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第10章 ドラゴン退治から始まる同盟の兆し

第60話 支配の鞭

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 病院は半分ほど出来ていて活動を既に開始している。
 貧者の楽音がくおんジュースを定期的に卸していたので、活動自体している事は知っていた。
 待合室があり、奥には診察室。
 いたって普通の病院だ。

「貧者の楽音がくおんジュースは本日の分は終わりです」

 看護婦が声を張り上げた。

「そんな、期待してたのに」

 まだまだ、供給が追いついてないな。
 マンドラゴラヴァンパイアの数を増やすと血の供給とホムンクルスを増やさないといけない。
 現状では無理だな。

 すり潰しは開拓地の誰かに頼むとしても、何ともならんな。
 その時俺はある事を閃いた。
 ただ、これをすると教会が本腰をいれる危険性がある。
 しかし、いまさらだよな。毒食わば皿までか。
 よし、おりを見て実行しよう。

 開拓地にペガサスヴァンパイアに乗って帰り血を与えていると、鳩が一羽、飛んで来るのが見えた。
 また、救援依頼か。
 手紙を読むと領主が雇った冒険者の報告だった。
 領主は主だったドラゴンの巣に偵察として冒険者を派遣していたらしい。
 その冒険者が一斉にドラゴンが何者かによっておびき出されたと報告してきた。
 その数なんと八頭。

 冒険者はドラゴンの後をつけ、ヴァンパイア領主の治めているシュジュに進軍中だと全員が報告を送ってきた。
 いっぺんに八頭はきつい。
 これは総力戦になるな。

 眠っているドラゴンヴァンパイアを四頭起こし、フリーダーク全員で出撃した。
 空を飛んで来るドラゴンに接近。

 ジュサが停止の矢を撃つ。
 相手のドラゴンは錐揉みして落ちていった。
 人が乗っていたようだが、この高さでは助からんだろう。

 しかし、予想に反して一頭は体制を立て直した。
 ドラゴンは陸を歩く事にしたようだ。
 隊列を組んで八頭のドラゴンが都市に迫る。

 俺は少し離れた所にリビングショットの香車きょうしゃを設置。
 敵を待ち構えた。

 ドラゴンが来たのでジュサが停止の矢を放つ。
 シャデリーはスリープを、ビーセスはドラゴン二頭に戦いの指示を出した。
 俺はドラゴンヴァンパイア達に停止したドラゴンの止め刺すように指示。
 初撃で三頭の敵ドラゴンをやっつけた。

「なぜだ。なぜ計画通りにいかない」

 ドラゴンに乗っているイントスが喚いていた。

「そんなの分かっているだろ。計画は所詮、予定だ。いつも予定通りとはいかないのさ」
「その声はカバネ商店の店主。あなたが黒幕でしたか」
「みんな逃がすなよ」
「おう」
「ええ、逃がしません」
「正体を知られたらね」

「ふん、方陣を組め」

 イントスは鞭を鳴らし、そう命令した。
 ドラゴン四頭がイントスが乗っているドラゴンの前後左右を囲む。

「甘いな。行け、香車きょうしゃ

 砲弾が風を切り裂いて敵ドラゴンに風穴を開ける。
 イントスの乗っているドラゴンも死に、イントスがドラゴンから落ちる。
 残ったドラゴンは皆がさくっと片付けた。

「この支配の鞭だけは……」

 そう言ってイントスは息絶えた。

「支配の鞭って何だ?」
「噂では教会は魔獣を従える神器を持っているらしいぜ。それなんじゃねぇか」
「ほう、使ってみるか」

 俺は鞭を手にとってビーセスが支配しているドラゴンを叩いた。

「お手」

 ドラゴンは知らん振りしている。
 これ、どうやって使うんだ。
 取り説を寄越せと言いたい。
 とりあえず後回しだ。

 それより、死んだドラゴンはどうするかな。
 全部をアンデッドにすると魔力が足りない。
 というよりも今日動かしたドラゴンヴァンパイアの魔力の補充だけで手一杯だ。
 今レベル67だから、アンデッド用に三体確保すれば良い。
 しかし、時間が経つと死体が劣化して経験値が下がる。
 巨大冷蔵庫よ、やって来い。
 来るわけ無いよな。

 ちょっと良い事考えた。

「ドラゴンヴァンパイアよ、死んだドラゴンの血を吸え」

 これでドラゴンヴァンパイアの魔力の補充は充分だ。
 二体は今の魔力でドラゴンヴァンパイアに出来る。
 残りの六体のうち二体は明日、ドラゴンヴァンパイアにしよう。
 劣化してても二体あれば一体分の経験値にはなるだろう。
 これで何とかなるはずだ。
 領主に要らない四体を素材として提供すれば、面目も大いに立つだろう。
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