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第1章 フランコルム帝国近衛飛龍隊創設!
第8話 飛龍隊へようこそ
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ブレスト司令以下飛龍隊の面々を乗せた馬車は宮殿の門を出て2時間程走り、郊外の田園地帯に設けられた飛龍隊本部の営門の前で止まった。
周りは見渡す限りの畑と緑にいくらかの家があるだけで、帝都の郊外にまだこんなところが残っていたのかと驚くような田舎であった。
営門と言っても単なる丸太のゲートであり、本部には塀もなく木の柵で囲ってあるだけである。見た目には兵営というよりも牧場だ。
「牧場のようだと思っただろう?牧場を改築した」
馬車を先頭切って降りたブレスト司令は、隊員たちの反応に先回りしてそう答えた。
「近衛師団の駐屯地はこれに比べれば宮殿ですな」
ギョームは皇帝肝煎りの近衛部隊の本部にしてはあまりに素朴なその姿に不安を覚えた。
「司令、長旅御苦労さんです」
隊員たちを先頭で迎えたのは、白衣を着込んだ黒い肌の中年男であった。
「アハメド先生、お元気でしたか?」
ギョームは彼と知り合いらしい。旧友の再会という風に握手をして挨拶を交わす。
「皆、紹介しよう。私の知る限り一番優秀な獣医である、メネリク・アハメド少佐だ。飛龍の健康管理を担当する」
ブレスト司令の紹介を受けて陽気なアハメド医師は飛龍隊の面々に挨拶し、4人は敬礼で応えた。獣医と言っても少佐となれば上官である。
「それと、生憎この辺りには人の医者が居ない。彼が当面君達の治療も請け負う。だが、私を戦傷から生還させたのは彼だから安心したまえ」
その一言にギョーム以外の3人はぎょっとした。
「何もかも手探りの龍に比べれば、仕組みの分かっている馬や人間なんて簡単だ。なあ、小ギョーム」
「はい、近衛騎兵第1連隊の者は人馬問わず先生の腕を信頼しております」
どうやら、獣医が人を診るのは戦場の騎兵にとっては珍しい話ではないようだ。
続いて居並んだ30人ばかりの厩務員や鍛冶職人、馬具職人等、飛龍隊地上班と称する面々が次々紹介される。
彼らは見るからに柄の悪い男達だが、ブレスト司令とギョームが近衛騎兵第1連隊から選りすぐった腕利き揃いという話であった。
「おや、肝心の最重要人物がおらんな?」
全員紹介し終わったところで、まだ欠けた人が居るらしい事が分かった。
「教会で神父様と話し込んでますよ」
アハメド医師が居場所を知っていた。飛龍乗り達はブレスト司令に案内されて納屋を改装したらしき素朴な教会へと入っていった。
教会はベンチに説教台、十字架にピアノと、簡素ながらも一応は正統十字派の教会の体裁が整えられていた。
飛龍乗り達が入って来たのに気付き、薄暗い教会の入って左奥のベンチに並んで座っていた2つの影が立ち上がった。一人は明らかに司祭だが、もう一人はどうにも得体が知れない。
「やっと到着しましたか」
何歳なのか見当もつかないほど歳を取った老司祭は、その見た目からは想像がつかないほど軽い身のこなしでブレスト司令に歩み寄った。
「こちらはエミール・コクトー神父だ。海軍兵学校付司祭を長年務めていたが、昨年引退したのを無理言って来てもらった」
「危険に挑む貴方達に神の祝福があらんことを」
神父は4人に順に握手をして、十字を切った。
「そして、こっちが龍の管理の最高責任者で、飛龍隊の少尉待遇顧問のテオドラ・フークだ」
丁度雲間から太陽が出て教会に日光が入り、神父に寄り添っていたテオドラなる人物の姿が飛龍乗り達の目にはっきりと映し出された。
見習修道女の着る修道服の親戚のような純白のワンピースを着て、これまた白いベールを被った、燃えるような赤毛と赤い瞳が不思議な印象を与える小柄な少女である。
「飛龍達と一緒に来ました。どうぞよろしくお願いします」
