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最終章 勇者編

第115話 アレック死す

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 城壁に行くと大穴は更に広がりトンネルが切通しになっていた。
 付近は乱戦になっている。

「突撃」

 ティルダの号令の下、ゴーレム騎士団が魔獣に駆け寄った。
 馬ゴーレムに乗ったゴーレム騎士が槍を魔獣に深く突き立てた。

「抜剣」

 ゴーレムは槍を手放し剣で魔獣をなで斬りにする。

「後退」

 ゴーレムの騎馬が魔獣の群から後退する。
 ティルダの指示に従って他の獣人も後退した。

「射撃」

 クロスボウの一斉射撃が行われた。
 負けちゃられない。
 魔力ゴーレムがファイヤーボールを撃ちまくる。
 とりあえず、外から入った魔獣は片付いたようだ。
 勝ちどきが上がる。

 俺は城壁に駆け上がった。
 街の外は魔獣で溢れかえっている。
 これではこの街は危ないかも。

 とはいっても街の住人全てを避難させるなんてできない。
 とにかく魔力ゴーレムの魔法攻撃で出来るだけ殺していこう。

 魔力ゴーレムが魔法を撃ち始める。
 弱いのや遅いのは瞬く間に駆逐された。
 後に残るのは強いのや速い奴だ。

 ファイヤーボールの雨をかいくぐり、魔獣が一頭また一頭と壊れた外壁の箇所から侵入する。
 街の内側から恩金ばんざいの声が絶え間なく聞こえた。

 背後を振り返ると13小隊の人間が全ていなくなっていた。
 あいつら、前にでるなとあれほど言ったのに。

 俺が持ち場を離れると侵入の桁が違ってくるんだろうな。
 ティルダ、下の事は任せたぞ。

 魔力ゴーレムの魔法攻撃に恐れをなす事もなく次々に魔獣が押し寄せる。

「ライタ、擬似物質で城壁を作れないか」
『作れるが長くは持たないぞ』
「頼む」

 城壁の切れ目が擬似物質で埋まる。
 俺は城壁の飛び降り風魔法のクッションで着地した。

 ティルダのところに行くと、ゴーレム騎士団が使うゴーレムの半数が戦闘不能になっている。
 俺は魔力ゴーレムの魔法で魔獣を駆逐した。

「助かったわ」
「ポーションは足りているか」
「ええ。重傷の団員を下がらせろ」

 ティルダが団員に怒鳴る。

「死人は出たか」
「いいえ、ゴーレム騎士団はしぶといわ。ゴーレムが矢面に立つのだから」
「予備のゴーレムを出す」
「ありがとう助かる」

 俺が予備のゴーレムをアイテム鞄から出すと、ゴーレム騎士団は円陣を組んだ。
 これでティルダはとうぶん大丈夫だろう。

 俺は13小隊を探して戦場を駆け回る。

『城壁からこれ以上離れると擬似物質が制御できない』
「くそう、あいつらどこに行ったんだ」

 遠くを見るとアレックが血まみれで一人こちらに逃げてくる。

「早く。ライタ、当たらないように援護を」
『がってん』

 銃魔法の銃弾がアレックの脇を通過した。
 アレックを追いかけて来たのは虎型の魔獣だ。
 銃弾が当たるが分厚い毛皮で弾かれる。
 アレックが射線から外れたので、ミサイルの簡易魔道具をぶちかます。
 虎型の魔獣は逃げようとステップを踏むが、誘導の機能がそれを許さない。
 虎型の魔獣はミサイルを次々に食らい息絶えた。

「アレック。おい、しっかりしろ。今エリクサーを飲ますから」
「ぐふっ。おんきんばんざ……」

「ライタ超越者の知識で治せ。前に俺を治療しただろ」
『やってみる。離れて』

 アレックの傷が塞がり、電気ショックが施される。
 三度、アレックの体が跳ねた。
 でも、目を開けないし、息もしていない。
 俺はアレックをしつように揺さぶった。

『無理だよ、もう死んでる』
「魔力の根源に魂が召されますように。なんでだよ。なぜ死ななくちゃいけない」

 この国は間違っている。
 それよりもこの世界が間違っている。
 超越者はなぜ魔獣を生かすんだ。
 人間のみを生き残らせるのがそんなに傲慢か。

 大陸を二つ用意して、人間の大陸、魔獣の大陸と分ける事もできるんじゃないか。

「どうなんだ。答えろ超越者」
『どんな世界でも生存競争はしょうがない』
「ライタか、俺は納得がいかない。救えるものなら全て救いたい」
『それは傲慢だな。勇者にでもなったつもりか』
「そうか。せめて俺は勇者の真似事をしよう。壁の擬似物質が壊される前に魔獣を駆逐するぞ」

 俺は再び城壁に上がり魔法を乱射しはじめた。
 同時にありったけのミサイルを撃つ。

『壁が壊れる』
「壁の後ろに壁を作れ」
『魔力を動かす素が足りないよ』
「つべこべ言わずにやれ」
『了解』

 何か逆転のアイデアがないのか。
 もう選り好みしている時間はない。
 非人道的な兵器もどんと来いだ。

 まずライタの知識にあったのは化学兵器。
 でも、ライタは毒ガスの詳しい構成など知らない。
 元素の知識ぐらいしかしらない。

 核物質を作る気はない。
 どんな影響がでるのか分からないからだ。

 なら、細菌兵器だ。
 細菌は魔法では実現できない。

 基本に戻ろう。
 俺はゴーレム使いだ。
 なら、細菌ゴーレムだ。
 それは無理だから、ナノマシンゴーレムを作ろう。
 細菌ほどの大きさのゴーレムを作って、魔獣の体内に侵入させれば殺せるかも。
 魔力ゴーレムは体内に侵入出来ないから、ストーンゴーレムの小さいのだな。

「ライタ、ナノマシンほどの大きさのゴーレムだ。幾つ制御できる」
『一万でも十万でも。いや一億でも』
「やろう。でもどうやって作る。前例が無いって事は、無理って事だろ」
『こんな時の為に顕微鏡魔法がある』
「フィギュアの目を彩色していたあれか。それがあれば作れるのか」
『そうだよ。スキルはイメージが重要。小さな物をイメージするのはすごく大変だけど、顕微鏡魔法があれば簡単さ。まさかフィギュアのための便利魔法が兵器になるとは』

 レンズが組み合わさった顕微鏡が魔法で組みあがった。
 城壁をそれで見ると普通の石がまるで宝石のようだ。
 ライタがスキルを使ったのだろう、城壁が溶けて霧になって眼下に降りて行く。
 侵入したら、とりあえず血管に穴を開けまくれとライタに指示をした。

 まだか、まだなのか。
 魔獣は一向に苦しむ様子がない。
 魔獣が一頭横倒しになった。
 それを合図にばたばたと倒れ始める。

「倒した魔獣のナノマシンゴーレムは放棄。新しいのをバンバン作れ」
『これ最強じゃないか。ゴーレム小さいと魔力も殆んどいらないし』

 擬似物質の壁が解除されて、そこが灰色の霧に覆われる。
 魔獣はそれに突っ込んで、しばらくするともがき倒れた。

 もっと早く気づいていれば。
 たらればを言っても仕方ないのは分かるが。
 そして、悲しみの中でスタンピートは終わりを迎えた。
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