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第20話 プラマイゼロの意味《変数値》
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スマホをメモ代わりにしていたのを九美子に覗き込まれた。
「重大な情報がいくつも抜け落ちているわよ」
「えっ、何だろう」
「プログラム的には『i--』した後に『i++』しても意味があるのよ」
まただ。
もやっとする。
【やすピー:ええとマイナス1してプラス1した? 歩を打って、すぐに取られて、取り返したみたいな】
【もっちん:密室トリックかな。確かに元に戻ると分からない】
【勝手ソンソン:ふんふん、なるほど。で、どんなトリック】
【もっちん:分かったら、警察に情報提供してる】
【ハイレックス:引いた後にプラス1は分かるよ。でも事件にどう関係しているのか分からない】
【ば7:密室トリックのことを言っていると思う】
「どういう意味」
「数を一つ引いて、そして一つ足す」
「数は動いてない。何もしてない事と一緒だ」
「一つ引いてから、処理をして、それから一つ足す。これと処理してから、一つ引いて、一つ足す。違うでしょ」
「違うけど何の意味が?」
「『i--』した時にその痕跡は確かに残るのよ」
「痕跡って?」
分からないことだらけだ。
【もっちん:やっぱり密室トリックだ。何かした後に、トリックして、元に戻した】
【ば7:うーん、その何かが分からないと】
【ハイレックス:今回のヒントは密室トリックだな】
【やすピー:ええと駒損して駒得して、その間に何手かやりとりがあった】
【勝手ソンソン:密室トリックを考えられるほど、俺は頭が良くない。降参】
「そして定数の話をしたわよね。同じ定数が定義されているファイルでは、その定数は同じ物として扱う」
抜け落ちた情報で今の話に関係した物があるか?
考えつかないんだが。
すごくもやっとした。
これだから九美子と食べる飯は、美味いのか、不味いのか、分からなくなってしまう。
メモを見ながら考える。
蜂人が出張と偽って休みを取った日はまだあるかも。
ちょっと見てみた。
そういう日が1年で4日あった。
メモを取る。
配信に表示。
【やすピー:不倫の密会なら、この4日は怪しい】
【勝手ソンソン:でも手口は変えるかもよ。夜のひと時でも愛は交わせる】
【ハイレックス:不倫して泊まらないで家に帰る奴はいそうだね】
【もっちん:うんうん、考えられることだ】
【ば7:となると代休から辿るのは無理そう】
「これは凄い前進なんじゃないか」
「どれどれ。たぶん駄目ね。プログラム的にはカウンターとして『i』があったとしても、次のループで同じ動きをするとは限らない」
「そりゃあ人間のやる事だから」
「一回目の二重ループでは『i,j』を使った。二回目の二重ループでは『i,k』を使った」
「なんでそれが分かる?」
「調べたからよ。2月17日に代休または有給休暇を取った人物は複数いるわ。他の4日はいない」
手口を変えたか。
それとも2月17日の人物は社内の人間ではないのかも。
事件の分からなさに頭を掻きむしりたくなるようだ。
九美子にはもう犯人像が見えているらしい。
教えてはくれなさそうだ。
たぶん確信をつかむまでは言わないだろう。
そうだよな。
人を殺人犯扱いして違ったら、その人に申し訳ない。
ついさっき僕自身で冤罪の恐ろしさを知った。
濡れ衣を晴らすのは良いが、気をつけたい。
こいつが犯人だというのは、確定的な証拠が出てからにしよう。
【勝手ソンソン:やっぱりね。手口は変えるよ。奥さんとか鋭いからね】
【ハイレックス:泊まらない説が有効か。そうなると、ホテルの予約とか調べるといいかもな】
【もっちん:さすがにラブホテルの予約は会社ではしないと思う。スマホからなら出先でも出来る】
【やすピー:レストランは会社から予約したのよね。犯罪者は同じ手を使うというのがあるけど。こういうのにも癖が出るのよね。棋風が出るように】
【ば7:調べてみる価値はあると思うよ】
「これからどうするの?」
「プログラム的には個々の『関数』の内部の流れを追うの」
またそれだ。
牛丼の美味かった気分が全て台無しだ。
「具体的には?」
「2月17日にという条件で動いた『関数』を追うの」
「もっと分かるように言ってくれ」
「去年の2月17日に特別な動きをした人物を追うのよ」
何だそんな事か。
【やすピー:それはありね。同じ日に何かしてるはず。同じ定石を追うのよね】
【勝手ソンソン:まあ、現時点ではそれしかないかも】
【ハイレックス:何か分かるといいですね】
【もっちん:九美子様は常に正しい】
【ば7:調べる必要ありかな】
ホテルの予約は調べてみるか。
ただなんと言って調べてもらうか。
団符刑事に丸投げしよう。
メールを送ると、速攻で返ってきた。
そんなことはとっくに調べたと。
さいですか。
結果は教えてくれないのだな。
ラブホテルなら防犯カメラがある。