屈託のない笑顔を浮かべるテオドラの口に大きな八重歯が覗いた。
「彼女は銀嶺山脈の飛龍の群生地で、代々神官として飛龍と人間の調停役を担ってきた家系の娘だ。誰よりも飛龍を熟知している。彼女と常に飛龍について相談と連絡を保ち、飛龍隊に役立てるように」
「すると、貴女は龍人ですかな?」
敬礼していたベップが興味深げにテオドラを見た。
「ええ、そうです」
テオドラはそう言ってベールを脱いだ。そこには人間にはないはずの2本の小さな角が、背中まで伸ばした見事な赤毛から飛び出している。
「おお、実物は初めて見ました。まさかこんな…」
そこまで言ってベップは口ごもった。龍人がどういう歴史を歩んできたか知っていたし、この場で迂闊にそれに触れるのはこの少女を傷つける事に他ならないからだ。
「じゃあ、皆さんを飛龍と引き合わせます」
ベップの気持ちを知ってか知らずか、テオドラはベールを再び被ると何事もなかったように微笑んで教会を出た。
営門を入って目の前に司令部があり、右側に隣接して教会がある。左側には地上勤務者の官舎と称するかつて牧童たちが住んでいたのだろう家があり、その離れが「初雪亭」なる酒保になっている。
そして司令部の裏手の元牧草地らしき広場に面して厩舎兼飛龍乗りの官舎が4軒建ち並んでいる。この建物だけが新築らしかった。
一人住まいには十分な広さの官舎に隣接してほぼ同じ面積の厩舎があり、そこに馬のように鞍を乗せた飛龍が1頭ずつ、繋がれもせずに大人しく入っている。これが乗り手と飛龍の初対面である。
この時飛龍乗り達は飛龍に2種類がある事を初めて知った。いずれも暗緑色の鱗に鋭い牙と角、コウモリのそれに似た大きな翼を持っているが、右側の2頭と左側の2頭は明らかに別種の生き物であった。
右手の2頭は一回り小さく、大きな牛程の大きさである。幾分太い2本の脚で直立し、脚と同じような大きさの地面につく長さの尾を持ち、前足の代わりに翼がある。首が長くて背が高く見えた。
一方、左手の2頭は背は低いが小型の象程の大きさがあり、短い4本足で地面に半ば這うようにしている。首は太くて短く、前足と後足の間に翼があり、尾は地面に届かない長さだ。
「大きい方を重種、小さい方を軽種と呼んでいます。名前は右からグラディウス、スパルタカス、アメジスト、リウィウスです」
テオドラが飛龍の古めかしい名前を紹介してくれる。
「それぞれをパスカル大尉、エスクレド少尉、シャルパンティエ少尉、クルチウス少尉に担当してもらいます。家族と思って大切にしてあげてくださいね」
どういう基準で選んだのかはわからないが、事によっては生死を共にするパートナーを紹介された龍達は、まるで他人事と言わんばかり呑気そうにしている。
「この子だけ角が多いな」
ジャンヌは自分のパートナーとなるアメジストの頭を見た。他の3頭には尖ったこぶのような白い角が2本生えているが、アメジストにだけは4本ある。
「この子は女の子です。女龍は角が多いんです」
「飛龍は人語を使いこなすという話ですが、この飛龍達も?」
ベップは恐る恐るリウィウスに歩み寄りながら訊ねた。
「この子達は15歳くらいの子供なのでまだですね。50歳くらいの大人になるともっと大きくなって、直接人の心に話しかけてくるようになります。けど、こっちの言う事はこの子達にも分かりますよ」
「すると、これから更に大きくなるのですな?」
「ええ。長老は2000歳を超えるとかで、その司令部くらいです。死ぬまで大きくなります」
古いが大きな司令部である。つまり、ちょっとした鯨並みという事だ。
「さあ、とにかく挨拶代わりにご飯を食べさせてあげてください」
テオドラの声と共に荷車に1杯ずつの飛龍の食事が運ばれてきた。
「まさか、噛み付きやしないよな?」
モーリスは商売仇たる海龍の凶暴さを思い出して少し躊躇した。
「家族として接していればそんな事は絶対にしません!」
