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第3章 分解スキルでざまぁ編

第144話 おっさん、何気ない日を過ごす

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 親方と過ごした始まりの街に帰って来た。
 工房に行くと修理をしている音がする。
 ドアを開け。

「親方!」

 と俺は叫んだ。

「前の親方なら亡くなりました」

 親方とは別の職人がそこには居た。
 そうだよ。
 生き返る訳がない。

 俺の後ろに人が立った。

「あんたは親方の葬儀を出した人だったかな」
「ああ、よく銃弾を買いに来た人か。覚えているよ」
「立ち話もなんだ。一杯ひっかけねぇか」
「そうだな」

 男と昼の酒場に入る。

「エールを二つ。つまみは適当に」
「話が何かあるのか」
「やけにしょんぼりしたふうだったからさ」
「そうか気を使わせたな」

「親方がやっていた工房だけどな。近々売りに出される」
「儲からないのか」
「事故物件なんで誰も嫌がる。今いる職人も出ていく予定だ」
「そうか。じゃ俺が買ってみようかな」

「親方を知っているあんたなら、しっくりくる」
「そう言って貰えると嬉しいよ」

 俺は親方の工房を引き継ぐ事にした。
 親方の墓石の前で手を合わせる。

「俺が工房を引き継いでも良いだろうか」

 風が木の葉を揺らした。
 なんとなく承諾してもらった気がした。

「仇は討ったよ。親方は喜ばないかも知れないが、ケリはつけた」

 ヴィスを埋葬してやらないとな。
 仇がこの街に眠ってたら、親方がゆっくり休めないだろう。
 俺は隣街に行ってヴィスを葬った。

「親方、時計を修理してくれ」

 買い取った工房に客が来た。

「せっかく来てもらって悪いな。分解は出来るんだが、修理は出来ない。それに俺は親方じゃない。おっちゃんとでも呼んでくれ」
「ちっ、無駄足かよ」
「時計なら新品を売ってやる」

 俺は100均の時計を出してやった。

「こいつは小さくて良さそうだ。いくらだい」
「そうさな。銀貨1枚かな」
「安いねぇ」

「そうだが。これは魔力駆動でもゼンマイでもない。電池ってのを入れると動く」
「なるほどね」
「電池は銅貨1枚で売ってやる」
「そんな安くていいのかい」
「良いんだよ。道楽だから。壊れた時計は俺が修理に出しておいてやる。こっちもマージンは取らないから安心しな」
「そうかい。じゃこの銀貨1枚の時計をしばらく使ってみるよ」
「おう、そうしてくれ」

 しばらくして別の客がくる。

「頼んでた弾丸は出来てるかい」
「ああ、出来てるよ。俺の作った物じゃないけどな」
「しかし、何だね。あんた人に仕事を回してなんの得があるんだい」
「それね。道具を売り込むんだよ。例えばこのノギス、見ない道具だろ。筒の直径が分かる」

「ほう、こりゃ便利だ。それは俺にも売って貰えるのか」
「ああ、銀貨1枚だ」
「ほら、銀貨1枚。なるほどね、こうやって弾丸の直径を測ると。おお、ぴったりだ。弾丸のジャムっちまう事が減ったがこんな道具が流行ってるのか。納得だね」
「道具が良くなりゃ。職人の腕も上がるってものだ」

 客は去り、また別の客が来たようだ。

「バイクを修理する間。代車を出してくれるって聞いたよ」
「おう、液体の燃料で走るバイクだけどな」
「走れりゃなんでもいいさ。急ぎ隣街まで荷物を届けなきゃならん」
「裏に停めてあるから好きのを選んでいいぞ」

 工房の裏に回った。

「ほう、こいつは選り取り見取りだな。ところでガラクタを修理に持ち込んで、代車をかっぱらう奴もいるんじゃないか」
「このバイクは特殊な燃料でしか走らないから、燃料が切れるとガラクタさ。ガラクタを持ち込んで、ガラクタを得たんじゃ手間賃にもならない」
「そりゃそうだ」
「道楽でやっているが、間抜けじゃねえさ」
「そんなもんだよな」

 親方、こんな工房で良かったのかな。
 修理仕事はよそに回して、俺は斡旋するだけだ。
 だが、何となくこの世界で工房をやっているのが、親方に対する供養なような気がした。

「港町ライニーアから、醤油とマヨネーズの注文が来たよ」

 ギルドの職員見習いが伝言を届けにきた。

「おう、ありがと。走って汗をかいたろう。サイダーでも飲んでいきな」
「これこれ、これがあるから辞められない。銅貨10枚のお使いなんてろくなものじゃないけど、サイダーがあれば話は違う」

 調味料の注文がギルド経由で入っている。
 梱包して送らないと。
 こんな感じでベティナの一日は終わって行く。
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