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第173話 ネタ被り

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 今日は冒険者バトル。
 ちょっと力を入れると吹っ飛ぶんだよな。
 怪我させたりしてないのに失格は酷い。

 今回は何か分からない力で勝つというシナリオ。

「両者構えて、始め」

 俺は見えない速度で対戦者のベルトを斬った。

「念力でベルトを斬った。降参しろ」

 対戦相手はズボンが落ちてあっけに取られている。

「両者、八百長により失格」

 えー。

【そりゃ、何もしないのにズボンが落ちたら八百長だろう】
【うん、念力なら金縛りにしてみろよ】
【ベルトに切れ込みを入れてセロテープで張り付けたとみた】
【審判の目は誤魔化せない】

 もういいや。
 ランクなんぞ上がらなくても。
 実はちょっと悔しい。
 最下級ランクってのが、人間扱いされてないようで嫌だ。

 小学生でランクアップした奴がいるんだぞ。
 新聞に載ってた。
 空手やってるとか。
 くっ、小学生に負けるとは。
 考えないでおこう。

 ファントムの出番にはまだ時間がある。
 俺は冒険者バトルを見物した。

 ピキュンと音が。
 石舞台に何か礫みたいな物が飛んできた。
 遅れて銃声が。
 狙撃か。
 前にもあったぞ。
 ネタ被りはご法度なんだが。

 俺は素早く動くと、続いて発射された弾丸を掴み取った。
 民衆は気づいてない。
 モチをを呼んで犯人を逮捕させに向かわせる。

 狙われた冒険者は気づいてないようだ。

「お前、狙われているぞ。振り向くな」

 後ろから声を掛けて、何となく恰好つけた。

「もしかしてあれか」
「あれとは」
「パラサイトウルフを使って襲撃事件を起こすと話しているのを聞いてしまった。ただ、この会場で会話が少し聞こえただけなんだ。辺りを見回したが誰だか分からなかった。この人混みだろう」
「そうか」

 俺は素早く動いて去った。

「あれっ」

 冒険者がキョロキョロと辺りを見回す。
 何となく良い演出だ。

「魔王の動きをキャッチした。パラサイトウルフを使って襲撃事件を起こすようだ。気をつけたし」

 ファントムで配信する。

【おう、気をつける】
【情報ありがと、続報があったら頼む】
【魔王がいるんだな。都市伝説だと思ってた】
【フレンドリーモンスターを守る会との繋がりは?】
【直接は言及してないな】

 さあ、ファントム強奪戦だ。
 今回の技は幻影魔法でバールを分裂させたように見せる。

 グレートディビジョンだ。

「両者構えて。始め」

「グレートディビジョン」
「くっ、早すぎて分裂してるように見える」

 見えるんじゃなくて分裂してるから。
 いや、物凄く速く動かせられるよ。
 でもそのスピードで殴ったら死んじゃう。

 コチっな。
 対戦相手は軽い一撃を食らって倒れた。
 脳挫傷とかではないことを祈る。
 回復魔法も掛けとくか。

「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0。ダウンにより、澄水とうすいの勝ち」

 片腕を上げて歓声に応える。
 決勝まで簡単に進んだ。

「両者構えて。始め」

「グレートディビジョン」
「無駄だ。幻影魔法だと分かってる」

 レジストしたということはそれなりになるな。

「エクストラゴッドグレートディビジョン」

 じゃあ、寸止め。
 物凄い速さで寸止めする。
 いくつか攻撃が掠る。

 対戦相手は木の葉のように宙を舞った。
 頭が揺さぶられたようだ。
 ドサっと落ちて起き上がれない。

「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0。ダウンにより、澄水とうすいの勝ち」

 三行半規管だったか、あれを鍛えておくんだな。

「防衛、6.5回おめでとうございます」

 インタビュアーにマイクを向けられた。

「ありがとう」
「ええと最後の決め技の名前は?」
「エレクトラスーパーグレートディビジョンだ」
「何か違うような」
「些細な事だ」

「ですね。分裂する打撃。相手は手も足も出ませんでした」
「三行半規管を鍛えてないからだ」
「三半規管ですよね。もしかして場をなごませようとしてますか」
「まあそうだな。闇の勢力が蠢いている。くれぐれも気をつけるのだ」
「見事、防衛を果たしたファントムさんでした」
「サンキュー。さらばだ」

 駆け足でその場を後にしたのは間違えたのが恥ずかしかった訳ではない。
 無いったら無い。
 それにしても、パラサイトウルフを使っての襲撃が気になる。
 どんな手だろう。
 突きとめられたらいいのだが、俺って頭が悪いから分からん。
 こういう謎解きは他の人に任せよう。
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