殺人推理:配信案内~プログラマー探偵:路軸《ろじく》九美子《くみこ》 第1章:愛憎の反転《桁あふれ》~

喰寝丸太

文字の大きさ
上 下
16 / 56

第16話 飲み会《ログ参照》

しおりを挟む
「去年のバレンタインデーに飲み会? ないね。強制したら文句が出る。そんな話は出るはずもない」
「そんな飲み会を主催したら、寂しい奴だと思われる」
「一人だとしてもプライドがあるからね」

 同僚に聞いたが、答えのあった人は全員が全否定だった。
 幻の飲み会か。
 謎としては陳腐だな。
 密会の言い訳だろう。

 去年の2月14日に蜂人はちとはどこに行ったのかな。
 密会だとすれば店を予約したに違いない。

 数ある店からそれを探すのは難しい。
 仕方ない九美子に考えさせるか。

「去年のバレンタインデーの飲み会はなかった」

 配信を始めて、少し間を置いてから僕はそう言った。

【もっちん:やっぱりね。そんな日に飲み会するのは独身の寂しい男だけ】
【ふんすか:まあそうだと思う】
【いっぽっぽ:バレンタインデーの飲み会、確かに怪しい】
【勝手ソンソン:そんな日に居酒屋いくとカップルがムカつくこと】
【やすピー:経験があるのね】
【ハイレックス:俺もある。学生の時だけど】
【やんまま:私もそんな日の飲み会は行くなら彼氏ね】
【アーラヨット:九美子様とバレンタインデートできたら死んでも良い】

蜂人はちとが2月14日に店を予約したらどこかな?」

 九美子にテレビ電話を繋いで問い掛けた。

「簡単よ。プログラム的には『ログ』の問題ね。ネットの接続情報を探すの。社内のザーバーを管理している人に掛け合えばいいわ」
【勝手ソンソン:そんなことまで分かっちゃうんだ】
【やんまま:接続ログってみんな分かる物なの】
【やすピー:ええ、パソコンを消去しても分かる記録はある】
【ハイレックス:怖いな】
【アーラヨット:九美子様、博識、尊い】
【もっちん:俺、秘密のアクセスはネットカフェからしてる】
【勝手ソンソン:お前、それ危ないぞ。ウィルスとか仕組まれている可能性がある】
【やすピー:テレビでやってたね。ネットバンキングの情報を取られちゃうんだよね】
【ハイレックス:俺も見た】
【いっぽっぽ:そういえばそういう事件もあったね】
【ふんすか:今回の事件とは関係なさそうだけど】

「なんで社内のパソコンを使って予約を取ったと判る?」
「スマホは家族に見られる危険性があるもの」

【もっちん:家族に見られて困るのなら、会社のパソコンは良いかもね】
【ふんすか:会社なら家族は来ないからね】
【いっぽっぽ:俺も会社のパソコンの履歴には気をつけよう】
【やすピー:他の社員にはばれるかもだけど】
【勝手ソンソン:密会の店の予約なら、会社でしても問題ないな】
【アーラヨット:九美子様と密会したい】
【ハイレックス:そうだよね】
【やんまま:案外と抜けてるものなのよね。うちの旦那もキャバクラ行った証拠とかポロっと出てくる】

「会社だって見られたら困るだろう」
「そうかしら、席を二つ用意するだけなら、見られても邪推はされないわ。男女のカップルだとは限らないのだし」
「分かった掛け合ってみる」

 さて、なんて言おう。

蜂人はちとが亡くなったのは知っているよね」
「ええ」
蜂人はちとが亡くなる前にレストランを予約したんだけど、キャンセルしたい。頼まれたんだ。でどこのホームページか調べたい。今回、予約したのは自宅だけど、同じ店に去年バレンタインデー近くに予約したらしい」
「ええと、去年の記録ですね。これかな」

 そのホームページはレストランだった。
 うん、当たりだ。
 これに間違いない。

 そこは会社がいつも接待として使う店ではなかったから怪しいと思う。

 その店の外装は落ち着いた雰囲気の店でとても高そうだ。
 ドアを開けるとチリンとベルが鳴り、ウェイターが出迎えてくれた。
 照明も少し暗くしてあり、ムードを出すには良い店だ。
 テーブルにキャンドルとか置いたら映えること間違いなしだ。
 店内も綺麗で、ゴミひとつ落ちてない。

