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第5章 魔戦士編

第282話 スイーツと、寒天と、タンポポコーヒー

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 開拓村からの報告書が届いた。
 奴隷になった魔戦士は渋々働いているようだ。
 働かないと食料が配給されないからだ。
 ラチェッタはまだ悩んでる。

 人間の欲は尽きない。
 たとえばこの国を支配したとして、次は隣国をとなる。
 管理するのに疲れるから嫌だというような人間は国家転覆など企てない。

 悩んでるラチェッタのためにストレス発散の場を用意した。
 喫茶店を貸し切ってスイーツ食い放題だ。
 リニアがいるからたぶん余らないだろう。

「呼んでくれなくっても良かったのに。ニやモ・クチセセン」

 仏頂面でトレンがそう言った。

「嬉しかったみたい。幸せって言ってるよ」

 リッツが小声で俺に教えてくれた。
 玉子の白身が好きだったわけじゃないんだ。

「わたし甘い物をお腹一杯に食べた事がなくって」
「ラチェッタのために用意した。腹を壊さない程度に食うと良い」

「僕も甘い物は好きだ。ラチェッタ、端から食いまくるぞ」
「はい」

 ベークがそう言ってクッキーを食べ始めた。
 太るぞ。
 ラチェッタは遠慮がちに食べ始めた。
 端から制覇するつもりはないようで、気に入ったのしか摘まんでない。

「お招きありがとう」
「ありがとうございます」
「コネクタとベスも心置きなく食べてくれ」

 今回の目玉は寒天だ。
 砂糖と果汁で色とりどりで甘く仕上げてある。
 天草は食べられてなかった。
 洗って乾燥を何回も繰り返さないといけない。
 手間が掛かるからね。

 だがこの世界には魔法がある。
 洗浄も天日乾燥も一瞬だ。

 何日も掛かる作業が一日で済む。

「寒天は太りにくいスイーツなんだ」
「確かに透明で食べた気がしませんけど。ゼリーにそっくりですわ。ただ歯ごたえはこちらの方があります」

 さすがレクティは食通。
 色々と知っている。

「煮凝りに似てるね。テリーヌにも」

 セレンは甘いゼラチンを使った料理は食べた事がないようだ。
 マイラは寒天に手をつけなかった。

「どうした?」
「スライムの記憶がちょっと」

 マイラが口ごもる。

「ストップ」

 リニアが止めた。
 何となく分かった。

「スライムは意外と美味しいのよ。知らなかった」

 とトレンの言葉を聞いてマイラが顔をしかめた。

「げっ。えんがちょ」

 きっとスライムはくらげみたいな味なんだろな。
 ただスライムが何を食ったのかで、食いたいかどうか変わる。

「やめやめ」

 リニアもこの話を嫌がった。

「寒天美味しいですね」

 ラチェッタは無邪気に寒天を食っていた。

「もう、別の新作はないの」
「平凡だけどカルメ焼き。砂糖と水と重曹で作れる」
「こういのがいい。なんとなく懐かしい味」

 カルメ焼きを頬張るマイラ。

「香ばしくて庶民の味といったところでしょうか」
「うん、砂糖高いから、気軽には食えないけどね」

 砂糖高いんだよ。

「私もこういう素朴な味は好きです」

 セレンにも好評だ。

「甘ったるくてちょっと」

 意外にリニアは駄目なようだ。
 ただそう言っても手は止まらない。
 体は糖分を欲しがっていて、脳が拒否している感じかな。

 本当はチョコレートを出したかったが、熱帯地方まで足を延ばすのは流石にためらわれた。
 その代わりにコーヒー味のクッキーを出した。

 タンポポの根を乾燥させて、コーヒーの代用品にしたのだ。
 さりげなく普通のクッキーの中に混ぜておいた。

「これは不思議な味ですわね」

 レクティがタンポポクッキーを食べて感想を漏らした。

「なんだタンポポじゃないの。お茶にしてよく飲んだわ」

 トレンが正解を当てた。

「トレンはタンポポ茶が好き?」

 リッツが聞いた。

「クッキーにすると変わって美味しいけど、飲み飽きたわ」

「苦みと香ばしさが良いね。俺は好きだな」
「兄さん、後でタイトさんにレシピを聞きましょう」

 タンポポコーヒーの作り方は簡単だ。
 根を掘り出して、乾燥させ粉にして、焙煎すれば良い。

 ディッブではタンポポコーヒーが人気か。
 タンポポは雑草だものな。
 育てやすいというのもあるんだろう。

「この味は確かにタンポポ。スラムで何も食うものが無い時お茶にしてた」
「侮辱しているの?」
「スラムは見下げた所じゃない。崇高でもないけどね。生活の場、それだけ」
「侮辱じゃなければいい」

 スラムではタンポポコーヒーを飲んでいたらしい。
 食うものがなければ雑草でも食うよな。
 タンポポコーヒーは前世では妊婦に好評だった。
 カフェインがないので、お腹の子供に影響がない。
 雑草とはいえ見下げるようなものじゃない。
 花も可憐だし。
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