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第13章 闘技場から始まる争奪戦

第78話 勇者との対決

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 闘技場では武闘大会のトーナメントが開催されていた。
 俺も出るのかって。
 出ないよ。
 真打は最後に出るもんだ。

 勇者を殺すための仕掛けはもう済んでいる。
 後は実行する機会を窺うだけだ。

「美味い串肉はいらんかねー。熱々だよ。エールもあるよ」
「おう、一本くれ。エールもな」
「まいど」

 俺達は串肉を売るのに忙しい。
 四人が肉を焼いて、俺が客に運んだ。

 試合はというと重力の勇者がやはり圧倒的な力で勝ち上がっていた。
 いよいよ、決勝戦だ。

 決勝は風魔法使いと勇者だが、やっぱり重力の結界を抜けられずあっけなく勇者が勝った。

「彼方まで声を届けたまえ【ラウドスピーク】。勇者はジェノサイドの挑戦も受けられない臆病者だ」

 ネオシンクの信者のリーダーがスキルを使って声を闘技場いっぱいに届けた。

「俺が臆病者だと。相手してやる掛かって来い」

 俺は覆面を素早くかぶり、闘技場の舞台に躍り出た。
 肉を焼いていたフリーダークの四人が燃え盛る薪を投げ込んだ。

「何のつもりだ」
「赤外線よ。生きている熱線のリビングヒートレイになれ【メイクアンデッド】」
「サンクチュアリだ」
「はい、聖域を生成したまえ【サンクチュアリ】」

 遅い。

「うがぁ。熱い、焼ける……」

 重力の勇者は蒸し焼きになった。
 あっけなく、方が付いた。
 仕組みはこうだ。
 燃え盛る薪の赤外線をアンデッドにして勇者にぶつける。
 サンクチュアリに赤外線が当たっても赤外線は直進する。
 要するに逃げられないって事だ。
 光は重力の影響を受けにくい。
 そりゃ、ブラックホールほどの重力があれば別だが。
 いくら神器でも、そこまでの性能はないようだ。

 この世界の人間は赤外線を認識していない。
 赤外線を認識できる俺だけの技という事だ。

「勇者様の死を無駄にしてはいかん。全員で掛かるぞ」
「「「「「おう」」」」」

 聖騎士の一団がなだれ込んで来た。

「赤外線よ。生きている熱線のリビングヒートレイになれ【メイクアンデッド】」

 次々に蒸し焼きにされる聖騎士。
 辺りは人の焦げる嫌な臭いで充満した。

 聖騎士も魔法や矢でこちらを攻撃してくる。
 俺は貧者の楽音がくおんジュースを飲んで耐えた。
 ここが踏ん張りどころだ。
 お返しに手あたり次第焼き殺した。

 何人焼き殺したか分からない。
 突如、闇が溢れた。
 百人を殺したのだな。
 闇が晴れた後には黒い盾が残されていた。
 俺はそれを手に取って魔力を注ぐと、盾は俺の影に取り込まれた。

 聖騎士が放つ魔法を影が防ぐ。
 この闇の神器の弱点が分かったぞ。
 光で影を消すと使えなくなるに違いない。
 今、聖騎士に弱点がばれなければ問題ない。

 闘技場は阿鼻叫喚のちまたと化した。
 聖騎士は防御も完璧になった俺を見て、逃げ出す者も現れた。
 最後に闘技場に残ったのはフリーダークの面々とネオシンクの信者だけだった。

 勇者の死骸に近寄り、神器を探す。
 首にチェーンのネックレスをしていて、それが神々しい光を放っている。
 これだな。

 神器をアンデッドに作り替えて、俺はレベルは77になった。

「ジュサ、頼む」

 ジュサがチェーンネックレスを腐敗の剣で砕く。
 ネックレスはボロボロになって崩れた。
 終わったな。

「フリーダークさん。最高です。熱をアンデッドにするなんて、凄いですね」
「俺の知識ではない」

 そういえば赤外線を発見した人は誰だったんだろうな。
 元の世界に戻ったら、調べたいな。
 考えても詮の無いことだった。

「師匠が凄かったのですね」
「そうだな。教育に感謝だ」

 俺達は漬物工場に引き上げた。

「影の盾はシャデリーが使え」
「えっ、サクタが使わなくて良いの」
「弱点も分かっている。影がないと使えない。その点、シャデリーなら、闇魔法で影を作れるだろ」
「ええ、作れるけど。そうね、有難く使わせてもらうわ」

 さあ、闇の神器の隠し場所はあと一か所だ。
 予想では近接攻撃に防御とくれば、次は遠距離攻撃だろう。
 帰ってダンジョンの情報を集めないとな。
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