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最終章 ダンジョンから始まる解ける謎

第82話 ライムさらわれる

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 今度、魔獣は蝙蝠だった。
 やはり羽ばたきによって扇子せんすは役に立たない。

 ライムはどこだ。
 見ると聖騎士によってライムが連れ去られようとしていた。
 接近しようとするが魔獣が邪魔で出来ない。

「ライム!」
「わらわの事は心配するな……」

 ライムが猿ぐつわをされて連れていかれた。
 魔獣は全員とキラーホーネットのゾンビの活躍でなんとかなったが、ライムを連れ去られてしまった。
 厄介払いが出来たと思えばいいか。
 しかし、なんか気になる。
 妙に悟った感じのある子供だった。
 ライムの話が全て嘘じゃなかったら、その人生は不幸だろうな。
 人が全て敵なんて。
 俺を例外だと言った時の顔は安心した顔だった。
 笑みを浮かべていたと言っていい。

「どうしたらいいと思う」
「ライムちゃんを助けないの」
「そうよ。短い時間だったけど旅の仲間だわ」
「あたいは子供は助けるべきだと思う」
「あの子、闇魔法に嫌悪感がないのよね。とてもいい子だと思う」

「ああ、分かったよ。助けに行こう」

 ミディの案内でライムの後を追う。
 聖騎士の姿はなかなか見えない。

「方向はあっているのか」
「うん、ゴーストがこっちだって言っている」

 いた、聖騎士だ。
 だが、ライムの姿はない。
 キラーホーネットに襲わせた。
 聖騎士をヴァンパイアにして尋問する。

「女の子をどこに連れ去った」
「知りません」

 俺は聖騎士に詰め寄って胸元を揺さぶりたかったが、こらえた。

「ミディ、ゴーストはなんと言っている」
「あっちの方」

 探索を再開した。
 ゴーストが痕跡を追えているうちは大丈夫だ。
 そう思い込んだ。

 焚火をした跡が見つかった。
 ここで飯を食ったんだな。
 ミディが友達になった証と言って渡した髪留めがそこに落ちていた。
 方向は間違ってなかったようだ。
 俺は少し安堵した。

 何十と魔獣を倒して俺達は神殿に辿り着いた。
 ここが終着地点に違いない。

 神殿にはドラゴンが鎮座していた。
 ボスって奴なんだろうな。
 殺人バクテリアの扇子せんすで瞬殺した。
 あっけない。

「ふふふ、この時を待っていたぞ」

 男が三人物陰から出てきた。
 ライムが捕まっているのが見える。

「ライムを放せ」
「勇者にやられるのを光栄に思うが良い」

 そう言うと勇者は短剣を投げた。
 こんなの楽勝でかわせる。
 俺が避けたところ、短剣の軌道が変わった。
 誘導機能つきか。

「無駄だ。それからは誰も逃げられない」
「ならば」

 俺は短剣の軌道に手を突き出した。
 絶対当たるならこちらから当たりに行けば良い。

 短剣は手のひらに突き刺さった。
 短剣は俺の心臓を貫こうとゆっくりと手の平に深く食い込む。

「動く道具、リビングソードになれ【メイクアンデッド】」

 短剣はアンデッドになって、止まった。

「くそう。だが短剣はもう一本ある」
「やってみろ、さっきと同じ事だ」

「これを見ても同じ事が言えるかな」

 ライムが前面に押し出される。
 会話で考える時間を作るんだ。

「卑怯だぞ。要求があるなら言え」
「なに簡単な事さ。そこに棒立ちするだけで良い」

 ビーセスが俺に目配せをした。
 何か考えがあるのか。

「要求に従うぞ」

 俺は一歩前に出た。

「ふっ、念のためだ。聖域を生成したまえ【サンクチュアリ】」

 紫色のトカゲが勇者の背後から現れた。
 そして、サンクチュアリの効果でトカゲがビーセスの支配から抜けて、勇者達とライムを襲った。

「くそう、騙しやがったな。人質を殺してやる」

 勇者がライムに剣を突き立てる。
 そして、ライムが蹴り飛ばされた。
 ビーセスがぐったりとしたライムを抱きかかえこちらに走る。

「ライムに早く、貧者の楽音がくおんジュースを」

 俺は殺人バクテリアの扇子せんすを解き放ったが、サンクチュアリで扇子せんすは阻まれた。
 勇者の姿が分裂した。
 勇者の手の内の一つが分かったぞ。
 幻を見せる能力だ。
 勇者は短剣を振りかぶり投げた。
 どれが本物か分からないと俺以外の者なら言うだろう。
 だが、俺にはリビングエアが短剣の軌道を教えてくれる。

 手の平で短剣を受けアンデッドにしてやった。

「シャデリー、手榴弾だ」

 シャデリーが手榴弾を投げる。
 手榴弾の破片が勇者達を切り刻む。
 最初からこうすれば良かったな。
 だが、ライムが人質になっていたので仕方ない。
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