テオドラはこれを飛龍への侮辱と受け取ったようだった。
「海龍は船を食うんだもんな」
モーリスは海龍がいかに凶暴な生き物か説明して弁明しつつ、責任を取るつもりで先頭切って荷車を押し、スパルタカスの厩舎の入り口まで持って行った。
モーリスの不安とスパルタカスという強そうな名前とは裏腹に、スパルタカスは空に向かって軽く火を吹いたかと思うと、荷車に首を突っ込んでさも美味そうに食事を始めた。荷車の中には肉と野菜と果物が一杯に入っている。
「なんだ、海龍とはえらい違いだ」
「ご飯は少なくとも最初のうちは必ず自分であげて下さい。飛龍は心を許した人以外の言う事は聞きません」
他の3人もめいめい飛龍に食事を与えた。いずれも素直に、嬉しそうに食事を取る。
「馬よりずっと利口だな」
ギョームは飛龍に馬とは段違いの知能があるのを既に感じ取っていた。
「魚は食べるのか?」
一段と食べるのが早いアメジストを見ながらジャンヌは何気ない疑問を投げかけた。
「川や湖で自分で捕まえて食べますよ」
「すると、泳げるわけか?」
「ええ。速いですよ」
「ところで、飛龍達も貴女も気を悪くしないで教えてもらいたのですが、敵対する人間を食べるという事は?」
ベップはこうして見ているだけでも無限に聞きたいことが湧いて出てくるのだった。
「山賊に襲われて噛み付いたなんて話はありますが、食べる事は絶対にありません。人を食べた飛龍も、飛龍を食べた人も呪われると言い伝えられてます」
「漁師は海龍をたまに食うけど大丈夫かな?」
呪われるという一言に恐れをなしたのはモーリスである。
「海龍ってそんなに怖い物なんですか?」
「俺の祖父さんの従弟は船ごと食われたんだぜ」
「生物学的には違う種のはずですから心配ないと思いますがね。海龍が人語を解するという話は聞きませんし、そもそも飛龍が魔力を持つのは古文献を紐解くと…」
ベップはポケットからメモ帳を取り出して何やら書き付けながらモーリスを擁護する。
「すると、心配はしなくていいのかね?」
「多分大丈夫だと…今度手紙で長老に聞いてみます」
飛龍の長老に裁定を仰ぐのが一番確かであろう。モーリスはひとまずは安心した。
周りは見渡す限りの畑と緑にいくらかの家があるだけで、帝都の郊外にまだこんなところが残っていたのかと驚くような田舎であった。
営門と言っても単なる丸太のゲートであり、本部には塀もなく木の柵で囲ってあるだけである。見た目には兵営というよりも牧場だ。
「牧場のようだと思っただろう?牧場を改築した」
馬車を先頭切って降りたブレスト司令は、隊員たちの反応に先回りしてそう答えた。
「近衛師団の駐屯地はこれに比べれば宮殿ですな」
ギョームは皇帝肝煎りの近衛部隊の本部にしてはあまりに素朴なその姿に不安を覚えた。
「司令、長旅御苦労さんです」
隊員たちを先頭で迎えたのは、白衣を着込んだ黒い肌の中年男であった。
「アハメド先生、お元気でしたか?」
ギョームは彼と知り合いらしい。旧友の再会という風に握手をして挨拶を交わす。
「皆、紹介しよう。私の知る限り一番優秀な獣医である、メネリク・アハメド少佐だ。飛龍の健康管理を担当する」
ブレスト司令の紹介を受けて陽気なアハメド医師は飛龍隊の面々に挨拶し、4人は敬礼で応えた。獣医と言っても少佐となれば上官である。
「それと、生憎この辺りには人の医者が居ない。彼が当面君達の治療も請け負う。だが、私を戦傷から生還させたのは彼だから安心したまえ」
その一言にギョーム以外の3人はぎょっとした。
「何もかも手探りの龍に比べれば、仕組みの分かっている馬や人間なんて簡単だ。なあ、小ギョーム」
「はい、近衛騎兵第1連隊の者は人馬問わず先生の腕を信頼しております」
どうやら、獣医が人を診るのは戦場の騎兵にとっては珍しい話ではないようだ。
続いて居並んだ30人ばかりの厩務員や鍛冶職人、馬具職人等、飛龍隊地上班と称する面々が次々紹介される。
