上 下
42 / 149

第42話 子供連れ狼

しおりを挟む
『ちょっと来てくれ。俺にはこいつを殺せない。27号室だ』
「了解」

 大船おおぶねが殺せない強敵か。
 どんなのだろう。

 駆け付けると、カイザーウルフがいて、子供が3匹。
 母親は俺達を睨み殺すほどの視線で見ていた。

「どうにかなんねぇか」
「こう言っちゃなんですけど、モンスターの飼育は難しいです。政府の機関でも何人か飼育員が殺されているようです」
「分かっているよ。心を鬼にしなけりゃあってことは」
「先輩、どうにかならないですか」

「この部屋を封印することはできる。だが、いずれ壁をぶち破ってあふれ出てくる」
「でも」

 どうするかな。
 母親だけ殺して、子供を政府機関に売るというのも非情だ。
 かと言って見逃すこともできない。
 母子共々殺すというのも非情だ。

 これにない選択肢は母子全員を捕まえるだ。
 カイザーウルフを閉じ込めておける檻は特注品になるんだろうな。
 捕獲作戦はし烈を極めるに違いない。

 麻酔銃が使えればな。
 方法はある麻酔銃の弾を手で握りぶっ刺せば良い。
 そうすれば、手に持っている間は魔力が流れているから刺さる。
 問題はどうやるかだ。
 まあできるんだけどね。

「母子共々捕獲しましょう。政府機関で飼育してもらうことにします」
「そうか。甘い決断だが、討伐出来ない俺がとやかく言うことじゃねぇ」
「先輩、ありがとうございます」
「今回は特例だ。次にこういうことがあっても同じ行動をとるとは限らん」
「それで、作戦はどうする?」

「身動きできないようにダンジョン格子で挟みます。後は麻酔薬をぶすっと」
「よし、麻酔薬は任せとけ」

 大船おおぶねさんが去って行き、しばらくして麻酔薬を手に現れた。

「よし、やりますか。【リフォーム】ダンジョン格子」
「すまんな」

 身動きの取れなくなったカイザーウルフに、大船おおぶねさんが麻酔薬を次々に刺していった。
 そして体を傷つけないようにフォークリフトに載せる。

 外に運び出すと研究所の人達が来ていた。

「ご協力ありがとうございます」
「実験動物にはしないで下さい」

 俺は要求を伝えた。

「分かりました。なるべくそのようにします」
「後で会いに行ってもいいですか」

 藤沢ふじさわが尋ねる。

「はい、強化ガラス越しですが」

 いつかモンスターと共存できる世界になったらいいな。
 戦いはどんなものでも悲しい。
 犠牲者の出ない優しい世界になることを祈っている。

 今回の動画の配信は反響を呼んだ。
 可哀想という意見に対して、殺すべきという声も多い。

 たぶん正解なんてないんだ。
 釈然としない気持ちを抱えて番田ばんださんの部屋へ行く。
 番田ばんださんは俺達の話を聞いて、割り切れないよねと言った。

「猫もさ、やたらめったら構ってやれば良いって、もんじゃない。責任を持たないといけないんだよ。増えすぎないように手術したりしてさ。手術は残酷だという人もいるけど、確かに割り切れないんだよな」
「そう考えると複雑ですよね」
「情をやたらめったら移すのは危険だ。よく野良猫に餌をあげている人をみるけど正直複雑だよ」

「でも、あの母親の何が何でも子を守るっていう意志を見た時に、モンスターも人間と同じなんだなって」

 と藤沢ふじさわ

「冒険者は罪深いよな」

 と俺。

「そういうのを考えたら、家畜の肉は食べられなくなる。割り切らないと。猫を飼うのも一緒だよ。どこかで割り切らないと、野良猫を全て保護は出来ない。怪我や病気の猫を見たら、出来る限りはするけど、際限なくは出来ないからな」

 番田ばんださんが少し悲しそうに言った。
 インターホンが鳴る。
 とうやら上溝うえみぞさんが来たようだ。
 これまでの話をすると、彼女は。

「そういう問題の答えは出ないですよ。私は運命に従うことにしてます。猫ちゃんに会ってびびっときたら、うちの子にします。所詮、人間のエゴでしかないです。運命ですよ」

 番田ばんださんが頷いている。

「また、ひとり減った」

 小声で小さくガッツポーズする藤沢ふじさわ
 まあな、運命としか言いようがないよな。
 殺したとしても運命だし、助けたとしても運命。
 なるべく助けたいのは人として当然だ。
 でも助けられない場合もある。

 保健所の犬猫全てを助けたりできないものな。
 出来ることを運命に沿ってやる。
 これだけだ。
 今回の対応はまあ良かったとしておこう。

 今回は出来る限りのことをした。
 次回も出来る限りのことをする。
 それで良いと思わないとやっていけない。
――――――――――――――――――――――――
俺の収支メモ
              支出       収入       収支
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
繰り越し               21,745万円
依頼金          100万円
上級ポーション3個             912万円
彫像10体                  10万円
相続税        2,235万円
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
計          2,335万円 22,667万円 20,332万円

遺産(不動産)         0円
ダンジョン        -84億円

 毎日、上級ポーションが3個も湧いて出ればいうことはない。
 亡くなってから10ヶ月以内だったが、相続税を払った。
 見積より高くついたが、これは仕方ない。
 ひとつ肩の荷が下りた気分だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました

四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。 だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!

「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

婚約者に忘れられていた私

稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」  「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」  私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。  エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。  ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。  私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。  あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?    まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?  誰?  あれ?  せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?  もうあなたなんてポイよポイッ。  ※ゆる~い設定です。  ※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。  ※視点が一話一話変わる場面もあります。

借金背負ったので兄妹で死のうと生還不可能の最難関ダンジョンに二人で潜ったら瀕死の人気美少女配信者を助けちゃったので連れて帰るしかない件

羽黒 楓
ファンタジー
借金一億二千万円! もう駄目だ! 二人で心中しようと配信しながらSSS級ダンジョンに潜った俺たち兄妹。そしたらその下層階で国民的人気配信者の女の子が遭難していた! 助けてあげたらどんどんとスパチャが入ってくるじゃん! ってかもはや社会現象じゃん! 俺のスキルは【マネーインジェクション】! 預金残高を消費してパワーにし、それを自分や他人に注射してパワーアップさせる能力。ほらお前ら、この子を助けたければどんどんスパチャしまくれ! その金でパワーを女の子たちに注入注入! これだけ金あれば借金返せそう、もうこうなりゃ絶対に生還するぞ! 最難関ダンジョンだけど、絶対に生きて脱出するぞ! どんな手を使ってでも!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

いや、あんたらアホでしょ

青太郎
恋愛
約束は3年。 3年経ったら離縁する手筈だったのに… 彼らはそれを忘れてしまったのだろうか。 全7話程の短編です。

酷い扱いを受けていたと気付いたので黙って家を出たら、家族が大変なことになったみたいです

柚木ゆず
恋愛
 ――わたしは、家族に尽くすために生まれてきた存在――。  子爵家の次女ベネディクトは幼い頃から家族にそう思い込まされていて、父と母と姉の幸せのために身を削る日々を送っていました。  ですがひょんなことからベネディクトは『思い込まれている』と気付き、こんな場所に居てはいけないとコッソリお屋敷を去りました。  それによって、ベネディクトは幸せな人生を歩み始めることになり――反対に3人は、不幸に満ちた人生を歩み始めることとなるのでした。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

処理中です...