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第1章 禁忌活用編

第24話 刺客

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 今日はダンジョンはどうかと思ったが、長引くより短期決戦のほうが良い。
 当然の事のようにダンジョンに出かけた。
 今日は九階から続きだ。

 ウッドゴーレムが完全にお荷物になりつつある。
 魔獣の素早い動きについていけてない。
 魔法を遠距離から放つだけなら、ウッドゴーレムは不要だ。

 性能の良いゴーレムといえばミスリルゴーレムとトレント材を使ったゴーレムなんだけど。
 両方とも値段が高いので手持ちでは五体は揃えられない。
 後でトレント材の元となる魔獣のトレントを狩りに行くと決めた。



 魔獣を魔法で片付け通路に戻ると長髪で顔が良く見えない男が立ちふさがっている。
 ダンジョンでは場違いな白衣を着て口元が笑いをたたえていた。
 魔力の色は紫だ。

「いひひひ。ダンジョンの九階でソロとは元気な素材で嬉しいです」
「おま……えは……誰……」

 あれ声が出ないと思ったら倒れこんでいた。
 体がピクリとも動かない。

『毒を喰らったな。フラッシュ魔法撃つぞ。火魔法』

 俺のまぶたをウッドゴーレムが閉じると共に、ライタのフラッシュ魔法が放たれた。

「目が! 目が! 麻痺でスキルは発動出来ないはず」

 男の声に焦りが見える。
 ライタは口を使わずともスキルが発動できるのでまだ戦える。

「この私が引き分け。不本意ですが、一旦引かせて貰います。いひひひ……」

 男の笑い声が遠ざかっていった。



 危なかったな。
 男はきっと闇ギルドの刺客だろう。
 ところで毒は何時になったら抜けるんだ。
 仕方ないので、ウッドゴーレムに運ばせ、八階のポータルから地上に戻った。

 門番がいない、さては買収されたな。
 麻痺が解けなくてもゴーレムと魔法は使えるが、刺客には万全で望みたい。
 家に帰るのは闇ギルドにばれているから駄目だろう。
 しょうがない、スラムに逃げ込む手だな。
 魔力視で周りに人がいないのを確認してダンジョンを後にする。



 スラムは街の壁を背に街の外に存在していた。
 場所は南門と西門の間だ。
 門の近くは倉庫などで利用価値がある為に土地の権利者が存在していた。
 それ以外の場所は権利があやふやでスラムになっている。

 ティルダに聞いていた取って置きの隠れ家に身を隠す事にした。
 廃屋に身を横たえ、じっとしていると、突然廃屋の入り口から人の気配がする。
 刺客が来たかと思ったが、どうやら違うようだ。
 子供と思われるパタパタという足音が遠ざかっていった。

 しばらくして。

「知らない人が倒れているって聞いて来てみたら、フィルじゃないの。通りでゴーレムに見覚えがあるはずよ」

 ティルダの声だ。
 巻き込みたくはなかったんだけどな。
 黙っている俺に不審を抱いたのか、ティルダは寄って来て手足を確かめる。

「怪我はないわ。毒、喰らったのね。待ってて、いま解毒剤を持ってくるわ」

 ゴーレムが動き俺の財布から金貨十枚をティルダに渡した。
 ライタの奴、気が利くな。
 ティルダは駆け出して薬を買いに行った。

 今回の対策を考えた。
 毒使いの男は空気中に麻痺する毒を散布したのだろう。
 これからは、並列システムの一つを使い、風魔法で空気のタンクを作り、その中の空気で呼吸するようにしたい。
 それにこうなったら、冒険者ギルドで分かっている情報を貰って、闇ギルドに殴りこみを掛けてやるんだ。



「はぁはぁ、買ってきたわ。ところでこれどうやって飲ませるの」

 麻痺が少し解けて瞬きが出来るようになった俺はティルダが真っ赤に茹で上がっているのが見えた。
 ライタが念動を使ったのだろう薬の瓶の蓋が開き、中の液体が口の中に入ってくる。
 窒息しないようにあわてて嚥下した。