彼らは見るからに柄の悪い男達だが、ブレスト司令とギョームが近衛騎兵第1連隊から選りすぐった腕利き揃いという話であった。
「おや、肝心の最重要人物がおらんな?」
全員紹介し終わったところで、まだ欠けた人が居るらしい事が分かった。
「教会で神父様と話し込んでますよ」
アハメド医師が居場所を知っていた。飛龍乗り達はブレスト司令に案内されて納屋を改装したらしき素朴な教会へと入っていった。
教会はベンチに説教台、十字架にピアノと、簡素ながらも一応は正統十字派の教会の体裁が整えられていた。
飛龍乗り達が入って来たのに気付き、薄暗い教会の入って左奥のベンチに並んで座っていた2つの影が立ち上がった。一人は明らかに司祭だが、もう一人はどうにも得体が知れない。
「やっと到着しましたか」
何歳なのか見当もつかないほど歳を取った老司祭は、その見た目からは想像がつかないほど軽い身のこなしでブレスト司令に歩み寄った。
「こちらはエミール・コクトー神父だ。海軍兵学校付司祭を長年務めていたが、昨年引退したのを無理言って来てもらった」
「危険に挑む貴方達に神の祝福があらんことを」
神父は4人に順に握手をして、十字を切った。
「そして、こっちが龍の管理の最高責任者で、飛龍隊の少尉待遇顧問のテオドラ・フークだ」
丁度雲間から太陽が出て教会に日光が入り、神父に寄り添っていたテオドラなる人物の姿が飛龍乗り達の目にはっきりと映し出された。
見習修道女の着る修道服の親戚のような純白のワンピースを着て、これまた白いベールを被った、燃えるような赤毛と赤い瞳が不思議な印象を与える小柄な少女である。
「飛龍達と一緒に来ました。どうぞよろしくお願いします」
屈託のない笑顔を浮かべるテオドラの口に大きな八重歯が覗いた。
「彼女は銀嶺山脈の飛龍の群生地で、代々神官として飛龍と人間の調停役を担ってきた家系の娘だ。誰よりも飛龍を熟知している。彼女と常に飛龍について相談と連絡を保ち、飛龍隊に役立てるように」
「すると、貴女は龍人ですかな?」
敬礼していたベップが興味深げにテオドラを見た。
「ええ、そうです」
テオドラはそう言ってベールを脱いだ。そこには人間にはないはずの2本の小さな角が、背中まで伸ばした見事な赤毛から飛び出している。
「おお、実物は初めて見ました。まさかこんな…」
そこまで言ってベップは口ごもった。龍人がどういう歴史を歩んできたか知っていたし、この場で迂闊にそれに触れるのはこの少女を傷つける事に他ならないからだ。
「じゃあ、皆さんを飛龍と引き合わせます」
ベップの気持ちを知ってか知らずか、テオドラはベールを再び被ると何事もなかったように微笑んで教会を出た。
営門を入って目の前に司令部があり、右側に隣接して教会がある。左側には地上勤務者の官舎と称するかつて牧童たちが住んでいたのだろう家があり、その離れが「初雪亭」なる酒保になっている。
そして司令部の裏手の元牧草地らしき広場に面して厩舎兼飛龍乗りの官舎が4軒建ち並んでいる。この建物だけが新築らしかった。
一人住まいには十分な広さの官舎に隣接してほぼ同じ面積の厩舎があり、そこに馬のように鞍を乗せた飛龍が1頭ずつ、繋がれもせずに大人しく入っている。これが乗り手と飛龍の初対面である。
この時飛龍乗り達は飛龍に2種類がある事を初めて知った。いずれも暗緑色の鱗に鋭い牙と角、コウモリのそれに似た大きな翼を持っているが、右側の2頭と左側の2頭は明らかに別種の生き物であった。
右手の2頭は一回り小さく、大きな牛程の大きさである。幾分太い2本の脚で直立し、脚と同じような大きさの地面につく長さの尾を持ち、前足の代わりに翼がある。首が長くて背が高く見えた。
一方、左手の2頭は背は低いが小型の象程の大きさがあり、短い4本足で地面に半ば這うようにしている。首は太くて短く、前足と後足の間に翼があり、尾は地面に届かない長さだ。
