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第4章 盗まれたスペルブック編

第206話 軍事演習と、ドローンと、セレンの料理

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「僕はあんな結末を認めない。財力など人間性には何にも関係ないんだ」

 授業が終わり、ベークがそう言ってきた。
 みんなが何事かと注目している。
 別にお前に認めてもらう必要はないんだが。

「用件があるなら早く言え」
「勝負のやり直しを要求する」
「どんな勝負がしたいんだ?」
「大将は戦闘に加われない100対100の軍事演習だ」
「なるほどな。俺とお前は指揮をとるだけか」
「そうだ」
「勝敗の判定は誰がやるんだ?」
「王家だ。もう話は通してある。この話、受けるよな。逃げたら卑怯者と呼ばれるぞ」

 王家が絡んでいるのか。
 別に社交界でハブられても別に問題はないが、ランシェの顔に泥を塗るのは避けないと。

「レクティ、すまないが、オルタネイトの兵を貸してくれるか」
「はい、喜んで、助太刀いたしますわ」
「では、10日後だ」

 全く、鬱陶しい奴だな。

「ベークを軽く調べました」
「仕事が早いな。どういう奴だ」
「ライト伯爵家の嫡子で、少しおつむが足りないようです。今までにも問題を起こしてます」
「そうだろな。そんな感じがしたよ。軍事演習は参謀が指揮を執るんだろうな」
「ええ、そうだと思います」

 良い事を考え付いた。

「俺は軍を動かした事がない。だが、どんな要素が必要かぐらいは分かっている」
「頼もしいですね。それで、どうするつもりですか」

「索敵と連携だ。武力が同じなら情報を握っている方が強い。俺なら魔法陣ラジオを利用するな。これで連絡を取り合う」
「敵も同じ事を考えたようです。ライト家から注文が入ってます。注文をキャンセルしましょうか」
「いいや、売ってやれ」
「連携の力が同じになってしまいますが」
「妨害電波を出す。妨害するのは容易い。周波数を合わせて強力な電波を出せば良い。それでもって自分たちの周波数帯は妨害しない」

「相手も同じ事を考えるのでは?」
「そうだろうな」
「結局、魔法陣ラジオは使えない事になりそうですね」
「俺には魔力通信機があるのを忘れたか」
「そうでした。サイラさんとマイラさんが、それで話をしていると聞きいてます」

「魔力通信機の妨害は難しい。何でかと言うと、魔法は召喚魔法だからだ。空間を無視して魔力が届く。途中で妨害出来ない。妨害するには魔道具の停止だな。俺には出来るが、ベークには出来ないだろう」
「なるほど。これなら勝てそうですね」

「まだまだあるぞ。魔道具の鳥を飛ばす。その鳥の視界を得れば、戦況が丸わかりだろう」
「ええ」

 魔道具の鳥、いわゆる偵察ドローンは今まで技術で出来る。
 サイリスを作った技術と、感覚共有と、浮遊する板を使えば簡単だ。

「指揮はオルタネイトの誰かに任せたい」
「わたくしにお任せ頂けませんか。一度やってみたかったんです」
「レクティの好きなようにやって良い。今回負けたら、お前はやり直しを要求したのだから、俺もだと言って、3回勝負に持ち込むさ。もちろん負けてやるつもりはない」
「ずるいですが、その狡さは良いですね」

 勝負の話を聞いて、セレンが俺の所にやってきた。

「私に手伝えることはありませんか」
「うーん、そうだな。兵士に料理を振る舞ってやれ。女の子の料理を嫌いな奴はいない」
「分かりました。私は役立たずではないんですね」

「100人分の料理を作るのは大変だろうから、他の人にも頼もうか。マイラとリニアとベスはやってくれそうだけど」
「いいえ、運搬は任せるかも知れませんが、作るのは一人でやってみたい」

 まず、高出力の魔法陣ラジオの発信機を手に入れた。
 これで妨害電波はばっちりだ。

 魔力通信機を作る。
 こちらはやった事のある作業なので簡単だ。

 ドローンも既存の技術で何とかなった。

 今日はドローンの試験の日だ。

 ドローンの魔道具を起動する。
 姿隠しが発動して、魔道具が消える。

 ふわりと浮かび上がっているはずだが、目には見えない。
 飛行音もしない。
 動かすと、ドローンの視界が見える。

「そこにいる」

 マイラがドローンを突いた。

「何で分かった?」
「空気の流れで。でも近くに来ないと分からない」
「達人には分かるのか。注意しておこう」

 テストは成功した。
 寮の厨房ではセレンが一生懸命、料理を作っている。

 みんなが集まった。
 試食会が始まった。

「なかなかいけるよ。いいお嫁さんになれるよ」

 と俺はおだてた。
 セレンは顔を赤らめた。

「75点」

 マイラの評価は辛口だ。

「もう少し塩気があったほうがよろしいかと。兵士は肉体労働ですから」

 そう、レクティが言った。

「私的には満足かな。これなら何杯でもいける」

 リニアは満足しているようだ。
 おおむね、好評だな。
 セレンは役に立ったのが嬉しいらしい。
 大量に作る為の下ごしらえを、張り切って始めた。
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