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第7章 襲撃から始まる暗躍生活

第42話 薪拾い

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 チンピラ神官を派遣してネオシンクの信者を増やす予定だったけど、聖騎士が見張っているんじゃな。
 一戦交えてもいいが、もっとすっきり出来ないかな。
 こういう時は怪文書なんてどうかな。
 スラムの跡地に賭場が建つと知れば腹が立つに違いない。
 スケルトンあたりにビラを持たせてばら撒かせるか。
 ビラを撒かせた後はスケルトンを放置すれば魔力が切れてただの骨だ。
 後をつける事もできない。

 ビラ撒き作戦を実行にかかる。。
 ビラにはシュプザム教会の悪事を書きまくった。
 もちろん、ネオシンク教の宣伝も入れる事も忘れない。
 みんなでネオシンク教に改宗しようと締めくくった。

 ネオシンクの信者を増やすのは問題ない。
 問題はこれからだ。
 スラムの人間に門をぶち破らせて暴動を起こしたい訳じゃない。
 できればごっそり開拓地に入植してほしいだけだ。
 だが、今回は羊の大群でとはいかない。
 どうやって開拓地にまで来させよう。

 痕跡を残さない旅かぁ。
 ダークカーテンでは夜しか移動できないので、昼間ばれてしまう。
 呪術かなやっぱり。
 移動しても目立たない物ってなんだろう。
 集団で動くから見つかり易いのであって、荷馬車で二人ずつぐらいならなんとかなる。
 ただ、俺の荷馬車だと不味い。

 まだ店が関与しているのをさとられたくない。
 毎日配達に来ても不思議がられない品物は食料品だな。
 でもそれじゃ店が必要になる。
 店がいらない品物はっと。
 そうだ、薪だ。
 よし、その線で考えよう。

「バート仕事だ」
「何、兄ちゃん」
「薪を拾う仕事をスラムの人達にやらせたい。誰か取り仕切れる人はいないか。ほら、情報料の銀貨一枚だ」
「うん、顔役だね。スラムの人間を誰か捕まえて。それから、美味しい話があるから顔役にツナギを頼むと言えば大抵は連絡が取れるよ」

 馬車を新たに買って、チンピラヴァンパイアを一人連れ俺は新スラム街に入った。
 聖騎士が雇ったスパイの目をかいくぐる策として、ジュサにみすぼらしく見える呪いを掛けてもらった。
 これで俺達はどこにでもいる浮浪者だ。
 適当な新スラム街の住人を捕まえてツナギを頼んだ。
 ほどなくして案内されたのは木の香りも新しい掘っ立て小屋だった。

単刀直入たんとうちょくにゅうに聞く。もうけ話を聞かせろ」
「新スラムは形にはなったが。街に入れないと仕事が出来ないだろ」
「そうだな」
「俺が新スラムの住人を雇って薪拾いをさせる。薪は俺が街に行って売る」
「浮浪者のお前がか」
「このなりは変装だ」
「そういや、臭いがしねぇな。ゴミ溜めの臭いがよ」
「分かったか」
「いいだろう。毎月金貨一枚だ」
「先払いって言うんだろ。ほらよ金貨一枚だ」
「気前の良いお前に良い事を教えてやる。スラムの連中が欲しがっているのは金じゃねぇ食料だ」
「いい情報ありがとよ」

 次の日。
 荷馬車で新スラム街に乗りつけた。

「薪拾いをしたら、パンや肉を払うぞ」
「本当か」
「ああ、今日は早い者勝ち五人だ」
「俺はやるぞ」
「あたいもやる」
「俺も乗せてくれ」
「やらせてくれ」
「俺も」

「はいここまで」

「ちぇ、駄目だったか」
「くそう、出遅れたか」
「五人は少ないな」

「駄目な人には整理券を配るよ。明日はそれを持って来てくれ。はいはい、押さないで」

 なんとか上手く行きそうだ。
 薪を拾っても良い森まで荷馬車を走らせた。
 森で薪拾いの人達を降ろす。

「さぁ、薪を拾った拾った」
「なぁ、この仕事、胡散臭くないか」
「たしかにな。薪を拾うなら街の子供にも出来る」

 彼らの不安を取り除かないと。

「これは姿を変えた炊き出しなんだよ」
「そういう事か。聖騎士がうるさいから」
「そのとおりだ」

「善意でやってくれるのなら頑張らないと」
「おう、そうだな」
「あたいも頑張らせてもらうよ」

 一時間ほどでかなりの量の薪が集まった。

「引き換えの食料だ。腹いっぱい食ってくれ」
「荷馬車に木箱が積んであるから何かと思ったが、俺達の食料だったとはな」
「こんなに沢山」
「もう食えねぇ」
「ありがたいねぇ」

「すまないが帰りは歩いて帰ってくれ」
「くそっ、そういう仕事か」
「でも腹は一杯になったから、俺は文句ないな」

 薪拾いの人間は文句を言いながら、歩きだした。
 俺達は馬車で街まで戻った。
 門で鑑札を見せて中に入る。

 街に入る為に偽ったチンピラヴァンパイアの職業は武闘家。
 偽の魔法は身体強化だ。
 素の力で強引に誤魔化した。

 薪を扱う商店に薪を降ろし今日の仕事は終わりだ。
 本来ならこの後森に行き、開拓地に運ぶ人間を乗せるのだが。
 その人物の選定はこれからだ。
 ビラをスケルトンに撒かせてもっと不満を溜める。
 そして、薪拾いの常連から改宗に応じた人だけを連れて行く。
 こういう手はずだ。

 問題は改宗を拒否された場合だ。
 口封じに殺す訳にも行かない。
 スパイに改宗など求めたら、聖騎士にばれる事、請け合いだ。
 だから、スケルトンにネオシンクのペンダントをばら撒かせる。
 金が掛かるのでペンダントは紙にシンボルを書いて紐を通した物でいいかもな。
 改宗希望者はこれを着けると良い事があると噂を流せば良いだろう。
 ここまでやって改宗を拒まれたらスパイだとみなして殺して問題ないはずだ。
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