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第13話 嘘《ダミー関数》

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 配信しよう。
 蜂人はちと邸を出て少し行った先のバス停のベンチに腰掛ける。
 バスの時間を確認するとしばらくバスは来ない
 腰かけていても迷惑にはならないだろう。

「たびたび、悪いな。何か分かったか」

 九美子とテレビ電話で繋ぐ。

「色々とね。出張はプログラム的にはダミー関数よ」
「偽物って事だろう」

【ば7:ワイドショーでこの事件やってた。木の扉に細工した密室トリックみたいだね】
【ハイレックス:こんにちは。九美子様のご尊顔を拝すことができて嬉しいです】
【ちくわ部:うんうん、分かる】
【もっちん:みんな下ネタは禁止な】
【勝手ソンソン:俺も気を付ける】
【女好き:[ブロックされました]】
【もっちん:こうなるから】

「ええ、彼がプログラマーで無くて良かったわ。プログラムならマクロ一つでダミー関数が全て消えるわ。しかもプログラムのソースの変更はほとんど無しで」
「手書きの手帳じゃ証拠隠滅は簡単ではないものな」
「ええ、燃やされなくて、ラッキーだったわね」

【勝手ソンソン:証拠隠滅か。プログラムでやられたら一瞬だな】
【女好き:[ブロックされました]】
【女好き:[ブロックされました]】
【女好き:[ブロックされました]】
【ば7:バッチ処理だっけ】
【ハイレックス:それよりブロックされた彼は、このままだとブロックより重い刑が下されるぞ】
【ちくわ部:ああ、配信も見れなくなる奴か】
【もっちん:そんなことにならないように気を付けよう】
【勝手ソンソン:扉の事を話し合おうぜ】
【もっちん:木の香りは、木を削ったんだよな】
【ば7:それだと警察がすぐに分かる。そこまで無能じゃないだろう】
【もっちん:警察の内部情報が手に入ればな】

 なるほど、木の香りは木を削ったのか。
 写真を確認する。
 削った痕跡はみてとれなかった。
 やっぱり芳香剤だよ。

 そんなことより、僕は奥さんの様子が気に掛かった。
 悲しみの度合いが低いような気がしたんだ。
 知り合いの奥さんは病気で旦那さんを失ったが、その悲しみ様は見てられなかった。
 旦那さんの話をすると1年経っても涙ぐむ様子が見られた。
 個人差があるから一概に言えないかも知れないが、少し引っ掛かる。

 正直に夫婦仲はどうでしたとか聞けない。
 それはあまりにも失礼だからだ。
 警察ならその辺は調べているんだろうな。
 近所に聞き込みとかして。

「なあ、痴情のもつれの線はあるのかな」
「可能性の一つとしてね。システムというのは色々な要因があって動いているものよ。互いに影響する事もあるわ。でも1つのバグの原因は1つ。原因が複数ある場合は、バグが2つよ」
「共犯がいたとしても、殺人をしたのは1人だものな」

【勝手ソンソン:女絡みか。事件の動機としてはありえるな】
【ば7:警察は調べていると思うよ】
【蟹鎌:ちっちっちっ、女絡みという推理はどうかな。会社の不正かも知れない】
【もっちん:こいつもブロックしないかな】
【勝手ソンソン:初男の性格としてやらないな】
【蟹鎌:ちっちっちっ、規制されてもそこから抜け出す方法はある】


 奥さんが犯人という説もあるかな。
 いやどうだろう。
 全てが怪しく見える。

「全てを疑うのよ。デバッグの基本だわ。そして経緯を観察。それと推察」
「経緯を観察ってどうやるんだ」
「条件を変えて流れを観察するの。そうすると見えてくるものがある」

【蟹鎌:ちっちっちっ、全てを疑うのは賛成だ】
【もっちん:こいつデレたか】
【勝手ソンソン:こういう面白そうな奴は、生暖かい目で観察しとこうぜ】
【ちくわ部:九美子様の魅力にやられたんだよ】
【蟹鎌:ちっちっちっ、美人だと思ったわけじゃないんだから】
【もっちん:やっぱりデレてるな】

 条件を変えるってどうやるんだ。
 流れを観察も分からない。

 時々、九美子が名探偵ではなくヘボ探偵に思えてくる。
 でもダイヤル錠は開けたよな。
 あれはそういう知識があれば開けられる。
 たまたま知っていたに違いない。

 ひょっとして九美子の推理は間違っている?
 でも、僕は何も分からないんだよな。
 九美子は密室の謎をつかんでいるみたいだし。
 とりあえず今は言う通りにしておこう。

「困りますな。こういう事をされちゃ」

 僕に話し掛けてきたのは刑事の団符だんぷだった。
 嫌な奴に見つかった。
 見ると車が停まってて覆面パトカーのようだった。
 蜂人はちと邸に出入りする人物を観察していると思われる。
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