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最終章 勇者編

最終話

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 ソリュート村はあの封印された超越者の近くにあった。
 とても貧しい感じの寒村だ。
 俺はまず変形スキルで土を盛り上げ村の周りに壁を作った。

 それからしばらく経ち、マリリは家の一つを本店として商会を営んでいる。
 ゴーレム騎士団の面々は交易に精をだし、品物を運んだ。
 魔獣が頻繁に現れるので魔石には不自由しない。
 昼間は魔獣狩りを、夜は簡易魔道具を作っていた。
 奴隷兵の治療の為に人が送られてくる以外は来客はない。
 村の外へ一歩も出るなとは言われたが、見張りはいないので無視している。

「大変だ」

 ティルダが駆け込んで来た。

「どうしたの」
「将軍、魔王が現れたって、魔獣の軍隊を操ってもう幾つか国が陥落した」
「ティルダ詳しく話せ」

 俺はがそう言うとティルダは団員が淹れたお茶を飲んでから話し始めた。

「今のところ正体は不明。降伏を迫る文面が送られて来て拒否した所はみんな負けた」
「圧政をしいているのか」
「税金はゼロだけど、魔獣討伐禁止法がね」
「それはつらいな。商人が物を運べない」
「そうなんだよ。食料が足りなくなって餓死寸前の所もある」
「それは、許せないな。俺は魔王を退治しに行こうと思う」
「ゴーレム騎士団も全員で出撃するわ」

 魔王がいる場所は判明している。
 最初に降伏を拒否した国の城だ。

 輸送機をフルに活用してゴーレム騎士団を魔王の国に集めた。
 そして、魔王城に俺達は攻め込んだ。
 城の前で隊列を組む魔獣たち。
 二千人近くいるゴーレム騎士団でも全滅させるのは無理だな。



「フィル、ここは任せて、先に行って」
「マリリさん、お言葉に甘えて行くよ」

 俺は装甲車に乗り込んだ。
 魔獣をはね飛ばしながら、扉に辿り着き。
 魔力ゴーレムの爆発をかました。

 扉が壊れ装甲車ごと中に踏み込んだ。
 中はがらんとして魔獣の影もなかった。
 中央に大きい玉座があり、そこには胴回りが30センツほどの翼ある蛇の魔獣が座っていた。
 ライタの知識だと翼のある蛇は神様だ。

「何? 僕と遊びたいの」

 拍子抜けだな。
 魔王というから、もっと厳つい声をイメージしていた。
 なんか幼子と話している気分だ。

「話し合いたい。この通り武器も持ってない」

 俺は両手を挙げ更に魔獣に近づく。
 魔力ゴーレムは出したままだ。
 視線が魔力ゴーレムに行ってないという事は見えてない。

「今は暇だから、お話しても良いよ」
「まずはこの場所にいる目的を話して欲しい」
「ええっとねえ。僕は居たいからここに居る」

 なんだ初っ端からつまづいたな。答えになってない。
 それと返答の内容が少し子供っぽいような気がする。

「あなたはどのような存在なのですか?」
「僕は偉いんだぞ。唯一不二ゆいいつふになんだぞ」

 それを言うなら唯一無二だろう。
 なんか頭があまり良くないのかな。
 神様説が少し揺らいだな。

「使命とかがあるのですか」
「それは……いちいちうるさい奴だな」

 急に切れたぞ。

「どうしたら魔獣の侵攻をやめてくれますか?」
「僕に指図するな。もう飽きた。お前どっかに行っちゃえ」

 魔力視で魔獣を見るとなんと魔獣の体全体が魔力だ。
 風の塊を撃ってきたので飛びのいてかわす。

「むかーお前嫌い」

 巨大な火の玉を頭上に浮かべている。
 ピンチだしょうがない。
 魔力ゴーレムを魔獣に近寄らせ自爆させる。
 やったか。

「やったな。僕、完全に怒ったぞ」

 まさかのノーダーメージか。

「そこまだ」

 超越者が出てきた。

「えーもっと遊びたいよー」
「駄目だ。1592号よ」

「この魔獣はなんだ」
「1592号は分かりやすい言葉で言うと修正プログラムだ。今この星では魔力の発生に不具合が生じている。それを修正するために作ったのだが逃げられた」

 プログラムというと機械だな。
 機械に善悪を求めてもしょうがない。
 とうしたものだろう。

「また逃げ出すのではないですか」
「その可能性もある」

 俺は許してやる事にした。

「よし、1592号。仕事を終えたら思いっきり遊んでやる」
「ほんと、仕事は何百年も掛かるんだよ」
「俺の子孫が絶対に約束を果たす」
「なら仕事する」

 超越者が手を振ると1592号が消えた。
 これでこの星の魔獣の異常発生は元通りだろう。

「戦場での約束を果たしてもらおう」
「いいよ、何をやればいい」
「その前に1592号の事、ありがとう。これで真面目に仕事に取り組むだろう」
「それと帳消しって訳にはいかないよな」
「そうだな。約束は子孫に並列システムを受け継がせるのと魔力視を受け継いでもらう」
「そんな事でいいのか」
「この二つのスキルは危険だ。受け継ぐにはスキルにのまれないようにする必要がある」
「子孫に呪いみたいなスキルを残すのは気が引ける。少し考えさせてくれ」


 魔王城の外に出ると魔獣の隊列はなくなっており、魔獣の大半は逃げ出している。
 良かった。見たところゴーレム騎士団は無事だ。

「マリリさん、被害は」
「重傷の団員はいないわ」
「良かった」
「これで、フィルは勇者だわ。どんどん遠くに行っちゃうのね」

「勇者か。大した事はしてない気がする」
「貴様は謙虚だな。大勢を救ったのだから胸を張れ」

「そうよ、フィルは勇者」
「ティルダまで持ち上げなくても」

「なんだが、顔色がさえないけど」
「マリリさん、気がかりが一つあるんだ。呪いを子孫に残さなくちゃいけない」
「そう魔王に呪いを掛けられたのね」
「そんな感じだ」
「背負わなくしてはならないのなら、みんなで背負えばいいわ」
「貴様には私もいる」
「私も」「私も」「私も」「私も」「私も」「私も」「私も」

 ゴーレム騎士団の面々も口をそろえて俺を励ました。

『俺を忘れてはこまる。俺が背負ってやるよ』
「そうか、ライタも背負ってくれるのか。超越者、呪いをかけろ」
『ちょっと待ったぁ、並列システムには俺の記憶を継承させる。それを先に植えつけて、魔力視は成人になったら発現させたらどうか』

 それなら、世界が感じられるほど情報が入ってきても、並列システムでしのげる。
 でも。

「それだとライタは永遠に生き続けるけど、いいの。永遠はつらいよ」
『いいんだ、決めた』

「超越者、ライタはこう言っているけどできるか」
『よろしい、そうしよう』
「具体的には何をすればいいんだ」
『もう、遺伝子改造は終わった』
「そうか、これで全て片付いたのだな」

 俺は魔王を退治した勇者になっていた。
 村から出た罰は下されないらしい。
 それどころか禁足も解かれた。
 それから、俺とマリリとゴーレム騎士団はずっと村で幸せに暮らした。

 ―完―
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