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第7話 僕の動機《分岐条件》

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「この人は?」

 刑事らしき人が駐在さんに尋ねる。
 刑事さんは目立たないカーキ色のコートを着ている。
 とっても刑事さんらしい服装だ。
 髪は角刈りで四角い顔。
 柔道をやっていそうな体つきの良さ。
 きっと強いのだろう。

「第一発見者であります。害者の同僚だそうです」
「名前は?」
蘭崇らんすう初雄はつおです」

 尋ねられたので素直に答える。

「身分証明書はあるか?」

 免許証を取り出すと、ナンバーを手帳に控えられた。

「じゃあ、最初から話してくれるかな」

 雰囲気に反して優し気な刑事さんの声。

「課長から蜂人はちとが無断欠勤していると聞きまして、見に来たんです。扉が開かないので駐在さんを呼びました。それで中に入ったらああだったというわけです」
「課長の名前は?」
「総務部の琴慣ことなれ課長です」
「でここへはどういう足で?」
「ええと会社から電車に乗って千葉の蜂人はちとの自宅に行きました」
「さっきと違うじゃないか」

 刑事さんの声に怒気がこもる。
 違うと言われても、困るんだけど。
 そんなのが重要なのかな。

「署で詳しく喋ってもらうぞ」

 雲行きが怪しくなった。
 何かあるとスマホで写真を撮って、後で整理する癖をつけたけど、今回もそれが役に立ちそうな予感。

「会社に電話してもいいですか?」
「駄目だ」

 パトカーの後部座席に刑事さんが乗り込む。
 反対側のドアが四角い顔の刑事さんによって開けられた。

「どうぞ」

 大人しく乗る。
 続いて僕の隣に四角い顔の刑事さんが乗り込んだ。
 僕は後部座席で刑事さんに挟まれた格好だ。
 なんだか雲行きがそうとうおかしい。
 参ったな。
 容疑者になってしまったのだろうか。

「出してくれ」

 四角い顔の刑事さんがそういうと、パトカーは走り出した。
 サイレンは鳴らさない。
 自然豊かな道をパトカーは行く。
 観光だったらどんなに良かったか。
 でも、初めてパトカーに乗ったな。

 刑事さんは何も喋らない。
 空気が重い。

 犯人像を考えてみる。
 僕を陥れる事が出来たのは課長だ。
 課長の犯人はちょっとあり得るかも。

 でもみんなの見ている前で蜂人はちとの様子を見に行ってくれと頼んでた。
 濡れ衣を着せるつもりなら、二人だけで会って頼むはずだ。
 もっとも、僕に頼まなかったと白を切ってもすぐにボロが出そうだ。
 僕の推理なんてこんなものだ。
 向いていない事は分かっている。

 警察が僕を疑うのは第一発見者という他に理由がある。
 それはさっきまでやってた配信だ。
 ちかごろの配信は人気を得るために何でもやるという馬鹿な奴が多い。
 法律すれすれをやる奴はたくさんいる。
 そして、中には法を犯す奴も。

 つい最近も、火事の動画を撮影してた奴がいて、こいつが火事の放火犯だった。
 僕が犯人だとすると動機は動画配信で目立ちたかった。
 あり得る動機だ。

 車は市街地へと入っていった。
 そろそろ着くかな。

 課長の所にも警察は行っているだろうな。
 課長が怪しければ、捕まえるはずだ。
 僕は日本の警察は優秀だと思っている。
 世界一だと言っても良いと。

 だけど当事者になると色々な事が頭を巡る。

 警察署らしき建物が見えた。
 交通標語がでかでかと掲げられている。
 車はその駐車場に入った。

 四角い顔の刑事が先に降りて、ドアが開けられる。

「降りろ」

 僕が降りるとすかさず両脇に刑事が張り付いた。
 さっきの犯人扱いされたという書き込みそれが脳裏をかすめる。

 警察署に着くと、すぐに取調室に入れられた。
 取調室は灰色の机と椅子があるだけの殺風景な部屋。
 壁に向かって記録を取る刑事さんと、対面に四角い顔の刑事さんが座った。

 記録を取る刑事さんが、ブラインドを下ろす。
 シャっと音がして、部屋が暗くなった。
 暗雲立ち込めるって感じかな。

 傘が丸いデスクスタンドが机の上に置いてある。
 それのスイッチが入れられた。
 あれを顔に近づけて、いいから吐けと言われるんだろうか。

 完全に容疑者扱いだ。
 無罪放免になるだろうか。
 裁判になったら、冤罪だと訴えたら、勝てるかな。
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