上 下
61 / 168

第61話 終わりと新たな始まり

しおりを挟む
 いよいよ、総理大臣に署名を手渡す日。
 記者に囲まれ俺は少し緊張した。
 だが恥をかいたって命までは取られない。

「よろしくお願いします」

 署名を総理大臣に手渡した。
 盛大にフラッシュが焚かれる。

「前向きに検討することを約束しよう」

 知ってる、検討しようは何もしてくれないってな。
 ところが数時間後、テレビで緊急記者会見が開かれて、コボルトとケットシーを難民として認めると総理大臣から発表があった。
 なんで?
 総理大臣の後ろが映されて何となく分かった。
 わらび権蔵ごんぞう議員のニコニコした顔が映っている。

 動いたんだな。
 いいや署名を手渡すという場を作った時から決まっていたのかな。

 コボルトとケットシーに保険証や色々なカードが配布された。
 どんな場面で使うのかいまいち分からない。
 保険証だけは分かる。
 マイナンバーカードも分かるけどな。

【コボルトとケットシーの難民認定が通って良かった】
【おめでと】
【普通の難民認定とは違う。動物に通ったような物だぞ】
【それは彼らに失礼だ】
【そうだ、言葉を話せるという時点でもはや人】
【人も動物だけどな】
【おめ】
【おっさんが泣いている】
【ほんとだ】

「だってよう。彼らが人として認められたんだぜ。うれしいじゃないか。これを喜ばずに何を喜べばいい」

【お祝いに何かやらないの?】

 お祝いか。
 花火かな。
 それだけだと寂しいな。

 何が良いだろう。

「同胞を助けてもらいたいにゃ」
「あ、モチ」
「この間助けたケットシーとコボルトがいたにゃ。彼ら以外にもダンジョンに捕らわれているにゃん。助けてほしいにゃ」

 お祝い気分がなくなった。
 まだ苦難にあえぐコボルトとケットシーがいるんだな。
 助けてやらないと。

「すぐにでも他のダンジョンに行きたそうね」
弥衣やえ
「焦っても仕方ないわ。RTAするにも、マップが分かってないと。余裕がないときっと失敗するわ」
「そうだな。俺が倒れたら、コボルトとケットシーは解放されない。今は祝うべきだな。弥衣やえ、難民認定のお祝いは何が良いと思う」
「遊園地を貸し切りましょう。チャンネル登録してくれた人はもれなく招待するのよ。それとお世話になった人ね」
「よし、やろう」

 遊園地なら花火の手配もしてくれるはず。
 1週間後、難民認定祝賀会、及びオフ会が開かれた。
 ちなみに遊園地貸し切りは1000万ちょっとでできた。

浦和うらわ吹上ふきあげ、エリクサーだ。飲め」

 1本しか出なかったのでもう1本は俺が買った。

「ありがとう」
「やっと辛い日々が報われる」

 エリクサーを飲んだ二人は元の若さを取り戻した。

「一万回ローンな。毎月1万だから」
「はい」
「うっ、涙が」

【834年ローンは草】
【オフ会、仕事で行けなかった】
【平日だからしゃあない。俺もだ】
【おっさん、キナコとモチとヤエちゃんにもカメラつけたんだな】
【ライブ配信が4つあってビビった】
【おっさんの顔が見たい人はヤエライブ。高確率でおっさんの方を見てる】
【コボルトとケットシーが見たい方はキナコライブとモチライブ。常にコボルトとケットシーに囲まれている】

 俺は鏡で自分の顔を見た。
 若いままだ。
 元に戻っても良かったんだがな。

 童心に帰って弥衣やえと遊園地を楽しむ。
 そして、やがて夕方になった。
 遊園地の電飾が綺麗だ。

 花火が上がり始める。
 弥衣やえが俺と向き合った。
 そして目を閉じた。
 俺は弥衣やえを抱き寄せ、ごほんごほん。
 むせた。
 総理大臣の時はこれほど緊張しなかった。
 気を取り直して、俺は弥衣やえの唇に自分の唇を重ねた。
 そして花火が終わる。

