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第5章 アンデッドでざまぁ

第237話 おっさん、やりたい事を教える

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「何だ」
「ご命令をどうぞ」

「そうだ、腹減ったろ。今、カップラーメンを作ってやる」

 ムハナは人前には出せない。
 ご命令をどうぞなんて人前で言われた日には、元奴隷なのがまる分かりだ。

「どうした。三分経ったぞ」
「ご命令をどうぞ」
「命令だ、食え」
「はい」

 心なしかムハナが嬉しそうだ。
 匂いを嗅いで食いたくって仕方なかったのだろう。
 カップラーメンの匂いは暴力的だからな。
 いかにも美味そうな匂いだ。

 食べ終わって、ムハナがまたこちらを見つめる。
 なんとなく居心地悪い。

「ご命令をどうぞ」
「今のところ命令はない」
「ご、ご命令をどうぞ」

 ムハナの顔が真っ赤で必死な感じだ。
 何だ。
 何が起こった。
 このもじもじ具合は、まるで幼稚園児が漏らしそう。
 不味い。

「命令だ、トイレで用を足して来い」
「はい」

 ムハナは物凄い勢いで部屋を出て行った。
 うはぁ、こんなに手間のかかる奴隷のどこが良いのやら。
 俺なら何も言わなくてもやってくれる万能AIみたいな奴隷が良い。

 ムハナが戻ってきた。

「命令だ、トイレに行きたくなったら教えろ」
「はい」

 一日、俺の忍耐が持つかな。
 そうだ。

「命令だ、やりたい事ができたら言え」
「やりたい事はありません。ご命令をどうぞ」

 手ごわいな。
 どうやったら、このロボットみたいな少女に、自我を持たせられるんだ。
 俺は心理学者じゃないぞ。

 助けてよ、ジャスミン、アニータ。
 二人とも任務は当分しないと言って休暇中だ。

 イリスにムハナを返したい。
 仕方ないショック療法するか。

 俺はフード付きの衣類を着せてムハナを市場に連れて行った。
 串焼きに目が行くムハナ。
 食いたいんだな。

「これはお金だ。物と交換できる」
「覚えました」
「買いたい物があったら、買って良いぞ」

 そう言って俺は銀貨を握らせた。

「買いたい物はありません。ご命令をどうぞ」
「ちょっとちょっと、ご命令をどうぞは禁止な。いかがしましょうかにしろ」
「はい、いかがしましょうか」
「串肉を買って食え」

「串肉3本」
「あいよ。お釣りだ」
「いががしましょうか」
「お釣りは取っておけ」
「はい」

 串肉をぱくつきながら、俺の後を歩くムハナ。
 3本買えとは言わなかったが、3本を選択したという事は、自我がない訳ではない。
 選択する事に慣れてないのだな。

「ここで行動できる事を言ってみろ」
「歩く、話をする、歌う、買い物をする」
「その中の何が一番やりたいか考えろ」

「いかがしましょうか」
「じゃ、好きな行動から優先順位をつけろ」
「歌う、買い物する、話をする、歩く」
「じゃ歌え」

「♪~♪~」
「それがやりたい事をするという事だ。出来る事に優先順位をつけてやりたい事をやる」
「はい」
「やりたい事をしろ」

 ムハナは喉が渇いたのかジュースを買って飲んだ。
 少しは行動できるようになったな。
 そしてまた歌いだした。

「うるさいぞ。商売の邪魔だ」
「すいません。ムハナ、歌を止めろ」
「はい」

「レッスン2だ。好きな事をやると迷惑になる事がある。迷惑になったら謝るんだ。そして、何が悪かったか考えろ」
「すいません」

 ムハナは店主に向かって綺麗なお辞儀をした。

「良いって事よ。次から気を付けてくれりゃあよ」

 ムハナを連れて俺の露店に行った。

「この子には好きなだけクッキーを食べさせてやってくれ」
「店長いいんですか」
「顔パスだ。身内だからな」

「はい、クッキー」

 ムハナは何も言わずにクッキーを受け取ると口に入れた。
 目が丸くなり。
 そして、おねだりする表情になった。

「御替わりをどうぞ」
「レッスン3。物を貰った時はありがとうだ」
「ありがとう」

 そう言ってムハナは微笑んだ。
 少し人間らしくなったかな。
 また、ムハナがおねだりする顔をする。

「レッスン4。欲しい時は下さいと言うんだ」
「下さい」
「どうぞ」

 頭は悪くなさそうだから、教えがいはあるが。
 これは先が長いぞ。
 一日で矯正するなんて無理だ。
 だが、出来る限りはしてやりたい。

「いかがしましょうか」

 首筋を見せるムハナ。
 俺は血の渇きを覚えた。
 ブラッドソーセージを食って渇きを抑えた。

「なんでそう思った」
「欲しそうだったから、違いましたか」

「いや良いんだ。今度そう思ったら、俺は腹が減ってるんだと思ってくれ」
「はい」

 ヴァンパイヤである事がムハナにばれそうだ。
 主人の顔色を窺って生きてきたから、察知したのだな。
 危ない危ない。
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