護を受けるのが常であった。
銀嶺山脈は人が住むには過酷な場所であり、龍人同様に周辺の村々も貧しく、当地の人達にとって飛龍と龍人は必要な存在であったのだ。
飛龍と龍人の身分が保証されて尚この慣習は残っており、帝国はこれに着目して飛龍の長老と交渉し、保護政策の見返りに奉公としてテオドラと飛龍がはるばる帝都の外れまでやってきたのだ。
「政治はよくわかりません。けど、飛龍隊が上手く行かないと私達の故郷は貧乏に逆戻りです。だから、私も龍達も精一杯やります。皆さんも協力して下さい」
テオドラはそう結んで説教台を降りた。教会はすっかり重苦しい空気に包まれてしまった。
続いて一番後ろで聞いていたブレスト司令が説教台に立った。
「聞いた通りだ。飛龍隊には保護政策の費用と合わせて2個師団程の予算がかかっている」
場がどよめいた。2個師団と言えば4万人もの将兵を抱える大部隊である。具体的な金額はわからないにせよ、それが途方もない大金である事は全員飲み込めた。
「つまり、飛龍隊には帝国、わけても飛龍と龍人の運命がかかっている。諸君らはそれを忘れないように」
その一言で解散となった。飛龍乗りも、地上班も、教会を出て持ち場に戻るその表情は真剣である。
「なあ、テオ」
スパルタカスに装具を付けてやりながら、モーリスはテオドラに話しかけた。
「少数民族が大変なのは、どこへ行っても同じだな」
「エスクレド少尉も少数民族なんですか?」
テオドラは少し意外そうな顔をした。異民族である事が明白なアハメド医師はともかく、姿形は他の人間と変わらないモーリスが少数民族のようには思えなかったのだ。
「モーリスでいいよ。俺はエウスカル人なんだ。龍人と同じで、陸でも海でも少数派さ」
モーリスの故郷である西部国境と面したエウスカル地方においてもエウスカル人は少数民族であり、肩身の狭い思いをすることはままあった。
かつてのエウスカル人は自ら船を持って世界の海を股にかけていたが、捕鯨船は大資本を必要とし、もはや辺境のエウスカルには1隻もない。
なので、エスクレド家の人間は親類一同を引き連れて海の向こうのアルビオン帝国に渡り、当地の捕鯨船に乗り込むことで捕鯨船乗りの仕事を営んでいた。
その地位は両国の関係に常に脅かされる不安定な代物である。モーリスの祖父の世代はそうして失業した記憶を子や孫に生々しく語り継いでいた。
「俺も船が買いたくて軍に来たんだ。飛龍乗りとして稼いで、エウスカル人の為の捕鯨船を買うのが俺の夢なんだ」
「私、まだ海って見たことがないんです。大きな塩辛い湖ですよね?」
「塩辛い湖か」
モーリスは思わず笑ってしまった。だが、自分も銀嶺山脈にあるという氷河を実際に見た事がないのに気付いて口籠った。
「テオはどうしてこの仕事を引き受けたんだい?」
「兄さんや姉さんは嫌がったけど、私は山の外の世界が見たかったんです」
「じきにこいつ達が連れて行ってくれるよ。海なんてすぐだ」
「じゃあ、早く飛龍に慣れてください」
モーリスは思わず苦笑した。まだモーリスは飛龍乗りとしては半人前である。
朝の飛龍の世話が一通り終わり、教会に全隊員が集められた。テオドラによって飛龍と龍人の歴史について講義が行われるのだ。
「ええ、まずは十字派の歴史と私達の関係から話さないといけません」
数十人のギャラリーを前に緊張の面持ちで説教台に立ったテオドラは、気まずそうにコクトー神父に視線をやった。だが、神父は自分に都合の悪い話が始まるのに些かも気にする様子はない。教会の十字架は布が掛けられて隠されていた。
まず読者の為にも、帝国の南に面する内海とその周辺の内海世界における宗教事情から説明せねばならない。
内海世界では内海の東岸に始まった啓典教と呼ばれる一神教が専ら信仰されているが、この啓典教は大きく3つの宗派に分かれている。
約2000年前、啓典教に一人の偉大な預言者が現れ、この預言者によって啓典教が枝分かれして十字派が生まれた。内海世界の北側、単に大陸と呼ばれる地域ではこの十字派が主に信仰されている。