女性と入れば映っているはずだ。
だから、そういう容疑者がいるなら、僕の出る幕はない。
「重大な情報がいくつも抜け落ちているわよ」
「えっ、何だろう」
「プログラム的には『i--』した後に『i++』しても意味があるのよ」
まただ。
もやっとする。
【やすピー:ええとマイナス1してプラス1した? 歩を打って、すぐに取られて、取り返したみたいな】
【もっちん:密室トリックかな。確かに元に戻ると分からない】
【勝手ソンソン:ふんふん、なるほど。で、どんなトリック】
【もっちん:分かったら、警察に情報提供してる】
【ハイレックス:引いた後にプラス1は分かるよ。でも事件にどう関係しているのか分からない】
【ば7:密室トリックのことを言っていると思う】
「どういう意味」
「数を一つ引いて、そして一つ足す」
「数は動いてない。何もしてない事と一緒だ」
「一つ引いてから、処理をして、それから一つ足す。これと処理してから、一つ引いて、一つ足す。違うでしょ」
「違うけど何の意味が?」
「『i--』した時にその痕跡は確かに残るのよ」
「痕跡って?」
分からないことだらけだ。
【もっちん:やっぱり密室トリックだ。何かした後に、トリックして、元に戻した】
【ば7:うーん、その何かが分からないと】
【ハイレックス:今回のヒントは密室トリックだな】
【やすピー:ええと駒損して駒得して、その間に何手かやりとりがあった】
【勝手ソンソン:密室トリックを考えられるほど、俺は頭が良くない。降参】
「そして定数の話をしたわよね。同じ定数が定義されているファイルでは、その定数は同じ物として扱う」
抜け落ちた情報で今の話に関係した物があるか?
考えつかないんだが。
すごくもやっとした。
これだから九美子と食べる飯は、美味いのか、不味いのか、分からなくなってしまう。
メモを見ながら考える。
蜂人が出張と偽って休みを取った日はまだあるかも。
ちょっと見てみた。
そういう日が1年で4日あった。
メモを取る。
配信に表示。
【やすピー:不倫の密会なら、この4日は怪しい】
【勝手ソンソン:でも手口は変えるかもよ。夜のひと時でも愛は交わせる】
【ハイレックス:不倫して泊まらないで家に帰る奴はいそうだね】
【もっちん:うんうん、考えられることだ】
【ば7:となると代休から辿るのは無理そう】
「これは凄い前進なんじゃないか」
「どれどれ。たぶん駄目ね。プログラム的にはカウンターとして『i』があったとしても、次のループで同じ動きをするとは限らない」
「そりゃあ人間のやる事だから」
「一回目の二重ループでは『i,j』を使った。二回目の二重ループでは『i,k』を使った」
「なんでそれが分かる?」
「調べたからよ。2月17日に代休または有給休暇を取った人物は複数いるわ。他の4日はいない」
手口を変えたか。
それとも2月17日の人物は社内の人間ではないのかも。
事件の分からなさに頭を掻きむしりたくなるようだ。
九美子にはもう犯人像が見えているらしい。
教えてはくれなさそうだ。
たぶん確信をつかむまでは言わないだろう。
そうだよな。
人を殺人犯扱いして違ったら、その人に申し訳ない。
ついさっき僕自身で冤罪の恐ろしさを知った。
濡れ衣を晴らすのは良いが、気をつけたい。
こいつが犯人だというのは、確定的な証拠が出てからにしよう。
【勝手ソンソン:やっぱりね。手口は変えるよ。奥さんとか鋭いからね】
【ハイレックス:泊まらない説が有効か。そうなると、ホテルの予約とか調べるといいかもな】
【もっちん:さすがにラブホテルの予約は会社ではしないと思う。スマホからなら出先でも出来る】
【やすピー:レストランは会社から予約したのよね。犯罪者は同じ手を使うというのがあるけど。こういうのにも癖が出るのよね。棋風が出るように】
【ば7:調べてみる価値はあると思うよ】
「これからどうするの?」
「プログラム的には個々の『関数』の内部の流れを追うの」
またそれだ。
牛丼の美味かった気分が全て台無しだ。
「具体的には?」
「2月17日にという条件で動いた『関数』を追うの」
「もっと分かるように言ってくれ」
「去年の2月17日に特別な動きをした人物を追うのよ」
何だそんな事か。
【やすピー:それはありね。同じ日に何かしてるはず。同じ定石を追うのよね】
【勝手ソンソン:まあ、現時点ではそれしかないかも】
【ハイレックス:何か分かるといいですね】
【もっちん:九美子様は常に正しい】
【ば7:調べる必要ありかな】
ホテルの予約は調べてみるか。
ただなんと言って調べてもらうか。
団符刑事に丸投げしよう。
メールを送ると、速攻で返ってきた。
そんなことはとっくに調べたと。
さいですか。
結果は教えてくれないのだな。
ラブホテルなら防犯カメラがある。
女性と入れば映っているはずだ。
だから、そういう容疑者がいるなら、僕の出る幕はない。
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