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第3章 貴族活躍編

第51話 ゴブリン、スタンピード

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 深夜。

「サンダー準男爵、起きて下さい」
「起きてるよ」

 ちなみにサンダーは俺の家名で、ライタから取った。
 起きていたのはライタが魔力視で監視していてドアの前に人が立ったからだ。
 俺はドアを開けて外にいた人間を見る。
 その人は騎士で兜に赤いフサフサした尾っぽの飾りがある近衛騎士だった。
 かなり焦っている様子が窺える。



「何事だ」
「ゴブリンのスタンピードです。その数一万を越えます」
「俺がなんとかしないといけないのか」
「貴族の参戦義務だとの事で」
「分かったなんとかしてやるよ。ちょうど冒険者したいと思っていたところだ」

 貴族になった日に魔獣相手に戦争とはついているんだかついてないんだか。

「で状況は」
「ロレットの街がゴブリンに包囲されています。今は城壁で持ちこたえています。しかし、補給が断たれている為、中の住人が何時暴動を起こすか分かりません」
「じゃあ俺が補給物資をアイテム鞄で持って行ってやるよ。商人にアイテム鞄をありったけ借りて来い」
「辿り着ける保証はあるのですか?」
「相手はゴブリンだろう。空を飛んで行くさ」
「可能なのですか?」
「試した事がないから、これから試す」
「そんな無責任な」
「そんなに時間は掛からないよ。上手く飛べたら準備よろしく」



 俺は王都の門に近衛騎士を連れて行った。
 特例で門を開けてもらい外にでる。
 ライタと相談しながら、変形スキルでハングライダーの骨組みを作る。
 布を被せ、変形スキルを掛けてがっちり接着する。
 空中で布が取れたなんて事にはこれでならないはず、変形スキル様々だ。

 照明スキルでハングライダーの先に光をともした。
 そして、風魔法でハングライダーを少し浮かす。
 本物はもっと軽いとライタは言うが、風魔法の補助があるので重さは感じない。
 近衛騎士は松明を持ち、目を丸くして推移を見守っていた。
 ハングライダーを上昇させる。
 100メートラ程上昇すると耳がキーンとした。
 唾を飲み込み、耳を正常にもどしてから、滑空を始める。
 フラフラするが風魔法で微調整して安定させた。
 始めてだが飛べている。
 十分ほど空を飛び近衛騎士の元に着陸。

「どうだ、上手くいったろう」
「凄いです。上の方にかけあってアイテム鞄は用意させます」



 二時間ほどで準備は整った。
 アイテム鞄を十個ほど体に巻きつけ、夜のフライトと洒落込む。
 大体10メートラぐらいの高さだろうか、照明スキルを何個も起動しているので街道は見える。
 流れていく地表を見ながら、今度は昼間に飛びたいなと考えた。
 ライタによれば二人乗りもできるそうだ。
 女の子を乗せて空を飛んだら素敵だろうな。



 空が白くなった頃にロレットの街が見えて来た。
 街はアドラムの三分の一程度の大きさだ。
 街の周りにはおびただしい数のゴブリンがいて、城壁の上にはかがり火が焚かれていた。
 城壁の見張りと俺の視線が合い、見張りは腰を抜かす。
 そんなに驚かなくてもいいのに。
 ドラゴンだって飛べるのだから、人間が飛べたって良いだろう。

 城壁を越え大通りに着陸。
 手足をグルグルと回して身体をほぐす。
 身体の節々が変に疲れた。
 普段使ってない筋肉を使ったせいだろうか。
 そんな事をしていたら、警備兵が飛んで来た。



「あれは何ですか。空を飛ぶなんて」
「とにかく秘術だ。説明はめんどくさい」

 航空力学の説明なんてしている場合ではないだろう。

「補給物資を持って来た」
「補給物資ですとー。とにかく貴方は英雄だ」
「早く倉庫に案内してくれ。くたくたなんだ」

 俺は案内された倉庫を物資で満杯にした。

「これで街は救われます」
「夜通し飛んできたので疲れた。本当に眠い」
「では案内させて頂きます」

 警備兵は俺を高級そうな宿に連れていった。
 物資を運んだのが嬉しかったのだろう。
 だが、高級な宿は少し苦手だ。
 落ち着かないからな。
 疲れていたのだろう瞬く間に眠りにつき、日が高く昇る昼ごろに目を覚ました。



 宿の食堂で遅い朝食をとっていると、若い身なりの良い男が尋ねてきた。

「英雄殿の名前をお聞かせ願えるか」
「サンダー準男爵だよ」

「これは、これは、ロレット子爵です。本来なら城で持て成さないといけない所、失礼致しました」
「冒険者上がりだから気にしなくてもいいよ。敬語も苦手だから」
「じゃあ私もそのように。ところで軍はいつ救援に現れるんだい」
「下っ端の準男爵には知らされてない」
「今後も物資は運んで貰えるのかな」
「要請があれば、何度でも」
「それを聞いて安心した。てっきり見捨てられたと思ったよ」

「俺がゴブリンを蹴散らしてやろうか」
「できるかい」
「城壁の上から、魔法を一日中撃てば少しは数が減るだろう」
「おおっ、素晴らしい。どれだけの魔力量があれば可能なのか」
「そこは秘密だな」



 俺は城壁の上に立ち眼下のゴブリンに攻撃を開始した。
 並べた魔力ゴーレムに火魔法を撃たせるだけだ。
 百体もの魔力ゴーレムが一斉に攻撃する様は壮観だ。
 ゴブリンはどんどん駆除されていく。

「さすがだな。Sランクの底力ということか」
「ワイバーンの群れに比べればこの程度たいした事ないよ」
「これで父も浮かばれるよ」

 お父さん亡くなったのか。
 俺は親父に良い思い出がないからな。
 とにかく、敵を討てたのなら良い事だ。

「なら良かった」
「ゴブリンが攻めてきた時に篭城は無理だと分かり平原で迎え撃ったが結果は惨敗」
「結果論を言ってもしかたがないよ」
「あと三日出陣を遅らせれば、あるいは貴方が三日早ければ」

 そんな事言われてもな。
 三日前は貴族じゃないし、情報も入らない立場だからな。

「俺を恨むのは筋違いだと思うな」
「そうじゃないが、運命は皮肉だと」
「そうだな。運命は皮肉だ。親に見捨てられた俺が今じゃSランクの貴族様だ」
「そんな事が、運命はどうしようもないか。決めたよ私は貴族派を抜ける」
「それでどうするんだ」
「あなたのいる派閥へ入れてくれ。まさか貴族派じゃないだろう」
「うーん、困ったな。俺はフリーなんだ」
「じゃあ俺もフリーになる。頼んでも救援を寄越さない派閥なんて願い下げだ」
「困った事があれば言ってくれ。魔獣退治なんかだと頼りにしていいから」



 話が一段落した頃には眼下のゴブリンはまばらになっていた。
 俺の仕事は終わったと思ったので子爵に別れを告げる。

「帰るけど気軽に救援要請してくれ」
「私はこれから残党退治に打って出る」
「気をつけてな」
「おう」

 帰りのフライトは素晴らしかった。
 ライタの世界でハングライダーを趣味にしている人がいるのは納得できる。
 簡易魔道具を組み込んで売り出してみようかとも思った。
 その場合には落ちた時を想定して、パラシュートの役目をする簡易魔道具が必要だな。

 気分良く飛んでいたら風魔法を撃ちこんできた奴がいる。
 あの魔力の色はダリウスだな。
 ちょうど良い再戦といこうか。
 切り札も用意してあることだしな。
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