 俺達は離れた。

「今までありがとう、そしてこれからもよろしく」
「うん、末永くお願いします」

 カメラのスイッチを入れた。
 スマホでコメントを見る。

【キスシーンみたよ】
【むせてたのはちょっと格好悪い。でも初々しい】
【こっちまで赤くなった】
【キーッ、羨ましい】

 えっ、見てたの。
 周りを見ると、モチの笑っている姿が。
 この野郎やりやがったな。

「この悪戯猫、尻尾逆なでの刑にしてやる」
「わー、助けてにゃん。キナコ、笑ってないで助けるにゃん」
「自業自得だわん」

 最後、ちょっと締まらなかったが、こういう日があってもいいだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

リフォーム分譲ダンジョン~庭にダンジョンができたので、スキルを使い改装して、分譲販売することにした。あらぬ罪を着せてた奴らにざまぁしてやる~

喰寝丸太
ファンタジー
俺はソフトウェア開発会社の社員だった。 外注費を架空計上して横領した罪に問われ会社を追われた。 不幸は続く。 仲の良かった伯父さんが亡くなった。 遺産が転がり込むかと思われたら、貰った家の庭にダンジョンができて不良物件に。 この世界は10年前からダンジョンに悩まされていた。 ダンジョンができるのは良く聞く話。 ダンジョンは放っておくとスタンピードを起こし、大量のモンスターを吐き出す。 防ぐ手段は間引きすることだけ。 ダンジョンの所有者にはダンジョンを管理する義務が発生しますとのこと。 そして、スタンピードが起きた時の損害賠償は所有者である俺にくるらしい。 ダンジョンの権利は放棄できないようになっているらしい。 泣く泣く自腹で冒険者を雇い、討伐する事にした。 俺が持っているスキルのリフォームはダンジョンにも有効らしい。 俺はダンジョンをリフォーム、分譲して売り出すことにした。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

身バレしないように奴隷少女を買ってダンジョン配信させるが全部バレて俺がバズる

ぐうのすけ
ファンタジー
呪いを受けて冒険者を休業した俺は閃いた。 安い少女奴隷を購入し冒険者としてダンジョンに送り込みその様子を配信する。 そう、数年で美女になるであろう奴隷は配信で人気が出るはずだ。 もしそうならなくともダンジョンで魔物を狩らせれば稼ぎになる。 俺は偽装の仮面を持っている。 この魔道具があれば顔の認識を阻害し更に女の声に変える事が出来る。 身バレ対策しつつ収入を得られる。 だが現実は違った。 「ご主人様は男の人の匂いがします」 「こいつ面倒見良すぎじゃねwwwお母さんかよwwww」 俺の性別がバレ、身バレし、更には俺が金に困っていない事もバレて元英雄な事もバレた。 面倒見が良いためお母さんと呼ばれてネタにされるようになった。 おかしい、俺はそこまで配信していないのに奴隷より登録者数が伸びている。 思っていたのと違う! 俺の計画は破綻しバズっていく。

底辺ダンチューバーさん、お嬢様系アイドル配信者を助けたら大バズりしてしまう ~人類未踏の最難関ダンジョンも楽々攻略しちゃいます〜

サイダーボウイ
ファンタジー
日常にダンジョンが溶け込んで15年。 冥層を目指すガチ勢は消え去り、浅層階を周回しながらスパチャで小銭を稼ぐダンチューバーがトレンドとなった現在。 ひとりの新人配信者が注目されつつあった。

元探索者のおじいちゃん〜孫にせがまれてダンジョン配信を始めたんじゃが、軟弱な若造を叱りつけたらバズりおったわい〜

伊藤ほほほ
ファンタジー
夏休み。それは、最愛の孫『麻奈』がやって来る至福の期間。 麻奈は小学二年生。ダンジョン配信なるものがクラスで流行っているらしい。 探索者がモンスターを倒す様子を見て盛り上がるのだとか。 「おじいちゃん、元探索者なんでしょ? ダンジョン配信してよ!」 孫にせがまれては断れない。元探索者の『工藤源二』は、三十年ぶりにダンジョンへと向かう。 「これがスライムの倒し方じゃ!」 現在の常識とは異なる源二のダンジョン攻略が、探索者業界に革命を巻き起こす。 たまたま出会った迷惑系配信者への説教が注目を集め、 インターネット掲示板が源二の話題で持ちきりになる。 自由奔放なおじいちゃんらしい人柄もあってか、様々な要因が積み重なり、チャンネル登録者数が初日で七万人を超えるほどの人気配信者となってしまう。 世間を騒がせるほどにバズってしまうのだった。 今日も源二は愛車の軽トラックを走らせ、ダンジョンへと向かう。

異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕 タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】 3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!

処理中です...