一方、啓典教の源流を成すのが星派である。星派の信徒は神に選ばれた「選民」を称しているが、戦乱で国家を失い、今は各地に少数民族として生きている。
だが、十字派は教義上の問題から商業を忌避する為、どこの国でも商人や金貸しには星派が非常に多く、無視できない影響力を持つ。酒保商人のモランもどうやら星派であるらしく、地上班にも数人が居る。
そして十字派の発生から数百年後、東方の砂漠の街である豪商が啓示を受け、預言者となって月派が興った。今や内海の東岸から南方大陸にかけての地域では月派が主流をなしている。
この3派は互いに反目しあっているが、この3派の中にもそれぞれ分派がある。
「この中に正統十字派でない人は居ますか?」
テオドラが挙手を求めると、ベップとアハメド医師、その他地上班と合わせて10人程が手を上げた。つまり、大多数はテオドラが言うところの正統十字派である。
帝国から銀嶺山脈を挟んで南方のアペニン半島に教皇を頂く正統十字派は、大陸各国の国教として権威を持っている。
諸国の王の王権は正統十字派の権威が担保していて、皇帝といえども教皇は無碍にできない。帝国の人間は大半が正統十字派であり、コクトー神父は正統十字派の司祭である。
だが、権力と結びついて長い時代を過ごすうちに正統十字派は腐敗し、これに異を唱えて新しい信仰を目指して分派したのが新十字派である。
ベップと他数人が新十字派である。星派同様に商人には新十字派が多く、大陸でも帝国より東方では新十字派の方が多数派になりつつある。
そして、更に東方や南方大陸に散在する辺境十字派と総称される諸派がある。アハメド医師は南方大陸で信仰を守る辺境十字派の家系であり、テオドラも辺境十字派にあたる。
「もう知っていると思いますが、私達龍人の先祖は正統十字派の迫害を逃れて銀嶺山脈に逃げ込みました」
テオドラはそう言って少し暗い表情を浮かべると、被っていた白いベールを脱いだ。龍人の証だという赤毛と角が露わになる。まだ飛龍隊の面々はその姿に慣れない。
古文献を紐解くと、啓典教が勃興する以前、雑多な多神教が信仰されていた時代の内海世界において、飛龍はそれほど珍しい存在ではなかったらしい。
そしてその多神教の神話によると、人間の娘に恋をした飛龍が人に化けて娘と結ばれ、生まれた子供が龍人の始祖であるという。
古代の飛龍と龍人は強い魔力を持ち、龍人は龍を使役し、あるいは魔術師として社会に溶け込んで暮らしていた。
だが、国家と結びついて強大な権力を持つに至った十字派は、啓典の教義と矛盾する存在であるこういった種族を「異端」とみなして迫害し始めた。
以来千数百年に渡って多くの異端とされた種族が殺され、魔術や魔力を持つ種族、そしてその知識は失われていった。
飛龍と龍人は僻地に逃れて僅かに生き延びた。銀嶺山脈に逃げ込んだのがテオドラと飛龍達の先祖で、それが言い伝えによると1800年ほど前の事だという。
以来、龍人は山道から外れた秘境に村を築き、周辺に住まう人々に飛龍を使役させる事で取り入って命脈を保ってきたのである。
龍人古来の信仰は十字派と奇妙に融合し、山脈に多い新十字派の教義も取り入れて変質していった。僻地にはこのようにして辺境十字派の一派として独自の教義を守っている宗派が他にもあるという。
テオドラは代々龍人の神官を務めてきた家系の娘であり、神官は飛龍と龍人、そして周辺の人々との調停役である。
「そして、何故私達がここまで来たかを説明します」
龍人の村と飛龍の群生地は銀嶺山脈に国境をまたいで数カ所があるが、長年の迫害と貧困の為に帝国には飛龍は100頭足らず、龍人も数百人が残るだけである。
近親交配を繰り返してきた為か飛龍は昔よりも幾分弱くなり、龍人もまた人間との混血が進んで魔力を殆ど持たなくなった。
テオドラ達神官の家系は魔力が強いという話だが、それでもテオドラは煙草に火をつけるのがやっとの火の粉が口から吐けて、よく当たる占いが出来る程度である。多くの龍人はもやは見た目の他は人間と変わらないという。
その命脈はもはや風前の灯というべき飛龍と龍人であったが、レオ一世の登場がその運命を大きく変えた。
