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第5章 魔戦士編

第265話 トレンと、エキシビジョンと、正体

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 結局、おも研の新入生はラチェッタだけだった。
 謎の女の正体は分からずじまい。
 追跡は全て振り切られた。

 敵なら、そのうちになんらかのアクションを起こすだろう。
 学園は順位リーグ真っただ中。
 ラチェッタはパスだそうだ。
 ベーク、リッツ、ベス、コネクタは本選の1回戦で消えた。
 応援しがいのない奴らだ。

 マイラ達、婚約者の優秀さは彼らにはないようだ。
 戦闘技術は勉強とは違うから、まあそんな所だろう。

 あれっ、謎の女が出ている。
 トレンという名前らしい。
 審判が読み上げたので分かった。
 学園の生徒なんだな。

「トレン、頑張れ。ハニキクカ」

 なんちゃらミカカ語でリッツが声援を送る。

「ンラナ・ソチミ・シラ・ニカ。ノイイセ・ニカ・ナセ」

 リッツが続けて声援を送る。

「リッツ、なんと言っているんだ」
「分からない。頑張れって意味だと聞いた」

 分からんのか。
 分かったのはあの女、トレンとの接点がリッツにあるという事だ。

 戦いはトレンが相手をぶっとばして一瞬で終わった。
 何だかリニアの戦い方に似てる。
 身体強化系の魔法使いなのかな。

 2回戦、3回戦とトレンは危なげなく勝っていった。
 そして決勝。
 やはりワンパンだった。
 そして、リニアを見て指をクイッと動かした。
 上がって来いということらしい。

 俺は生徒会長のカソードにやって良いか聞きに行った。

「エキシビジョン・マッチをやって良いか?」
「そうだね。その方が盛り上がる」

「よし、リニア行け」

 舞台でトレンとリニアが向かい合う。

「スイヒイミキイ」

 どういう意味かは分からないが掛かって来いとかそういう意味だろう。

「両者構えて。では始め」

 審判の合図でトレンとリニアが消えた。
 次の瞬間、舞台中央で打撃音がして、パンチの応酬になったようだ。
 手が早すぎて見えないからだ。

 ダメージになっているかも分からない。
 そして、トレンが吹っ飛んで石の壁に叩きつけられた。
 壁はクレーターの様になっている。
 死んだか。

「勝者リニア」

 歓声が上がる。
 トレンは壁の瓦礫と埃を払って何事もないように歩いて舞台に上がった。

「カラ・コイ・シイハイチカイシ・コイソチナトイ・ラハ・ニミハイスニラス・トカスイミキカク」
「分かんないよ」
「力及ばず負けたと言ったんだ」
「開始前に言ったのは何?」
「敵討ちと言ったんだ」
「へぇ。覚えがないんだけどね」

 目を細めるリニア。

「その程度の者だったという事さ」
「教えて。私が殺したの?」
「いいや負けて国に帰って来た」

 リニアと戦ったが負けて国に帰ったのか。
 ありがちだな。

「わたくし、分かってしまったかも知れません。モヒカンの戦士に心当たりがないですか」
「思い出してきた。リニアと順位戦で当たって壁に叩きつけられて負けた」

 どこかの組織が作った人造人間かと思った奴だ。
 あの組織が動き出したのか。

「コンイ」

 そう言ってトレンは舞台から降りた。

「リッツ、気をつけろよ。トレンと付き合っていると改造されちまうかもな」
「トレンは良い奴だよ」
「まあリッツの好きだがな」

 でも改造人間にしてはおかしい。
 性能が上がっているような気がしない。
 それどころか弱くなったような。
 男性と女性という違いはあるから一概には言えないが。

「リッツの調査は継続します」

 レクティが小声で囁いた。

「学園の生徒ならどうなんだろ。怪しいのかな。怪しくないのかな」

 俺が呟くと。

「あのタフさは魔法を展開しているのと違うような感じですわね」

 レクティが囁く。
 俺もそう思う。
 バリアとかそういう物でないような気がする。

 思い出したが、モヒカンも魔法は唱えてなかった。
 トレンもだ。
 やはり、改造人間の線が有力だな。

「あの女、魔力の流れがおかしい」

 マイラがそう言ってきた。

「どうおかしい」
「ぐるぐる高速で体の中を巡っている」

 そういう改造か。
 モンスターも魔力で力を増していたりする。
 それに近いやり方だろう。
 リニアに近いとも言える。
 もっともリニアの体はモンスターで構成されているが。
 それには敵わないという事だろう。

 種が分かればこんなことかなと思う。
 リニアを超えない限りは脅威ではないのかもな。
 今は試験と腕試しと試行錯誤の段階なのかも知れない。
 敵になるなら容赦はしないが、話し合いでなんとかなるならそうしたいな。
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