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第5章 炊き出しで始まる布教活動

第28話 バクテリア

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 開拓地に行くと、丸太でへいができていて家の土台もできていた。

「凄いじゃないか。驚いたよ」
「大工の息子がいましたんで」
「それなら、今後は安心だな」
「寝ずに作業してやす。でも、最近は楽しみも出来たから、張りも出るってもんです」
「へえ、楽しみねぇ。俺に補充できるならしてやるが」
「そいつはありがてぇ。あの丸太がほしい」
「ああ、ゾンビ丸太か。何に使う」
「火に当ると身体の芯から温まりやす」
「そりゃ、闇属性だからな。分かったよ五本ぐらいあれば充分だろう」
「へい」

 俺は丸太をゾンビにしてやった。

「おい、ボスが火を恵んでくださる」

 丸太はあっと言う間に薪になった。
 楽しみが待っていると思うと仕事が早くなるのは生きている人間と同じだな。

「あったけぇ」
「ほぁー」
「あったまるぅ」
「しあわせー」
「天国が見える」

 チンピラヴァンパイア達の顔がとろけそうだ。
 ゾンビのたきぎにこんな使い方があるとは驚いた。

 やはり家で報告を聞くだけでは分からない事もあるな。
 また来よう。

 一通り見てから開拓地を後にする。
 そろそろ移住を開始する頃合だな。
 移住する人を選ぶにはアンデッドを嫌がらない人にしないと。
 コミュニティのメンバーは大丈夫だけど、差別職の神官はどうかな。
 アンケートを取ってみるか。

 次の日。
 今日ははまた炊き出しだ。
 聖騎士は来るかな。
 だが、来てもらわないと困る。
 教会の勢力を削ぐのが目的だからな。

 何時ものように炊き出しに列ができる。
 隣ではネオシンク教の勧誘が行われていた。
 今日は来ないのかな。

 炊き出しも無事に終わって、俺は教団の勧誘が見える屋根の上に腹ばいになっていた。
 そろそろ帰ろうかと思った時に聖騎士の一団がやって来るのが見えた。

 来た。
 奴らだ。

「今日はこの間とは違う。毒を防ぐ装備をしてきた」

 くぐもった声を張り上げる聖騎士。
 見るとみんなマスクをしている。
 マスクがあれば毒なら防ぐ効果が確かにあるだろう。
 でもアンデッドの細菌は防げないはずだ。

「やれ」

 黒い煙が聖騎士に向って流れる。

「ふっ、甘くみたな。お願いします」

 女性が一人出て来て詠唱を始める。

「毒を洗い流したまえ【クリーンシャワー】」

 雨が黒い霧を洗い流す。
 水魔法か。
 だが、そんな物は関係ない。
 水で重くなった細菌は水を食べてまた舞い上がった。

「そんな、クリーンシャワーの魔法が聞かないなんて。きゃあ……」
「マスクをしっかり付けろ」
「「「「了解しました」」」」

「駄目だ。俺の手が腐り落ちたぁ」
「こっちもだ」
「たすけて神様」

 腐り落ちる聖騎士達。
 思い出した細菌の名前。
 バクテリアだ。
 扇子せんすは人を食ってしまうアンデッドバクテリアだ。
 多分、腐肉を分解する菌なのだろう。

 ここで一つまた思い出せない疑問が生まれた。
 細菌とバクテリアはどう違うのだろう。
 名前を思い出してすっきりしたが、またモヤモヤが生まれてしまった。

 そんな事はどうでもいい。
 防護服か結界魔法でも持ってこないかぎりこの攻撃は防げないだろう。
 我ながら凶悪な手を考えついたものだ。
 何人かは圏外にいて逃げたが問題ない。
 報告でも何でもしてくれ。

 俺はまた信者と合流してスラムの隠れ家に行く。
 この間と違う場所だな。
 スラムの家だから、ぼろっちいのはデフォだが。
 隠れ家も何か考えないとな。
 人を迷わせる結界とかがあればいいのだが。
 生憎あいにくと心当たりがない。

 神官候補の教育は始まっているようだ。
 チンピラ神官と神官候補はおそろいの緑色をした衣をまとっている。
 俺がデザインした訳じゃない。
 ジュサが作ったのだ。
 シンボルの由来を聞かれた時に野菜の花だと答えたら緑色の神官服が出来上がった。

「今日も神のご加護で難を逃れました。神に感謝を」
「「「「神に感謝を」」」」

 俺はアンケート用紙を背負い鞄から取り出してチンピラ神官に渡した。
 俺はチンピラ神官に耳打ちをして、事情を説明。
 用紙は信者と神官候補に配られた。
 質問の項目はこうだ。

 ・禁忌持ちがいたらどうしますか。
 ・平等な村があったら住みたいですか。

 この二つだ。
 もちろん名前も記入して貰っている。

 字が書けない人もいるので、雑談しながら協力してアンケートを埋めているようだ。
 用紙が回収されたのでざっと目を通した。
 禁忌持ちに対する偏見は根深い。
 禁忌持ちに否定的な意見が多かった。
 神官見習いの大半はいい人ならかくまうだとか支援してあげたいと書いていた。
 村への移住はほとんどが住みたいとしていた。
 禁忌持ちに対する偏見を取り除かないとどうにもならないな。
 神官候補から偏見をもってない人を幾人か選んだ。

 先遣隊として移住してもらう事にする。
 しばらくはテント暮らしだが、頑張れ。
 家が建てば家もちだ。
 差別職が家を買えたなんて話は聞かないから、感謝されると思いたい。
 畑も作らないとな。
 だが、当分はもろこしヴァンパイアと魔獣の肉で我慢してもらいたい。

 残った信者の偏見は少しずつ取り除かないと。
 寓話を作るか。
 紙芝居にするのもいいだろう。
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