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第6章 チーム・フリーダークから始まる大脱出

第35話 脱出作戦

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 街に配達を装い侵入する。
 目的はもちろんコミュニティの顔役であるジュラムと会うためだ。
 ジュラムは集会があった宿屋の従業員らしい。
 俺はその宿屋に急いだ。
 ジュラムは宿の玄関で掃除をしていた。

「よう、話があってやって来た」
「お前、よくここに顔を出せたな。外で少し待ってろ。逃げるんじゃねえぞ」

 えらい剣幕だったな。
 騒ぎの元凶だから批判もやむなしだと思う。
 外でどうやって怒りをなだめようかと考える。
 考えがまとまらないうちにジュラムが出てきた。

「ちょっと、裏に来い」

 宿の裏手に回る。

「とりあえず聞いてくれ。すまん。考えが足りなかった。教会を壊滅させれば禁忌持ちの状況がよくなると思ったんだ」
「ふん、言い訳だな」
「じゃあ、怯えるように暮らすのが人間らしいと言えるのか」
「それに関しては俺も思うところはある。しかし、平和な生活を壊す権利はないだろう」
「森の奥に開拓地を作っている。そこなら怯える必要も無く暮らしていける」
「話のすり替えだな」
「よし、ならば責任をとろう」
「どうやって責任をとるんだ」
「領主をヴァンパイアにする。それで、生活を元に戻す」
「本当だな。撤回はできないぞ」
「今すぐとはいかないが必ずやる。それでとりあえず森の奥に避難して欲しいんだ」
「分かった。弟子を取った貸しと帳消しで避難に応じてやろう」

「トンネルを掘って脱出させるつもりだ」
「みんなの説得は俺がしてやろう」
「頼む」

 ふぃー、一時はどうなるかと思ったが何とかなった。
 これで一安心だ。

 店への帰り道、街の至る所に張り紙がしてあるのに気づいた。

「えーと、『教会壊滅の犯人、極悪人ジェノサイドの逮捕に協力を』か」

 俺達の通り名はジェノサイドか。
 ふと俺は雑貨屋が気になって立ち寄る事にした。

「邪魔するよ」
「おお、あんたかい。ここんところ、騒がしくっていけねぇ」
「そうかい。俺も迷惑しているところだ」
「我慢ももうすぐ終わりだよ。鑑定士が各家を回り片っ端からいぶり出すって事らしい」

 これは急がないと。

「すいません、急用ができた。また来ます」

 俺はアルバイトを頼むコミュニティのメンバーを尋ねた。
 ドアを乱暴に叩く。

「急用で神官様に会いたい。場所を教えてくれ」
「何よ。うるさいわね。急ぎみたいね。今、開けるわ」

 ドアが開けられ彼女が顔を出した。
 彼女から場所を聞いてスラムを目指す。
 スラムの入り口では検問を行っていた。

「次。見ない顔だな。スラムになんのようだ」
「薬をスラムの知り合いに持って行きたいのです」
「ああ、昨日は女だったが、今日は男か」
「ええ、街が騒がしいので女性では危ないと思い私が来ました」
「職業はゴーレム使いか」
「ええ、見ての通りです」

 兵士が俺の持ち物を改める。

「よし、通っていいぞ」
「ご苦労様です」

 検問は無事に突破できたな。
 隠れ家に行くと浮浪者に扮した見張りがいる。

「全てに平等を」

 俺がそう言うと見張りはベルを鳴らした。

「全てに平等を」

 そう見張りが返すと隠れ家のドアが開いた。

「踏み絵を踏んでから中に入るんだ」

 俺は躊躇ちゅうちょなく踏み絵を踏んで中に入った。

「大変な事になった。兵士が一軒一軒を調べて回るそうだ」

 俺の言葉を聞いて、ざわめきが起こる。

「そんな」
「そこまでして弾圧したいのか」
「横暴を許すな」

「みなさん、落ち着きなさい。彼の話を聞きましょう」

 チンピラ神官がそう言って信者らをなだめた。

「約束された平和な地があるのです。みなさんで避難しましょう」
「私が前もって楽園を用意していたのです。出立の準備を整えますよ」
「はい、神官様」
「流石は神官様だ」
「先見の明がおありだ」

 これで避難はなんとかなりそうだ。
 村に帰るとビーセスは既にビックモールを従えていた。
 ビックモールは軽トラぐらいの大きさがあり、これなら人が通れるトンネルを掘れると確信した。

「凄いじゃないか一日だぞ」
「あたいに掛かれば楽勝さと言いたいが、ミディに助けられた。索敵も魔獣を操って地表まで持ってきたのもミディさ」
「ほめて、ほめて」
「えらいぞ、ミディ。頭を撫でてやろう」
「もう、すぐに子供扱いする」

「ミディ、二人を呼んで来てくれ。すぐに出発する」

 問題はビックモールをどうやって街まで運ぶかだ。
 地中を進ませると当然の事ながらもの凄く時間が掛かる。
 昼間はダークカーテンも使えない。
 夜、地上を走らせても馬より遥かに遅いので、夜が明ける。
 荷馬車に乗せられる大きさと重さではない。

 さて、どうするかだ。
 まとめて運ぶのが問題なら分割してしまえば良い。
 アンデッドにするのだ。
 そして分割して輸送する。
 村には五台の荷馬車がある。
 急な肉の配達があると言って手伝ってもらおう。
 そうすれば夕暮れ前に街に着けるはずだ。

 そして、深夜までにトンネルを完成できる。
 だが、問題はまだある。
 街の外に出した人達をどうやって開拓地に運ぶかだ。
 とうぜん開拓地の場所は知られたくない。
 ダークカーテンの使用も一人では限界がある。
 コミュニティのメンバーが手伝ってくれて、全員に魔法を掛けたとしても、歩きでは夜が明けてしまう。
 ここは一つ呪術師にお願いするか。

「人間を動物にする呪いを掛けられるか」

 ミディに呼ばれてきたジュサに俺は尋ねた。

「できるけど。ただ、大きさは変えられないわよ。体力も歩く速さもほぼ人間のままね」
「よし、これで目処めどがたった」

 問題はなんの動物にするかだ。
 ゆっくり行くなら羊で良いだろう。
 帰りはゆっくりと羊の大群と帰るか。
 食料は野営地に家畜用の餌の備蓄がある。
 騎馬の集団なんかも利用するから備蓄は十分だ。
 金は掛かるけどしょうがない。

 俺は村に行き手伝いを頼んだ。
 村人は快く手伝いを引き受けてくれた。

 連日の徹夜だ。
 おっさんにはこたえるが、ここが我慢のしどころだろう。
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