「まだ、食事はお出しできません。うちはディナーだけなんで」
「ええと、去年のバレンタインデーに蜂人はちとという者が食事したと思うんですが」

「去年のバレンタインデーの蜂人はちとさんの予約ですか? お客さんの情報は喋れません」
「ええと、その席が素晴らしかったというので僕も同じ席を予約したい」
「そういう事でしたら。お客さん運が良かったですね。その席は空いてますよ」

 ウェイターが帳簿をチェックして教えてくれた。
 この店に蜂人はちとが来たのは間違いない。
 それにしても万札が飛ぶ出費は痛い。

 2人で予約したから、無駄にしない為には、九美子に頼まないといけない。
 バレンタインデーにレストランを予約したなんて言ったらどんな顔をするだろう。
 僕はきっと顔を真っ赤にして、九美子にそれを告げるに違いない。
 事件よりこっちの方が難問に思える。

 さて問題は蜂人はちとがここに誰と来たかだ。
 店員から上手く聞き出す糸口がつかめない。
 なんて言おう。

 こういう時は九美子に相談しよう。
 予約の相談をしているなら、電話も問題ないだろう。

「ええと、一緒に来る予定の女生と電話したい。振られたりすると恰好悪いから外で掛けてくるよ」
「はい、ごゆっくりどうぞ」

 一度、店の外に出る。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

この欠け落ちた匣庭の中で 終章―Dream of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
ーーこれが、匣の中だったんだ。 二〇一八年の夏。廃墟となった満生台を訪れたのは二人の若者。 彼らもまた、かつてGHOSTの研究によって運命を弄ばれた者たちだった。 信号領域の研究が展開され、そして壊れたニュータウン。終焉を迎えた現実と、終焉を拒絶する仮想。 歪なる領域に足を踏み入れる二人は、果たして何か一つでも、その世界に救いを与えることが出来るだろうか。 幻想、幻影、エンケージ。 魂魄、領域、人類の進化。 802部隊、九命会、レッドアイ・オペレーション……。 さあ、あの光の先へと進んでいこう。たとえもう二度と時計の針が巻き戻らないとしても。 私たちの駆け抜けたあの日々は確かに満ち足りていたと、懐かしめるようになるはずだから。

【完結】共生

ひなこ
ミステリー
高校生の少女・三崎有紗(みさき・ありさ)はアナウンサーである母・優子(ゆうこ)が若い頃に歌手だったことを封印し、また歌うことも嫌うのを不審に思っていた。 ある日有紗の歌声のせいで、優子に異変が起こる。 隠された母の過去が、二十年の時を経て明らかになる?

白昼夢 - daydream -

紗倉亞空生
ミステリー
ふと目にした一件の新聞記事が、忘れていた遠い昔の記憶を呼び覚ました。 小学生時代の夏休みのある日、こっそり忍び込んだ誰もいないはずの校舎内で体験した恐怖。 はたしてあれは現実だったのだろうか? それとも、夏の強い陽射しが見せた幻だったのだろうか? 【主な登場人物】 私………………語り手 田母神洋輔……私の友人      ※ シンジ…………小学生時代の私 タカシ…………小学生時代の私の友人 マコト…………同上 菊池先生………小学校教師 タエ子さん……?

俺が咲良で咲良が俺で

廣瀬純一
ミステリー
高校生の田中健太と隣の席の山本咲良の体が入れ替わる話

ダブルの謎

KT
ミステリー
舞台は、港町横浜。ある1人の男が水死した状態で見つかった。しかし、その水死したはずの男を捜査1課刑事の正行は、目撃してしまう。ついに事件は誰も予想がつかない状況に発展していく。真犯人は一体誰で、何のために、、 読み出したら止まらない、迫力満点短編ミステリー

カフェ・シュガーパインの事件簿

山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。 個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。 だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。

夜の動物園の異変 ~見えない来園者~

メイナ
ミステリー
夜の動物園で起こる不可解な事件。 飼育員・えまは「動物の声を聞く力」を持っていた。 ある夜、動物たちが一斉に怯え、こう囁いた—— 「そこに、"何か"がいる……。」 科学者・水原透子と共に、"見えざる来園者"の正体を探る。 これは幽霊なのか、それとも——?

処理中です...