殺人推理:配信案内~プログラマー探偵:路軸《ろじく》九美子《くみこ》 第1章:愛憎の反転《桁あふれ》~

喰寝丸太

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第38話 噂《スクロール》

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「聞いたわよ。蜂人はちとさんが殺された時の第一発見者なんだって」

 同僚の女性社員から話し掛けられた。

【ば7:これはまた面倒な事態】
【蟹鎌:ちっちっちっ、マスコミにばれるとうるさい】
【やすピー:無実なんだから堂々としてれば良いのよ】
【ハイレックス:タスポリスにマスコミが加入してくるかな】
【アーラヨット:どうでも良いことだ】
【もっちん:どうかな。守秘義務で一筆取られているけど、マスコミだと報道できないんじゃ意味はない】
【勝手ソンソン:うん、タスポリスの登録はしないな。マスコミも法律を破るとうるさいのは知っている】

「話を広めないでくれるかな」
「もうみんな知っているわよ。マスコミの取材は受けた?」
「いいや」
「もったいない。テレビに映れるわよ。モザイクの変声機かも知れないけど」
「嫌だよ。人の死を自慢げに話したくない」
「そう、私なら飛びついちゃうな。モザイクなしで良いって、言っちゃいそう」

 会社から出ると、マスコミが追いかけてきそうだ。
 アパートまで来るかな。
 来るんだろうな。
 密室殺人なんて、ワイドショーや週刊誌の恰好のネタだ。

【ば7:テレビに出るのもこんなことじゃちょっとな】
【勝手ソンソン:うん、田舎に自慢できない】
【蟹鎌:ちっちっちっ、第一発見者は容疑者扱いされ易いから、取材はよく考えるのだ】
【やすピー:私だったら取材は受けないかも】
【ハイレックス:目立つのには良い手だけどね。マスコミからは取材費とか出るんだろうか】
【アーラヨット:どうでも良いことだ】
【もっちん:取材費は最初に請求したらくれるんじゃないかな】

「今夜からどこに泊まろう。ホテルをとるしかないか。また出費がかさむ」

【やすピー:騒がしくなるのも考え物ね。住んでいる所まで押し掛けられたら、私ならキレる】
【ハイレックス:そこまでは酷くないと思うよ。容疑者じゃないんだから】
【アーラヨット:配信の停止さえなければ良い】
【もっちん:容疑者扱いされているんだよな】
【ば7:そうなるとうるさいな】
【勝手ソンソン:でも逮捕状が出るまでは実名は出ない】
【蟹鎌:ちっちっちっ、徹底した取材拒否が正しいのだ】

 事件手当とか出ないだろうか。
 とにかくビジネスホテルを予約しよう。
 3日間で方がつくかな。
 この会社に出入りするのがまた一苦労になりそうだ。
 会社の前にタクシー呼んでも、乗るまでに囲まれる。
 乗っても、きっと後を追って来るだろう。
 実に困った事態だ。

「九美子、助けてくれ」
「どうしたの?」
「第一発見者だと社内の人間にばれてる。マスコミにもばれているだろう。会社から気づかれずに出たいが、出られない」
「そんなの、スモークシールドのフルフェイスヘルメットを被って、バイクで出れば良いわ。免許持っているでしょ」
「原付なら乗れる」
「バイクをレンタルすれば良いわ。ヘルメットなら届けてあげる」
「恩に着る」
「良いのよレストランを奢ってくれるんでしょう」

 それがあったな。
 ちゃらにされたか。
 まあ良いや。

【アーラヨット:九美子様のヘルメット、10万円出そう。売ってくれ】
【もっちん:人の物を売ったら窃盗だろう】
【ば7:まあフルフェイスならばれないな】
【勝手ソンソン:バイクなら車が追いかけて来ても狭い路地で振り切れる】
【蟹鎌:ちっちっちっ、逃げるならバイク】
【やすピー:ドラマみたいね。バイクで逃走。なんとなく良いシーンだわ】
【ハイレックス:レンタルバイクなんてあるんだ。初めて知った】

「まあね」
「事件のアドバイス料は後で請求するわ」
「お手柔らかにお願いするよ」
「ふふふ」

 九美子に対する借りが増えていく。
 入学の抽出と事件のアドバイスか。
 安いとはいえ定食屋を10回以上おごらないといけなくなりそうだ。

【アーラヨット:九美子様に貢ぐのだ】
【勝手ソンソン:アドバイス料か。どれぐらいだろうか】
【蟹鎌:ちっちっちっ、時給1万円はいくだろう】
【やすピー:そこは友達価格じゃない。腕のいいプログラマーがどれくらいかは知らないけど】
【ハイレックス:ただほど高いものはない】
【もっちん:俺も九美子様を貸し切りたい】
【ば7:ゲスの思考だなだから、女が寄って来ないのだ】
【もっちん:くっ、ただ九美子様とお話したのに】

 僕宛にピンクのヘルメットが届いた。
 速攻で届いたが、バイク便でも使ったのかな。
 被ってみる。
 いい香りがした。
 九美子の匂いだ。

 自分のヘルメットを貸してくれるなんて、やっぱり惚れられているのかな。
 いいや、ヘルメットだぞ。
 相乗りする時なんかは貸し借りは普通だ。
 意識する必要はない。
 でも匂いが、いやがおうでもその事を意識させる。

 僕は慌ててヘルメットを脱いだ。

「そうだ。香りだ。あの事件の現場で強い木の匂いがして、ポンドの匂いと薬品の匂いが僅かにした」

 僅かな匂いは気にもしなかったが、重要かも知れない。

「でかした。私の推理通り」

 九美子から速攻で返事があった。
 重要だったらしい。
 僕もおぼろげに密室のトリックが分かった。

【もっちん:九美子様の推理が進展した模様】
【勝手ソンソン:うん、匂いね。どんなことなのか分からないけど】
【やすピー:木は扉に細工したんでしょ。ポンドも細工。薬品は何かな】
【ハイレックス:でも肝心のどういう細工かが分からない】
【ば7:うーん、薬品か。どんな薬品かで推理が変わるな】
【蟹鎌:ちっちっちっ、こういう証拠がヒントになるのだ】
【アーラヨット:九美子様は賢いのだ。そして美しい】
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