「スキルで飲めるなら早く言ってよ。変な想像しちゃったわ」



 三十分ほどで握力が戻ってきた。
 手を開いたり閉じたりして具合を確かめる。

「あー、あー。まだ、ちょっと変だ。ティルダ、ありがとう。命の恩人だ」
「困った時はお互い様よ」

「後一時間ぐらいで出て行くよ。闇ギルドの人間がくるかも知れないから、気をつけて」
「分かってるって。大丈夫よ、スラムなら隠れ家がいっぱいあるから」



 一時間後、俺はスラムを後にして、冒険者ギルドに向かった。
 丁度、お昼ご飯時の冒険者ギルドは閑散としている。
 俺は大変なのに闇ギルドと本気でやりあうの気があるのか疑問に思えた。
 文句の一つも言いたくなってフェミリの所へ行く。

「どうなってるんだ! 闇ギルドの件、進展してるのか」
「ちょっと声が大きいわよ。スパイは冒険者ギルドにもいるんだから」

 フェミリは小さい声で囁いた。

「で、どう」

 俺も小声で話し始めた。

「襲撃者含めて、もろもろの聴取は終わったわ。今は信用の置ける人を集めるよう通達したわ」
「おっさんはどうなった」
「彼ね。彼なら聴取は終わったけど、重要な証人だから厳重な警備が出来る所へ匿っているわ」

「待ってるのは性に合わないから、闇ギルドを攻めたいんだけど」
「今日の夕方ギルドに来て。襲撃に同行させてあげる」
「決行は今夜か」
「分かっていると思うけど、誰にも言っちゃだめよ」



 闇ギルドとの決戦の前にどうしてもマリリに会いたくなった。
 ルシアラの店に行くとマリリは窓の外を眺めている。
 俺が目の前を通り過ぎても反応しない心ここにあらずという感じだ。

 ドアを開けると女のゴーレム使いが家具ゴーレムを作り出し試しに躍らせている風景が見えた。

「よう、マリリはどうしちゃったの」

 俺は近くに居たルシアラに声を掛けた。

「商業ギルドの資格を停止されたんだ。おまけに資金も凍結さ」
「なぜ、そんな事に」
「ニエルの息子がな、マリリを訴えたんだ。ニエルの死に責任があるから賠償しろと」
「そんなの事実無根だろ」
「勿論、反論したさ。それでな、真偽官の都合がつくまで、さっき言った通りって訳だ」

 そんな事になるとは予想してなかった。
 かと言って俺が出来る事なんてないのだけど。

「マリリさん、聞きましたよ。災難でしたね。少しの辛抱だと思います」

 俺は窓際のマリリに話し掛けた。

「あら、いらっしゃい。そうね、くよくよしてられないわ」
「俺行くけど、気を落とさず頑張って下さい」
「あなたの元気な顔を見たら、もう少し頑張ってみようって気になったわ」

 俺が話し掛けた事でマリリが少しでも元気になったのなら、来たかいがあったというものだ。



 ルシアラの店を出て道で。

『あれでいいのか。闇ギルドの戦いに勝ったら、付き合って下さいとか言わなくて』
「良いんだよ。それにそういうのをフラグって言うんだろ」
『そうだな、死亡フラグは少ない方がいい』
「フラグになりそうだから、ライタにもお別れの言葉は言わない」
『うん、湿っぽくなるのはどうもな』
「戦いが終わったら何々するんだというのもフラグだっけ」
『そうだな』
「じゃあ、ティルダに借りを返してから戦いに行こう」

 西門の解体場は丁度オークが運ばれて来たところだった。
 ティルダが冒険者に交渉に行くが断られてしまったようだ。

 しょんぼりしているティルダに話し掛けた。

「今日はありがとう。お礼に魔導剣のお金を出世払いの証文なしで貸してやる」
「え、良いの。返せるあてなんてないよ」
「気にしなくて良いよ。お金なんて生きていれば稼げる。ティルダも無理して死ぬなよ」
「ありがたく借りておくわ。チャンスには飛びつかないとスラムから抜け出せないから」

 冒険者ギルドで金を下ろしティルダに渡して、死んだ時の金の受取人をマリリに指定した。
 これで心残りは無くなったと思う。
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