レオ一世は大陸でもいち早く国家権力と宗教を切り離すことに成功し、国家の利益になるとして魔術の保護政策を打ち出した。その一環として帝国の龍人と飛龍の保護が始まったのである。
飛龍の群生地は禁猟区に定められ、龍人には帝国臣民として人間とほぼ同等の権利が認められた。麓から飛龍の食料が運び込まれるようになり、隠れ里や周辺の村々も国費で整備された。
有形無形の差別は残ったものの、それでも龍人は命の危険なしに人里に出ることができるようになったのである。それ故龍人の間では皇帝の人気は大変なものだとテオドラは少し嬉しそうに語った。
そして、そんな飛龍と龍人が何故帝都の外れまで来たのかというと、これは皮肉にも迫害に端を発する
帝国の保護が始まる以前、飛龍の子供は同世代の龍人と一緒に近くの人間の村に奉公に出て、労働力を提供する代わりに庇護を受けるのが常であった。
銀嶺山脈は人が住むには過酷な場所であり、龍人同様に周辺の村々も貧しく、当地の人達にとって飛龍と龍人は必要な存在であったのだ。
飛龍と龍人の身分が保証されて尚この慣習は残っており、帝国はこれに着目して飛龍の長老と交渉し、保護政策の見返りに奉公としてテオドラと飛龍がはるばる帝都の外れまでやってきたのだ。
「政治はよくわかりません。けど、飛龍隊が上手く行かないと私達の故郷は貧乏に逆戻りです。だから、私も龍達も精一杯やります。皆さんも協力して下さい」
テオドラはそう結んで説教台を降りた。教会はすっかり重苦しい空気に包まれてしまった。
続いて一番後ろで聞いていたブレスト司令が説教台に立った。
「聞いた通りだ。飛龍隊には保護政策の費用と合わせて2個師団程の予算がかかっている」
場がどよめいた。2個師団と言えば4万人もの将兵を抱える大部隊である。具体的な金額はわからないにせよ、それが途方もない大金である事は全員飲み込めた。
「つまり、飛龍隊には帝国、わけても飛龍と龍人の運命がかかっている。諸君らはそれを忘れないように」
その一言で解散となった。飛龍乗りも、地上班も、教会を出て持ち場に戻るその表情は真剣である。
「なあ、テオ」
スパルタカスに装具を付けてやりながら、モーリスはテオドラに話しかけた。
「少数民族が大変なのは、どこへ行っても同じだな」
「エスクレド少尉も少数民族なんですか?」
テオドラは少し意外そうな顔をした。異民族である事が明白なアハメド医師はともかく、姿形は他の人間と変わらないモーリスが少数民族のようには思えなかったのだ。
「モーリスでいいよ。俺はエウスカル人なんだ。龍人と同じで、陸でも海でも少数派さ」
モーリスの故郷である西部国境と面したエウスカル地方においてもエウスカル人は少数民族であり、肩身の狭い思いをすることはままあった。
かつてのエウスカル人は自ら船を持って世界の海を股にかけていたが、捕鯨船は大資本を必要とし、もはや辺境のエウスカルには1隻もない。
なので、エスクレド家の人間は親類一同を引き連れて海の向こうのアルビオン帝国に渡り、当地の捕鯨船に乗り込むことで捕鯨船乗りの仕事を営んでいた。
その地位は両国の関係に常に脅かされる不安定な代物である。モーリスの祖父の世代はそうして失業した記憶を子や孫に生々しく語り継いでいた。
「俺も船が買いたくて軍に来たんだ。飛龍乗りとして稼いで、エウスカル人の為の捕鯨船を買うのが俺の夢なんだ」
「私、まだ海って見たことがないんです。大きな塩辛い湖ですよね?」
「塩辛い湖か」
モーリスは思わず笑ってしまった。だが、自分も銀嶺山脈にあるという氷河を実際に見た事がないのに気付いて口籠った。
「テオはどうしてこの仕事を引き受けたんだい?」
「兄さんや姉さんは嫌がったけど、私は山の外の世界が見たかったんです」
「じきにこいつ達が連れて行ってくれるよ。海なんてすぐだ」
「じゃあ、早く飛龍に慣れてください」
モーリスは思わず苦笑した。まだモーリスは飛龍乗りとしては半人前である。
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