「大きい方を重種、小さい方を軽種と呼んでいます。名前は右からグラディウス、スパルタカス、アメジスト、リウィウスです」
テオドラが飛龍の古めかしい名前を紹介してくれる。
「それぞれをパスカル大尉、エスクレド少尉、シャルパンティエ少尉、クルチウス少尉に担当してもらいます。家族と思って大切にしてあげてくださいね」
どういう基準で選んだのかはわからないが、事によっては生死を共にするパートナーを紹介された龍達は、まるで他人事と言わんばかり呑気そうにしている。
「この子だけ角が多いな」
ジャンヌは自分のパートナーとなるアメジストの頭を見た。他の3頭には尖ったこぶのような白い角が2本生えているが、アメジストにだけは4本ある。
「この子は女の子です。女龍は角が多いんです」
「飛龍は人語を使いこなすという話ですが、この飛龍達も?」
ベップは恐る恐るリウィウスに歩み寄りながら訊ねた。
「この子達は15歳くらいの子供なのでまだですね。50歳くらいの大人になるともっと大きくなって、直接人の心に話しかけてくるようになります。けど、こっちの言う事はこの子達にも分かりますよ」
「すると、これから更に大きくなるのですな?」
「ええ。長老は2000歳を超えるとかで、その司令部くらいです。死ぬまで大きくなります」
古いが大きな司令部である。つまり、ちょっとした鯨並みという事だ。
「さあ、とにかく挨拶代わりにご飯を食べさせてあげてください」
テオドラの声と共に荷車に1杯ずつの飛龍の食事が運ばれてきた。
「まさか、噛み付きやしないよな?」
モーリスは商売仇たる海龍の凶暴さを思い出して少し躊躇した。
「家族として接していればそんな事は絶対にしません!」
テオドラはこれを飛龍への侮辱と受け取ったようだった。
「海龍は船を食うんだもんな」
モーリスは海龍がいかに凶暴な生き物か説明して弁明しつつ、責任を取るつもりで先頭切って荷車を押し、スパルタカスの厩舎の入り口まで持って行った。
モーリスの不安とスパルタカスという強そうな名前とは裏腹に、スパルタカスは空に向かって軽く火を吹いたかと思うと、荷車に首を突っ込んでさも美味そうに食事を始めた。荷車の中には肉と野菜と果物が一杯に入っている。
「なんだ、海龍とはえらい違いだ」
「ご飯は少なくとも最初のうちは必ず自分であげて下さい。飛龍は心を許した人以外の言う事は聞きません」
他の3人もめいめい飛龍に食事を与えた。いずれも素直に、嬉しそうに食事を取る。
「馬よりずっと利口だな」
ギョームは飛龍に馬とは段違いの知能があるのを既に感じ取っていた。
「魚は食べるのか?」
一段と食べるのが早いアメジストを見ながらジャンヌは何気ない疑問を投げかけた。
「川や湖で自分で捕まえて食べますよ」
「すると、泳げるわけか?」
「ええ。速いですよ」
「ところで、飛龍達も貴女も気を悪くしないで教えてもらいたのですが、敵対する人間を食べるという事は?」
ベップはこうして見ているだけでも無限に聞きたいことが湧いて出てくるのだった。
「山賊に襲われて噛み付いたなんて話はありますが、食べる事は絶対にありません。人を食べた飛龍も、飛龍を食べた人も呪われると言い伝えられてます」
「漁師は海龍をたまに食うけど大丈夫かな?」
呪われるという一言に恐れをなしたのはモーリスである。
「海龍ってそんなに怖い物なんですか?」
「俺の祖父さんの従弟は船ごと食われたんだぜ」
「生物学的には違う種のはずですから心配ないと思いますがね。海龍が人語を解するという話は聞きませんし、そもそも飛龍が魔力を持つのは古文献を紐解くと…」
ベップはポケットからメモ帳を取り出して何やら書き付けながらモーリスを擁護する。
「すると、心配はしなくていいのかね?」
「多分大丈夫だと…今度手紙で長老に聞いてみます」
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