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第4話 鉄鉱石、1キロ10円

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 家に帰ってからまずしたのはヤエちゃんに電話したことだ。

「もしもし、スマホの音が止まらない。助けて」
『はいはい、どんな馬鹿をやったの』
「ええとガラスのドラゴンが現れたから、ぶっ叩いて粉々にした」
『弁償を要求されているとか』
「それはないはず。貸し一つで手を打ってもらった」
『書面を取られたの』
「いいや」
『なら大丈夫。で音が鳴りやまないんだって』
「うん、チャンネル登録者数が増えているらしいんだけど」
『分かった。手順をメールで送るから。それに学校も終わりだから、家に行くわ』

 しばらく経ってヤエちゃんが現れた。
 彼女は指扇さしおうぎ弥衣やえ
 ぴちぴちの女子高生だ。

 出会いは3年前の路地裏だった。
 彼女が不良に絡まれていたので助けたのが、切っ掛け。
 こんなおっさんに良くしてくれるのは嬉しいけど、畏れ多い気もする。

「いらっしゃい。大変なんだよ」
「いま見るから。登録者数が10278人。たいへん。広告収入登録しないと」

 色々な手続きを彼女がしてくれた。

「これ今日のカメラのデータ」
「さてさて、どんなことをやらかしたのか」

 動画を見るヤエちゃんの表情が真剣な物に変わった。
 そしてなぜか笠幡かさはたさんの出現で彼女の顔は一層険しくなった。

「連絡先交換したのよね。さあ彼女に電話掛けて」

 俺が電話を掛けたところ奪うようにスマホを取られた。

「もしもし、わたくし埼京さいきょうの交渉役の指扇さしおうぎと申します。今後は埼京さいきょうとの話は全部私を通して下さい。後程私の電話番号をメールで送ります。では失礼します」

「交渉役やってくれるの助かったよ。俺馬鹿だから騙されたりするかもって不安だった」
「これから彼女との交渉は私がするから、心配しないで。あなたからは絶対に電話しないこと。ややこしそうな話だったら私に振っていいから」

 これで安心して鉄鉱石掘りができる。
 俺は庭に出てダンジョンに入った。
 スライムがうようよいるのが見て取れた。
 配信スタート。
 カメラのスイッチを入れる。

「前回はイレギュラーハウンドだったけど今日はいつものように配信するよ」
【イレギュラーハウンド? もしかしてバウンド】
【イレギュラーな犬強そう】
【おっさんギャグだぁ】
【しょうもないギャグ言うなや。寒いんや。さぶイボ立ってきたやん】

 しょうもない言い間違いが受けてる。

「まずはスライムを倒すよ」

 俺はスライムに近寄ると持ってきた鉄パイプで滅多打ちにした。
 1000回ぐらい叩くとスライムドロリと溶けて死んだ。

【おっさん、よわっ。はっきりわかった。ドラゴンはまぐれ】
【かもね。石の壊れるポイント説採用】
【でもあれでだいぶレベルは上がったはず】
【レベルが上がってもこれなら、絶望的。才能がない】
【失望しました】
【スライムに30回攻撃はないな】

 30回?
 連打の打ち下ろしがとらえきれなかったのか。
 スマホでライブ配信の映像を出して、少し過去に戻す。
 ああ、たしかに30回しか打ってないな。

 何のせいだろうか。
 だが、別に良いや。
 支障はない。

 スライムの魔石と核は粉々になっている。
 いつものことだ。

 採取ポイントに到着。
 鉄ノミとハンマーで鉄鉱石を掘り出す。
 鉄鉱石をずた袋に入れた。
 大体10キロぐらいかな。
 一回の採取でこれは十分だ。
 これを1日に20回やるのが日課だ。

 採取ポイントは不思議なことに時間が経つと復活する。
 何か意味があるのかも知れないが、俺には関係ないさ。

 冒険者協会に行こう。
 自転車のかごに鉄鉱石を入れて漕ぎ出す。

 協会には10分ほどで着いた。

 窓口に行き、いつものように鉄鉱石をカウンターに載せる。

「換金を頼む」
「いつもの奴ですね。ええと今日のレートはキロ10.1円で、98円になります」
「ありがと」

【一回の上りが98円かよ。とんだ底辺だな】
【ていへんだ、ていへんだ、親分底辺だ】
【これはない。前回の討伐はなんだったのか】
【フロックっというやつだよ。ビギナーズラックとも言う】

 チャンネルを見ると登録者数が5千人台にまで落ち込んでいた。
 平常運転に戻るのだろうな。
 生きる希望が減っていく気がする。
 やっと目立ったのに。
 鉄鉱石掘りをなんども繰り返す。

 チャンネル登録者数が3千人台にまで落ち込んでいた。
 こういうのを一発屋というのだろうか。
 さらに落ち込む。

「今回のライブ配信は終り」
【ここまで酷い討伐映像があっただろうか】
【ないと思う】
【これは逆に新しい】

 失望のコメントで埋め尽くされた。
 やっぱり俺は駄目なんだ。

 もともと配信を始めたのはリサイクルショップで100円の中古カメラが売られてたからだ。
 それが哀愁を誘うというか、バイトを首になった俺と重なった。
 なので配信を始めた。

 配信を始めるまでの事を簡単に話すと、中学生の時に両親が交通事故で死んだ。
 保険金は1000万あったが、こんなのでは足りない。
 バイトしながら、学校に通ったが。
 寝てばかりいたので、頭は良くなかったのがさらに悪くなった。

 高校を卒業してバイトしていたら、庭にダンジョンができた。
 そして、バイトを首になったので、冒険者になることにした。
 うちのダンジョンは鉄鉱石がよく採れる。
 というかそれ以外採れない。
 キロ10円の稼ぎで今まで生きてきた。
 そして現在に至るというわけだ。

 鉄鉱石を掘る毎日は張り合いもなく生きる希望も湧かない。
 せめてCランクモンスターのオークが倒せればな。
 俺には無理な話だ。
 詰まらない話だろう。
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