呪い歌 ―踏み切りで起きた悲劇―

峡 翡翠

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side 小野寺律

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「は~やっと終わった!」
私、小野寺律の夢は看護師になること。
そのためにこうして夏休み中も惜しむことなく講習へ足を働かせている。
11時から4コマ受け、時刻は既に16時半を回っていた。
「早く帰らないと」
この時間ならば、最寄りの駅で17時発の電車に乗るのがベストだ。
私はやや急ぎ足で駅へと向かった。

そして学校を出て約15分。
現時刻にして16時54分、無事に駅へと辿り着いた。
早足で階段を下り、行列に並ぶ。
そして疾風を連れた電車が到着した。

『お待たせ致しました。双海行き、まもなく発車致します。』
車内アナウンスがかかり、席が確保出来たところで私は肩を落としスマホを開いた。
LINEの通知がまたもどっさりと溜まっている。
それもあの5人のグループから。
話の内容としてはどれも他愛のない事ばかりで面白みは至って0に近いが、私はこの仲間と共に過ごす日々が一番の幸せだった。

『次は、桂町~、桂町~、お出口は右でございます』
最初の乗車から二駅またがり、私の住む桂町へと辿り着いた。
そしてそのまま電車を降り、階段を上って外へと出た。
ここからはほんの10分程度で自宅へ着くのでもう安心だ。
「暑っついな~」
7月、ということもあり周りはどうも蒸し蒸しとしていた。
が、
ヒヤリ。
妙に冷たい風が私の体を誘った。
「なに、ここ」
いつもと変わらない帰り道のはずなのに、その雰囲気はまるで違う。
電柱の後ろに立っている大きな神木でさえも、無償に気味悪く感じた。
音がしない。
不意に我に返って辺りを狂った様に見渡した。
誰もいない。何も無い。
いつもと変わらなじゃないか。
大丈夫、薄気味悪く見えるのは大きな満月が浮かんでいるから。
大丈夫、大丈夫よ。
そう自分に言い聞かせた時だった。

「ワタシノカラダヲカエシテ」

後ろから冷たく鋭い子供の声が聞こえ、すぐさま私は振り返った。
が、やはりそこには誰もいない。
「だれ、だれなの!?」
不安と恐怖に満ち溢れた中、声を震わして放った言葉だった。
前後左右ひきりなしに首を回して確認するが、ただそこには静寂があるだけ。
「そうだ、LINE……」
少しでも気を紛らわそうと震える右手で5人のグループへと画面を操作した。
『たすけて』
短絡な文を打ち、送信ボタンを押したその直後だった。

「赤~いランドセル背負ったのは~~~」

その歌始めに足がすくんだ。
幼い子供の、不穏な音色が辺り一体に響き渡った。
これは間違いなく呪い歌だ。
その声は後ろから徐々に重く、私にのしかかっくる様だった。
早く、早く逃げなきゃ。
頭の中ではしっかり分かっているのに、どうしても恐怖に震えて足が動かない。
「いや、いや……!」
とうとうその場に尻を着き、這いつくばるようにして前へと体を進めた。
怖い、怖い、やめて、来ないで。
その時だった。

「踏み切り~前の、オトモダチ………」

何という事だろう。
歌が終わってしまった。
………呪い歌が。
そして私のすくんでいた足も、嘘のように軽くなった。
「…おわっ……たの?」
膝をほろい、確認のために後ろを振り返った。

「アナタノヒダリアシチョウダイヨ」

背後にいたのは何ともおぞましい顔をした小さな女の子だった。
ブチブチと、肉と肉を裂かれるような鈍い音と痛みが私の左足を襲った。
そして悲鳴をあげる間もなく私の意識はここで途切れたのだった。
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