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第5章 炊き出しで始まる布教活動

第26話 炊き出し

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「はいはい、並んで。カワバネ商店の炊き出しだよ」
「メニューは聖水漬けと麦がゆよ。美味しいわよ」

 スラムでの炊き出しにはコミュニティのメンバーが協力してくれた。
 というよりも彼らの大半は定職が無い。
 どうやって暮らしているかと言えばスラムの住人と一緒でゴミ掃除、トイレ掃除、道の修繕の土方、くず鉄集めなどで生計を立てている。
 アルバイトのお誘いはお互いの利益だ。

「隣を使わせてもらいたいのですが」
「俺が責任者だがあんたらは何者だ」

 俺は偉そうな態度で接した。

「ネオシンク教団の者です」
「うちは代々シュプザム教だよ。さあ、帰った、帰った」
「そこをなんとか」
「駄目だ、駄目だ」
「道路は誰の物でもない。平等だ」
「ふん、好きにするさ。でも、できるだけ離れてくれよ」



 少し離れた所ではチンピラ神官が例のペンダントを配っている。
 配る時に挨拶に来た信者と悶着もんちゃくするところを見せて無関係を装った。
 うちも迷惑しているんですよという格好だ。
 コミュニティのメンバーには俺がネオシンク教の信者だと前もって話してある。

 ペンダントを配る様子をわざとしかめっ面をして観察する。
 来ているな聖騎士だ。
 平服に身を包んではいるが、あの特有の目つきは誤魔化せない。
 全ての人間を禁忌持ちだと疑っている目つきだ。

 その男のあとをネズミのゾンビにつけさせた。
 ネズミのゾンビはゾンビにしては素早いのが特徴だ。
 生きている時のネズミは素早く動くし、腰の高さまで余裕でジャンプする。
 ゾンビになってもそれは変わらない。

 ただ逃げる時にジャンプするくせいただけない。
 この前はそれで手足を切り落とされたようだ。
 今使っているネズミはジグザクに逃げるように教育したがさてどうだろう。



 炊き出しは合いも変わらず続いている。
 八芒星はちぼうせいのペンダントを着けた人間がちらほら見える。

「おい、お前。少し話を聞かせろ」

 俺はペンダントを隠すように着けた人間を呼び止めた。

「えへへっ、だんな何です」
「もう少し飯を食わせてやろう」

 俺はポケットからペンダントを出してチラッと見せた。

旦那だんなもですかい」
「そうだ、奥へ来てもらえるか」

 男と調理場横のテーブルに着いた。

「悪いな呼び止めて」
「いいってことです」
「聞きたいのは何で隠すようにペンダントを身に着けていたかだ」
「そんなことですかい。あっしは影魔法使いでして」
「ああ、差別職の」
「ええ、禁忌持ちほどじゃねぇが、迫害を受けましてね。いろんな事を隠す習性が身に着いているんでさあ」
「ネオシンク教にいる差別職の人間は多いのか」
「多いと思いますぜ」

 ふーん、差別職の人間を集めるのもおもしろいかもな。

旦那だんなも差別職でしょ」
「なんでそう思う」
「仕草に迫害を受けた者の用心深さがにじみ出ているんでさぁ」

 そうかな。
 そんな事を言われた事が無い。
 でも、そうなんだろう。
 いや、この男が鋭いのに違いない。
 よし、決めたこの男に仕事を頼もう。

「仕事を頼まれてくれるか。なに簡単な仕事だ。ネオシンク教に属している差別職の人間を探して、グループを作ってほしい」
「グループに何をやらせるお考えで」
「ネオシンク教の神官をやってもらいたいのだよ」
「へぇ、旦那は教団のお偉いさんで」
「ここだけの話だ。秘かに資金援助をしている。神官のなり手を探すよう頼まれているんだ」
「いいですよ。やらせてもらいます」

 男に活動資金として金貨三枚を渡して別れた。
 炊き出しをたたんでいるところにネズミが帰って来た。
 なんか変だなと俺は首をかしげた。

「そうか、尻尾がないんだ。切り落とされたのか可哀相に今治してやるからな。尻尾よ治れ【アンデッドヒール】」

 尻尾が新たに生えてきてネズミは嬉しそうにチュウと鳴いた。

「よし案内してくれ」
「チュウ」

 案内されて辿り着いたのは聖騎士の詰め所だった。
 やっぱりな。
 そうだと思った。

 この世界に新興宗教がないかといえば存在する。
 当たり前だ。
 人間のする活動だからな。
 シュプザム教会も派閥ができそれが分かれるなんてのはざらだ。
 噂ではシュプザム教会は新興宗教やたもとを分かった派閥を陰で潰しているらしい。
 聖騎士は所謂いわゆるところの僧兵。
 軍事力も持った宗教なんてどんな事をするかは目に見えている。
 これはネオシンク教とシュプザム教の戦いがいよいよ始まるのかな。
 ネオシンク教の集会所に急ぐ。

「撤収だ。急げ」

 おれは入るなりチンピラ神官に向って叫んだ。

「あなた何です。そんな事できる訳ないじゃないですか。軌道に乗ってきたところなのに」

 信者の一人が俺に食って掛かる。

「聖騎士が攻めて来る」
「それは大変ですね」

 チンピラ神官は余裕の表情だ。
 アンデッドには死の恐怖というものがない。
 これも記憶で動いているという説を後押ししている。

「神官様。どうしましょう」
「慌てる事はありません。こういう時の段取りは決めてあります。信者は今から配る赤い風車の絵を軒先に吊るすのです。私達はその家に集会の日時と場所を伝えに参ります」

「それだけでは裏切り者が出る恐れもあると思います」
「それも決めてあります。集会の入り口にはシュプザム教会のシンボルと主神の絵を用意します。それを踏みつけられたものだけが集会に参加を許されるのです」
「それはちょっと」
「何を言うのです。自衛の為の戦いはゆるされるです。これはあちらから仕掛けた戦いなのです」
「分かりました」

 ネオシンク教はこの日から地下に潜った。
 とは言っても集会は開くのだけど。
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